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2007年01月07日(日) 11時27分

早期釈放 被告にプラス 即決裁判、30分で判決京都新聞

 比較的軽い罪に問われた被告を対象に、初公判の日に判決まで終わらせる「即決裁判手続き」が昨年10月に刑事裁判に導入され、京都地裁でも既に8件の審理が行われた。起訴から2週間以内に執行猶予付きの判決が言い渡されるため、身柄を拘束されている被告には大きなメリットといえる。半面、あらかじめ猶予付きという「結論」が決まっているため、公判の儀式化への懸念も否めない。
 昨年10月上旬、ホームセンターで工具を万引して逮捕された男は1週間余りで起訴され、10日後に即決裁判手続きにのっとった初公判が開かれた。犯行に至る経緯や動機について述べる冒頭陳述は省略されて、弁護側、検察側双方の被告人質問のみが行われ、わずか20分余りで結審した。数分間の休廷を挟んで、裁判官は猶予付きの有期刑を言い渡し、男は釈放された。
 起訴事実に争いがないため、細かい点をめぐって審理がいたずらに長期化することを避けるのは大きな利点だ。しかし、傍聴していると、これまでの審理との違いに戸惑う面も多い。
 ◇争点”素通り“
 捜査段階の調書は「はじめから盗むつもりで店に入った」となっていたが、被告は公判で「買うつもりでレジに行こうとしたが、財布がないのでポケットに入れた」と主張した。普通なら争点になるところだが、あらかじめ「結論」が見えているせいか、検察、弁護側ともあっさりと被告人質問をやめてしまった。
 別の窃盗事件の審理では、余罪について取り調べを受けた被告が「朝の5時、6時まで調べを受け、半分寝ていた」と証言し、「言ったら楽になると思って、やってもいないことをベラベラしゃべりました」と続けた。これも通常なら弁護側が捜査手法について激しく追及するはずだが、弁護人は「起訴されていない余罪だった」として争わなかった。
 京都地検の幹部は「まだ制度に慣れていない面がある。もし審理の途中で問題が生じれば、通常裁判に移行できる仕組みになっている」と説明する。裁判の儀式化への懸念を示しつつ「短い時間でも的確な質問をするなどの技術を磨く必要がある」と話す。
 ◇社会的理解を
 京都弁護士会刑事委員会委員長の三野岳彦弁護士は「保釈制度が不十分な現状では、身柄の早期釈放が望める点は被告にとって大きなプラスになる」と制度を一定評価する。その上で「担当する弁護士も『手抜き裁判』と言われないか、と不安を抱えている。ただ、略式起訴や略式命令を手抜きと怒る人はいない。即決裁判も、通常の裁判とは全く違った審理として社会的に理解を得ていくことが求められる」との考えを示す。
 即決裁判手続き 万引や初犯の薬物使用、外国人の不法滞在などに適用され、法定刑の下限が1年以上の懲役・禁固に当たる事件は対象にしていない。懲役・禁固には必ず執行猶予が付く。2009年5月までに始まる裁判員制度の充実を図るため、争いのない事件にかける手間や時間を合理化する狙いといい、最高裁は一審の刑事裁判のうちの1割程度が対象になると試算する。昨年10月の1カ月間に全国の地裁で111人が即決裁判手続きで判決を受けた。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070107-00000007-kyt-l26