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2007年01月14日(日) 00時00分

人頼み 傷つかぬ恋読売新聞


書店の女性向けエッセーコーナーでは、赤やピンクの表紙の「恋愛指南本」で埋め尽くされる(東京・池袋のジュンク堂書店で)
指南本人気 恋文の代筆も

 「今の恋人への気持ちが揺れている女性に、恋文を渡したい。書いてもらえますか」

 東京・中野区の自宅兼事務所で、大崎智代子さん(33)は、京都府の男性(32)から電話を受けて、思わずたじろいだ。

 大崎さんの本業は女性向け雑誌のフリーライターだが、その副業はラブレターの代筆ビジネス。30分〜1時間かけ、電話や対面でじっくりと話を聞くなどして、相手への思いをわかりやすく文章にする。料金は1200字の場合、5000〜2万円だ。

 ライターとしての経験と、自分の恋愛・離婚経験を生かせると考え、昨年7月からインターネットで依頼者を募った。今回は、交際相手がいる女性への手紙だけに、「手助けして良いものか」と悩んだが、男性の必死な思いに断り切れなかった。

 全国最大規模の売り場面積を誇る東京・池袋のジュンク堂書店。3階売り場の一角には、「モテ」の文字が目を引く女性向けの恋愛指南本があふれる。「モテの極意☆59」「モテる人の法則」——。田口久美子副店長は「立ち読みしている様子も、みなさん真剣です」という。

 中でも、「小悪魔な女になる方法」(大和出版)は、シリーズ2冊で計約50万部も売り上げた超ベストセラーだ。

 著者は、銀座OL兼高級クラブホステスだった経歴で、「蝶々」というペンネームの人気エッセイスト。「男心に響くトーク術」と題する会話手法などを、自らの経験をもとに指南する。人気の理由について、蝶々さんは「手っ取り早い本音のアドバイスが必要とされているのでは」と分析する。出版社側も「若い世代は『もてるため』という直接的な内容にも抵抗がない」と解説する。

 代筆を依頼してきた男性は、表面的には積極的に見えるタイプで、相手は同じ会社で働く部下の女性(28)。「ここはあっさりとした内容が良い」と考えた大崎さんは、計1420字の長文の手紙用と、同じ内容を簡潔にまとめたはがき用の2種類の文章を作り、メールで送った。

 「あなたがいると、みんなが和んでいることに気付いていますか。僕はとても感謝しています」。大崎さんは「女性が重く受け止めないよう、はがきの方がよい」と勧めた。

 男性は結局、長文を選び、自分で手紙に書き写して、昨年のクリスマス前、女性に手渡した。年が明けても、はっきりとした返事はもらっていないが、男性は「僕を見る彼女の視線が、前よりも柔らかくなったような気がする」と、代筆ラブレターの効果を喜ぶ。

 大崎さんは代筆業について、自分のホームページ以外では特にPRしていないが、これまでに7人の男女から依頼があった。「ほとんどは、自分の気持ちを整理して表現することが苦手な人」と振り返る。

 「今の若い人は、失敗や拒否されること、認められないことにとても憶病になっている。それを避けようと、他人のノウハウに頼りがちだ」。夫婦問題などの相談に応じる「東京家族ラボ心理研究所」主宰の池内ひろ美さん(45)は指摘する。「恋愛は傷つきながら学ぶものなのに、失敗したくないと、ラブレターの文面ですら買ってしまう」

 他人に作ってもらったラブレターを渡すことに抵抗はないのか。

 男性は「きちんとした彼女への思いは持っている。ただ、それを手紙に書くのは苦手だから……。少ないチャンスなので確実に気持ちを伝えたかった」と語った。

お相手は身近な所に

 結婚相手は自ら探す。「恋愛結婚」は9割近くに達し、「お見合い」は1割にも満たない。国立社会保障・人口問題研究所の2005年調査では、結婚相手と知り合ったのは、〈1〉友人、兄弟を通じて(30・9%)〈2〉職場(29・9%)〈3〉学校(11・1%)。

http://www.yomiuri.co.jp/komachi/news/rensai/20070108ok03.htm