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2007年01月11日(木) 23時40分

美浜3号機再起動朝日新聞

 11人の死傷者を出し、国内の原発史上最悪の惨事となった関西電力美浜原発3号機(美浜町)が10日、営業運転再開へ向けて原子炉を起動させた。事故から約2年5カ月。「遺族の意向を最大限尊重する」としていた関電だが、一部遺族からは「心の整理がつかない」との声も聞かれる。県警の立件が済んでいない中での運転再開に対し、市民団体はこの日、関電に強く抗議した。

 ◆自治体

 「なぜ、まだ臨界に達しないんだ」。県原子力安全対策課はこの日、美浜3号機に森阪輝次・安全環境部企画幹ら職員2人が立ち入り調査し、原子炉起動を監視した。午後1時に作業が始まり、1時間後には連続して核分裂が起こる「臨界」に達する予定だったが、夕方になっても核分裂が始まらない。留守部隊の幹部職員のいら立ちが募った。

 関電は夜になって急きょ会見。「核分裂反応を調節する冷却材のホウ素濃度を高く設定したようだ」と述べ、濃度を下げるため希釈していると説明した。

 山口治太郎美浜町長は、関電に対し改めて安全運転の徹底を求めた。町としては、91年に起きた同2号機の蒸気発生器細管破断事故の後も、関電に安全確保を呼びかけたが「(当時の)対策は十分ではなかった」と振り返り「今回は十分な再発防止対策ができており、私たちも評価している。もう大きな事故は起こしてはならないし、起きないと思う」と述べた。

 また「関電は(事故が起きた)8月9日を安全の日と定めた。人が代わり組織が変わっても、発電所がある限り、この日は原点に返る日だと思う。(関電と地元との間で)定期的に話し合いを持って注意を喚起していくし、それが事故を風化させないことだと思う」と話した。

 さらに「環境や資源の問題で近年、原子力への期待は高まっているが、それへの障害が事故。町民も原子力を理解し協力しているので、安全・安定運転を続けて、その期待を裏切らないでほしい」と話した。

 全国原子力発電所所在市町村協議会(全原協)会長の河瀬一治敦賀市長は「ご遺族や被災された方々の思いを関電はしっかり受け止め、これまで取り組んできた再発防止策を決して風化させることなく継続させていかなければならない。電力の安定供給の根幹は立地地域住民の安全・安心の確保の下に運転されることである。事故を二度と起こしてはならない」と求めた。

 ◆反原発団体

 市民団体「原子力発電に反対する福井県民会議」のメンバーら8人が10日、美浜町の関電原子力事業本部を訪れ、佐藤克哉広報部長に抗議文を手渡した。

 文書は「県警の捜査が終結せず、事故原因の全面的な解明と責任の所在が明確になっていない」とし、現時点での起動は「県民の不安を解消するどころか不信を助長するばかり」と指摘。91年の同2号機蒸気発生器細管破断事故などを例示して「口では再発防止といいながら重大事故を繰り返してきた。経済性を犠牲にしても安全性を最優先するという確約がない運転再開に強い懸念を抱く」と関電の企業体質を批判した。

 佐藤部長は「文書は社長に報告する。信頼回復に終わりはないので、これからも全社一丸となって取り組んでいく」と話した。

 同団体のメンバーからは「なぜ県警の捜査結果が待てないのか」「現段階で運転再開を強行するのであれば、再発防止対策がどこまで機能するか心配だ」などの厳しい意見が相次いだが、関電側は「遺族から一定の理解を得られたことなどを総合的に勘案し、運転を再開させていただくことになった」と従来の見解を繰り返した。

 ◆遺族の思い

 遺族の一部には再開に慎重な意見もあるが、ある遺族は「各遺族それぞれにいろんな思いがある。遺族全員が一致して『再開了承』となるのに越したことはない。ただ、いつまでも止めておくわけにはいかないと思う」と言い、ほかの遺族も「(運転再開に)はい、賛成とは言えないし、心の整理がついているわけでもないが、時間もたっているし、いつまでも反対とは言えないのではないか」と運転再開に一定の理解を示す。

 別の遺族は「(運転再開は)仕方ない。心の傷は癒えないが、何年か待てば変わるというものでもないから」とした上で、関電に対しては「二度とこういう事故が起こらないようにしてもらいたい」と注文した。

 ◆地元財界、企業

 松下正・美浜町商工会長(74)は「原発と共存共栄でやってきた我々としては歓迎している。3号機の事故後、商業などに影響が出ていたので、早く運転を再開してほしいと考えてきた。安全性が再確認され、関電の原子力事業本部が美浜に来るなど事故で良くなった点もあった。今後は決して事故を起こさず、安全な運転を心がけ、雇用や工事業者や物品の買い付け先の選定などで地元を優先し、地元の人材育成も支援してほしい。美浜原発は運転開始後30年以上が過ぎて老朽化が心配。最新の技術で3基とも建て替えることも関電に要望している」と話した。

 発電所で定期検査などの作業をしている下請け作業員の一人は「すでに3号機の配管の取り換えや点検作業は終わっている。これ以上止まったままでは仕事がなくなる。動かしてもらった方がよかった」と歓迎。関電の安全に対する意識については「以前よりは良くなった。もうあんな事故は起きないと思う。今の段階で関電の取り組みは本気だと感じる。継続するかどうか現場にいる作業員も注目している」と話す。

 ◆再発防止策

 関電は事故後、減肉による破損が起きた2次冷却系配管6268カ所の肉厚を超音波で測定し、問題個所を確認。55カ所の配管を炭素鋼からステンレス製に交換し、同じ素材も含めて計78カ所の配管を交換した。

 事故から5日後の04年8月14日に始まった第21回定期検査の中では、原子炉圧力容器の溶接部などに傷がないか点検し、冷却系統の配管を腐食に強い素材の配管に取り換えた。2次冷却水の水質を良くするため、給水加熱器や復水器の伝熱管の素材を変更した。

 関電は2月上旬に美浜3号機の営業運転を再開した後、4月上旬には再び定期検査のために運転を停止させる。核燃料などの冷却のための海水ポンプや空調装置の点検期限を守るために、2カ月程度の定期検査が必要だという。

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