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2007年01月12日(金) 00時00分

ホテルラッシュ山谷 格安で便利…無線LANに女性専用階 ビジネスホテルの建設ラッシュが続く山谷地区=本社ヘリ「あさづる」から  東京新聞

 日雇い労働者が集まる東京・山谷。古い簡易宿泊所が立ち並ぶ中、外国人旅行者やビジネスマンらを対象にした格安ホテルの建設ラッシュが続いている。一般向けに改装する簡易宿泊所も目立つ。様変わりしようとしている山谷の街を歩いた。

 米国のニュース放送CNNが映る32インチの液晶画面テレビに英字紙、インターネット用のパソコンも二台−。

 台東区清川に今月七日に改装オープンした旅館「会津屋本店」=電03(6276)6308。新設したロビーには、外国人客を意識した備品がそろう。個室(三畳)の宿泊代は一人三千二百円。以前は生活保護受給者を一泊二千円前後で泊める簡易宿泊所だった。

 経営者の清田研史さん(33)は「このままでは先細りになる」と感じ改装を決断した。米国滞在経験を生かし、外国人やビジネス客に対応する宿に方針転換。英語版のホームページもつくった。

 山谷ではここ三年ほどの間に一般客向けのホテルが五軒新築され、さらに二軒が建設中だ。いずれも宿泊代は三千円台と格安だ。

 先駆けとして二〇〇四年に開業した荒川区南千住のホテル丸忠=電03(3802)6444=は、客の八割が出張会社員。女性専用階があり、就職活動の女子学生も増えている。三畳の部屋が一泊三千五百円。パソコンの無線LANや大浴場も備える。

 大阪から出張してきた会社員男性(26)は「インターネットで見つけた。これほど安い宿は初めて」と喜ぶ。都内で建設業を営む男性(52)は、三年近くこの宿に“住んで”いる。「長期割引だと月九万円。家具や電化製品も必要ない。アパートを借りるよりいい」

 このホテルを経営する横浜市の不動産会社は「東京や成田へのアクセスがいい。地価が安かったので、この価格でこのサービスを提供できる」と話す。二号店を建設中で「今後も供給過多にならない程度に増やしていきたい」。

 山谷はかつて「日雇い労働者の街」として知られた。不況や産業構造の変化などで、今は仕事も労働者も減り、「生活保護者の街」になりつつある。

 都によると、東京五輪前年の一九六三年には約一万五千人が山谷の簡易宿泊所に滞在していた。それが現在は約五千人に激減。かつて宿泊者の一割ほどだった生保受給者が、今は六割近くを占める。

 祖父の代から山谷で簡易宿泊所を経営する帰山哲男さん(56)は「生活保護者に頼るだけでは先が見えている。旅館組合の集まりでは、まずは一部屋ずつでもいいから一般の人を泊めていこうと呼び掛けている」と話す。「旅館が頑張って一般客を街に増やせば、新しい店ができて街が活性化する」という思いからだ。山谷の百七十軒の簡易旅館のうち、現在は二十軒ほどが一般客を受け入れている。

 山谷の旅館組合が中心となって昨年、英語版の浅草北部・山谷マップを十万部つくった。浅草や上野などに近く、外国人に山谷周辺の観光を楽しんでもらおうという目的がある。以前は「イメージが悪い」と敬遠されていた「SANYA」という文字も堂々と入れた。

 山谷には路上生活者が今も千人近くいる。宿泊所にいる生活保護者は部屋に引きこもりがちだ。

 地図づくりを手伝った東京大学大学院健康社会学分野客員研究員の義平(よしひら)真心(まごころ)さん(32)は「路上生活者支援を含めた地域活性化を考えることが必要」と考えている。例えば、空き店舗を使い、彼らに健康的な食事を出す店を開く。外国人旅行者が気軽に日本食を食べられる場所でもいい。

 宿泊施設で清掃などの仕事が増えれば、雇用を促進することも可能だ。既にそうして路上生活者が自立した例も数件ある。義平さんは「最も大事なのは、商店街や宿泊所、ホームレス支援団体などさまざまな立場の人が、地域活性化について信頼して話し合うことのできる関係づくりだ」と話す。

 今はまだ泊まるだけの旅行者、出張者たちが街に繰り出すようになったとき、山谷は大きく変わる可能性を秘めている。

 文・石井敬

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