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2007年01月11日(木) 22時47分

加藤紘議員宅放火、弁護側「テロ」、検察側「生活苦」朝日新聞

 昨夏の終戦記念日に、山形県鶴岡市にある加藤紘一・元自民党幹事長の実家兼事務所を全焼させたとして、現住建造物等放火罪などに問われた右翼団体幹部の初公判が11日、山形地裁(金子武志裁判長)であった。被告は起訴事実をほぼ認めたため、「動機」が主な争点になった。弁護側は情状に不利になるにもかかわらず、あえて犯行の計画性を強調し、右翼思想に基づくテロだと訴えた。検察側は、生活苦など個人的な事情が動機だったと指摘した。

 起訴されたのは、東京都文京区湯島、堀米正広被告(65)。昨年8月15日夕、加藤氏宅に侵入し、ガソリンをまいて放火。木造一部2階建て380平方メートルを全焼させたとされる。

 罪状認否で被告は「加藤氏に謝罪するつもりは一切ない」と述べた。

 検察側は冒頭陳述で、被告がギャンブルで多額の借金を抱え、病気で苦しんでいたことを指摘。ここ10年ほどは街宣活動をしておらず、思想的背景は薄いとして「二十数年間右翼らしい活動ができなかったので、最後は華々しく行動したいと決意した」と指摘した。

 これに対し弁護側は、被告が靖国参拝に批判的な財界要人の殺害を計画し、自宅周辺を下見していたことや、「ターゲット」として自民党幹部らの実名を書いたメモがあったことを、あえて公表した。

 弁護側は、犯行は右翼思想に基づく政治テロだと強調。被告が、「文芸春秋」06年8月号を読んで、加藤氏が01年、「8月15日に参拝すれば日中関係は必ずもめる。15日を外せば、何とかもめないで済む」と小泉前首相に提言していたことを知ったと説明。同年の参拝が13日に前倒しされたのは、加藤氏が中国の意向をくんで小泉前首相に工作した結果と受け止め、「公憤にかられて」標的に選んだとした。

 弁護士は一人で、被告の所属する右翼団体が紹介したという。

     ◇

 堀米被告の動機について、山形県警は事件当初から、「思想性は低い」との見方を強めていた。当時、公安当局は、小泉前首相の靖国神社参拝を批判する要人へのテロを警戒して、主要な右翼団体とその構成員を監視。加藤氏の事務所にも自主的な警戒を要請していた。

 だが堀米被告には目立った活動がなく、被告の所属団体を所管する警視庁と山形県警にも事前の情報はなかった。

 公判で明らかになった検察側と弁護側の動機立証上の対立について、右翼団体の動向に詳しい「一水会」顧問の鈴木邦男氏は「被告側は、発言の場を求めている。検察側は保守思想と今回の事件は、別のものだとしたいのではないか」と分析。「個人的には、思想が背景にあったと思うが、別の方法で表現して欲しかった」と話した。

http://www.asahi.com/national/update/0111/TKY200701110386.html