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2007年01月11日(木) 00時00分

延びる余生…熟年再婚読売新聞

この寂しさ 耐えられない

 大阪府摂津市の武田栄一さん(63)と、妻の政子さん(64)は、2人初めての正月三が日を、栄一さんの自宅でテレビを見ながらゆっくりと過ごした。

 「結婚式は誰を呼ぼうか」「なるべく多くの人に来てほしいわ」。昨年末までには2人の自宅を車で往復し、政子さんの服や食器も運び込んでいた。

 「年が近いから話が合うし、自然に過ごせる」。2人は入籍4か月余りの再婚者同士。挙式は3月だ。

 昨年1月、33年連れ添った栄一さんの妻が、約3年の闘病生活の末にがんで死去した。子どもに恵まれず、唯一の楽しみだった2人の会話がなくなった。

 それからは、自動車整備の仕事を終えて帰宅すると、テレビもつけず、ただぼんやりとしているだけの毎日。自炊が面倒になり、そのまま寝ることも度々だった。「このままではおかしくなる」。孤独と不安の日々が半年続いた。


「お疲れさまでした」。新生活のため、妻の政子さんは12月末、経営するスナックを閉店。夫の栄一さんと2人きりで杯を交わした(大阪市中央区で)

 そんな時、中高年向けの結婚相談所があることを新聞広告で知った。「妻に悪い」とは思ったが、あまりの虚脱感に耐えきれず、出かけた。同世代の交流会で打ちとけることはできなかったが、帰りのエレベーターに乗り合わせた政子さんに、つい声を掛けた。「疲れましたな」「ねえ」「せっかくだから、コーヒーでも飲みませんか」

 喫茶店で世間話をした後、車で来ていた政子さんが栄一さんを送ることに。自宅に寄った政子さんは、真っ先に仏壇に向かうと、妻の遺影に手を合わせてくれた。「この人なら、死んだ妻も自分も、大切にしてくれる」

 政子さんは18年前に離婚。独り身のまま、リース会社やスナックの経営など、仕事に没頭していた。だが、60歳を過ぎて考えた。「添い遂げる人が欲しい」

 そこで出会った栄一さん。「根がまじめで私を真剣に思ってくれる。一緒だと心地よい」という思いが強まってきた。いずれ、互いの介護も現実味を帯びるが、「今はただ、この生活を楽しみたい」という。

 中高年の離婚が増える一方で、熟年の再婚も急増している。2005年に結婚したうち、夫婦のどちらかが60歳以上の再婚者のケースは約1万900件。この10年でほぼ2倍になった。

 中高年中心の結婚相談所「ジェイエムアイ」(大阪市)の河原喜弘社長は、「平均寿命が延び、パートナーに先立たれた人の一人暮らし生活も長くなっている。新たな結婚生活を望む人が増えているが、周りの理解を得られず、結婚に至らないケースも目立つ」と指摘する。

 「誰かこの指に止まってくれませんか=静岡県、68歳男」

 福岡県内に住む由美子さん(66歳、仮名)は、インターネットの大手検索サイトの掲示板に目を留めた。03年に夫を亡くし、寂しさを紛らわすため、ネットを見るようになっていた。柔らかな言葉が気に入り、メールを送った。

 相手は、00年に妻を亡くした静岡県の隆さん(69歳、同)。「数日、誰とも話をしないことがある。耐えられない」。最初は互いに警戒し、名前も伝えなかったが、隆さんはエンジニアで海外生活が長かったこと、由美子さんは民生委員をしていることなどを少しずつ明かしていった。

 5か月後の05年秋、JR博多駅で初めて顔を合わせた。「とても優しい」「はっきり物を言う女性で新鮮」。会うのは月1回だが、メールと電話は毎日だ。

 だが、2人は「結婚はしない」と言い切る。隆さんは幼稚園児の孫に「おばあちゃんがかわいそう」と反発された。由美子さんも、2人の息子に打ち明ける勇気はない。亡き伴侶の仏壇もそれぞれある。「長年連れ添った妻は大事にしたい」。隆さんの考えに、由美子さんも賛成だ。

 しかし、会いたいという強い気持ちは、2人とも同じ。「このときめきは、いくつになっても変わりません」

◇ ◇

 「シングル」高齢者増加>

 一人暮らしの高齢者は、年々増加の一途。「2005年国勢調査」によると、65歳以上の男性のうち、10人に1人(約105万人)、女性は5人に1人(約281万人)が、死別や離婚などにより、シングルの生活を送っている。

http://www.yomiuri.co.jp/komachi/news/rensai/20070105ok03.htm