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2007年01月10日(水) 00時00分

三角合併外資は脅威か 東京新聞

 日本の経済界が恐れている三角合併が今年五月に解禁される。これにより、外国企業による日本企業の買収は以前より大幅に容易になる。外資の攻勢を憂慮する日本経団連は政府に対し、一層の規制強化を求めている。こうした日本の動きを外国はどう見ているのか。米国のM&A(企業の合併・買収)専門家に聞いた。(聞き手=経済部・桐山純平)

 ——日本経団連は三角合併により、敵対的買収を誘発すると主張している。

 「三角合併が活用されるのは友好的な買収でしかあり得ない。合併提案を検討するかどうかはあくまでも被買収企業の経営陣だ。経営陣にとって交渉相手が嫌だったら、話は先に進まない。外国企業による敵対的買収の脅威が話題となる中で、三角合併だけが極端に悪者にされたような印象だ」

 ——経団連は合併承認要件として、株主総会で総議決権の三分の二以上の賛成で決まる「特別決議」でなく、さらに厳しい「特殊決議」にするよう政府に求めている。

 「特別決議はもともと、議決権の過半数を持つ株主の出席が必要だったが、二〇〇二年の商法(現会社法)改正で議決権の三分の一の出席数まで緩和された。しかし、緩和されても簡単に承認されるとは思わない」

 ——外国企業が敵対的TOB(株式公開買い付け)を実施し、現金で三分の二以上の株式を取得して経営権を握った後、三角合併を活用することを経済界は危惧(きぐ)している。

 「そもそも敵対的TOBは日本で一度も成功したことがない。仮に、TOBに成功するくらいの潤沢な買収資金があれば、手続きが面倒な三角合併を用いることは考えにくい」

 ——三角合併が成立すると、国内の被買収企業の株主は、買収先の親会社である外国企業の株を手にする。その外国企業の株式は日本の市場に上場していないと売却できない。株主保護をどう考える。

 「まず、株主は合併提案に対して株主総会で反対できる。合併が承認され、外国企業の株を保有したくなければ、株式交換まで数カ月かかるので、その間、保有株を売ればすむ話だ。しかも、公正な価格で株式買い取り請求が会社法で認められている。株主保護をいうなら、国内の証券会社が海外で株式売却を円滑に行う仕組みをつくるのも一つの手ではないか」

 ——新年度の税制改正で、国内企業と合併する外国企業の子会社が事業と関連のないSPC(特別目的会社)の場合、国内企業の株主は株式交換で外国企業の株式を得ると売却されたとみなされ、実際に株を売らなくても課税されることになった。

 「合併のために設立したSPCを『ペーパーカンパニー』として乱用されるのを防ぐための措置と想像するが、SPCは制度の乱用ではない。課税逃れなどの悪用防止はまったく別の話だ。このままだと日本に既存の事業会社をもともと持っていなければ、制度が使いづらい」

 ——外国企業に買収される国内企業にどんなメリットがあるか。

 「ベンチャーなど非上場企業で特にメリットが大きいのではないか。外国企業の傘下に入れば、成長のサポートを受けやすい。また、新興企業にとって株式上場は決して簡単ではなく、創業者にすれば三角合併で交付された外国企業の株式を売却すれば容易に現金化が可能になる」

 ニコラス・E・ベネシュ 在日米国商工会議所の対日直接投資委員会委員長。昨年までは理事も務めた。カリフォルニア大学(UCLA)で法律博士号・経営学修士号を取得。1983年から94年までJPモルガンでニューヨークや東京などを舞台にM&A(企業の合併・買収)を手がけた。その後、M&A助言会社の社長を務める。昨年12月にライブドア社外取締役に就任。50歳。

<メモ>三角合併 株式交換による企業再編の一つ。A社がB社を買収する際、B社の株主にA社の株式の代わりにA社の親会社の株式を割り当てる手法。昨年5月の会社法施行で解禁される予定だったが、外資に対する脅威論が経済界で高まり、1年先送りされた。日本経団連は、三角合併の承認を難しくするため、定款変更など株主総会で必要とする「特別決議」でなく、議決権を持つ半数以上の株主が出席した上、議決権の3分の2以上の賛成が必要な「特殊決議」にするよう求めている。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20070110/mng_____kakushin000.shtml