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2007年01月13日(土) 14時31分

受刑者癒やすDJ朝日新聞

 福井刑務所(福井市一本木町)で月1回流れるDJ放送「フェニックス510」が、受刑者の心を癒やしている。担当する市内のフルート奏者、山下千晶(ちあき)さん(43)の柔らかい語り口に、毎回数十件のリクエストがある。昨春から始まり「ちーちゃん」の愛称で親しまれている。家族への思いや悩みのメッセージも寄せられ、心の対話が生まれている。(本間沙織)

 山下さんは以前からフルート演奏などで同刑務所を訪問し、さまざまな分野で受刑者に助言・指導する篤志面接委員を務める。他の刑務所でもDJ放送がされているのを知り自ら提案した。

 毎月1回で、1時間の生放送。毎回テーマを決め、受刑者はテーマに沿った意見やリクエスト曲、曲にまつわるエピソードなどを書く。リクエストの希望などは平均80件寄せられる。すべてに目を通し、約10曲をエピソードなどと共に放送で紹介している。

 12月のテーマは「友達に裏切られた時、あなたはどうしますか」。受刑者からは「つらいけれど許すしか道はない。大きな人間になるために許しましょう」「大人になるにつれ損得勘定のつきあいが増える中、私の社会復帰を待ってくれている友人がいる」などのメッセージが寄せられた。山下さんは「過去と相手は変えられない。未来と自分は変えられる」という友人の言葉を紹介し、自身の体験を踏まえて語りかけた。

 福井刑務所は服役が8年未満の初犯の受刑者を収容するA級刑務所。全国の刑務所と同様に、過剰収容の問題を抱えている。現在の収容者数は約560人で、収容率は約130%に達する。定員7人の部屋に最多で9人、独房で2人が生活している状態で、就寝時には足の踏み場がなく布団が敷かれ、寝返りをうつのも困難な状態だ。

 しかし、DJ番組が流れている1時間は所内でもめごとは一切起こらないという。

 山下さんはパーソナリティーは初めての体験。「交換日記をする感覚」で受刑者と向き合う。相談では相手の意見を尊重した上で、自分の考えを話すことを心がけている。耳の痛い批判にも自分の言葉で真剣に答える。回を重ねるごとにリクエスト用紙いっぱいにメッセージが書かれるようになった。

 番組で紹介されたある受刑者(39)は「家族と過ごした日々を思い返してリクエストしている。思い出の曲が流れると、待ってくれている家族のために一日も早く更生しようという思いが強くなる」。別の男性(33)は「優しい言葉だけではなく、時には厳しいこともしっかり言ってくれるので、受刑者の社会復帰のことを考えてくれているのが伝わってくる」と感想を話す。

 山下さんは「過剰収容の所内で生活する受刑者のストレスを少しでも和らげ、更生に向けた糸口をつかんでほしい」。懐が深く、皆に慕われるような「おかん」となることが目標だ。「リサイタルでは観客の一瞬の拍手で通じ合える気がしましたが、放送では自分の話した内容で対話ができる。演奏だけでは分からなかったことをたくさん学ばせてもらっています」と話した。

http://mytown.asahi.com/fukui/news.php?k_id=19000000701130003