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2007年01月07日(日) 03時03分

<国交省官製談合>天下り後の旧建設省首脳が仕切る毎日新聞

 国土交通省の官製談合事件で、技術系職員トップで省内ナンバー2だった旧建設省の豊田高司・元技監(70)や、山口甚郎(じんろう)・元国土地理院長(70)らOB3人が、業界に天下りした後に水門設備工事の受注調整に深く関与していたことが分かった。公正取引委員会も同様の事実を把握しており、歴代首脳による悪質な談合システムとみている模様だ。既に国交省の元課長補佐(57)の関与が判明しており、談合が省内で脈々と受け継がれてきた実態が浮かび上がった。
 関与したOBは、豊田元技監、山口元院長のほか、元関東地方建設局機械課長(71)。元課長補佐を含む4人は、いずれも技術系職員として入省し、水門設備工事の発注関連業務に携わった経験を持つ。
 関係者によると、水門設備工事は河川用、ダム用の2種類に大別され、豊田元技監、山口元院長はダム分野に関与。石川島播磨重工業、日立造船、三菱重工業が持ち回りで務めていた業界側の「世話役」と相談し、受注予定社を決めていた。一方、元機械課長は当時現職だった元課長補佐とともに、主に河川分野の談合に関与していた。
 公取委は、元技監らが業界団体などに天下りした後、各企業の営業担当幹部を取りまとめる談合の「仕切り役」だったとの見方を強めているとみられる。
 豊田元技監は62年に入省後、河川局長などを経て95〜96年技監。退職後の01〜05年ごろ談合に関与し、国交省所管の財団法人「日本建設情報総合センター」理事長や、国交省・経済産業省所管の社団法人「日本大ダム会議」会長などを歴任している(いずれも現職)。
 山口元院長は59年入省。技術審議官を経て88〜90年、旧関東地方建設局長(現・関東地方整備局長)を務め、91年国土地理院長を最後に退官した。01年ごろまで談合に関与し、現在は川崎重工業で技術面の助言をする「ストラテジックアドバイザー」を務める。
 公取委が適用方針を固めている官製談合防止法は現職時の関与を対象としており、天下り後に関与した3人のOBは、損害賠償請求などを受けないものとみられる。ただ極めて重要な役割を果たしていることから、公取委は業界側に手渡す排除措置命令書にOBらの役割を言及する方向で検討を進めている。【国交省官製談合取材班】
 ■「受注予定社を書いた紙見て元技監うなずく」
 「チャンピオン(受注予定社)を書いた紙を見せると元技監はうなずいた」。国土交通省の官製談合事件で、メーカー幹部は毎日新聞の取材に元建設省ナンバー2、豊田高司・元技監(70)の関与を証言した。豊田元技監は、山口甚郎(じんろう)・元国土地理院長(70)から、談合の仕切り役を引き継いでいたという。
 「これでいかがですか」。1枚の紙に工事名、入札時期、チャンピオン名などが並ぶ。近く発注される水門設備工事について、業者間で調整した結果をまとめた文書だ。談合の動かぬ証拠とも言える文書を、石川島播磨重工業、日立造船、三菱重工業の3社から選ばれた業界側の「世話役」が山口元地理院長に示す。元地理院長の了解なしには落札業者が決められないシステムだったからだ。01年ごろには、この役目が、豊田元技監に引き継がれたという。
 「文書を見せた時の反応が大事。山口さんや豊田さんがうなずけば、ほっとする。でも『考え直した方がいいんじゃないのか』と言われると大変。一からやり直しだから」。メーカー幹部は明かした。
 ■元技監、毎日新聞の取材に談合関与否定
 豊田高司・元技監は、昨年11月と12月の2回、毎日新聞の取材に対し、業者側から受注に関して相談を受けていた事実を認める一方、談合への関与を「ありえない」と否定した。一方、山口甚郎・元国土地理院長は「一切知らない」とだけ言い、取材を拒否した。豊田元技監との主な一問一答は次の通り。
 ——水門設備工事の談合にかかわったのか。
 「水門は二十数年前にも一度、公取(公正取引委員会)にやられているから、談合はないと信じている」
 ——業界は談合があったことを認めている。
 「それならやっていたのかもしれないが」
 ——あなたがOBとして談合を差配していたと証言する業者もいる。
 「あり得ない。それは誰が言っているんですか? ただ『ダンピングはいけないよ』と何度も言ってきたから、それが『談合をしろ』と(いう意味だと)誤解されたのかもしれない」
 ——落札予定社を指名したことはないか。
 「ない」
 ——特定の業者から「この工事が取りたい」などと頼まれたことは。
 「各社が(業界団体の)賀詞交換会の時に『あのダム、頑張りたいんですよね』と言って来るから『そうか、頑張れ。いい提案すれば取れるんじゃないか』と答えるだけ。他に言いようがないから」
 2人の了承を得ると、世話役が各社に連絡する。「A社に決まりましたので、よろしくお願いします」。入札でチャンピオンが最も低い金額を書き込み談合が完成する。
 技監は事務次官に次ぐポジションで、地理院長も本省局長級の高位だ。それが天下り後、業界ににらみを利かせる。「各社とも受注できるよう、2人に直接会って、希望を言いたかったが、会合で偶然会う以外、面会できるのは世話役だけだった」(メーカー幹部)
 「雲の上の存在」とも言える2人のOBが、談合の窓口役を務めるシステムは、発注業務に携わった歴代の技術系幹部だけが知る秘密だったという。山口元地理院長と同様に、旧地方建設局長を経験したOBは重い口を開いた。
 「自分には(仕切り役が)回ってこなかったということ。窓口役は1人でいいから」。事件の裏には、談合が脈々と受け継がれてきた国交省の深い闇が広がっている。【国交省官製談合取材班】

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070107-00000005-mai-soci