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2007年01月05日(金) 00時00分

(3)女装じゃない「赤」読売新聞

仕事中は作業服 夢はアイドル

真っ赤な服に身を包み街を歩くYUJIさん。「自分の納得した生き方をしたい」(仙台市で)

 「ナンバーワンよりオンリーワン」。人気グループSMAPが歌った「世界に一つだけの花」は、自信を失いかけている現代人の心を揺さぶった。その「オンリーワン」を目指す男が増えている。

 午後7時過ぎ、JR仙台駅構内。待ち合わせでにぎわう伊達政宗公の銅像前に、YUJIさん(31)はびっくりするような格好で現れた。

 体にぴったりした真っ赤な衣装。カウボーイハットの頭頂部から、羽根飾りがふわりと垂れ下がる。ファンデーションを厚く塗った肌に、赤い唇が浮き上がる。

 夕方になるとこんな格好で駅周辺に現れる。決まった行き先があるわけではないが、道行く人に姿を見せて存在感を示す。仕事中以外は、いつもこの姿だ。小さいころから赤やピンクが好きだったが、実際に着始めたのは25歳ぐらいの時。休日にはスカートをはくこともあるが、女装のつもりではない。「着たい服を着ているだけですよ」

 素顔はまじめなサラリーマン。勤め先の食品メーカーでは作業服に作業用の帽子をかぶっている。「〜っす」という話しぶりや声音はむしろ男っぽい。恋愛の対象も女性だ。「人の評価を気にした生き方をしたくない。男でも女でもなく、YUJIでありたい」

 「世界に一つだけ」は今の時代のキーワードだ。

 ナイキジャパンのインターネット上のオーダーシステムでは、スニーカーと靴ひもを好みの色で注文でき、好きな数字や文字も入れられる。100億通り以上の組み合わせが可能だ。「世界に一つ」を求める若い世代の人気を呼び、注文が相次いでいる。

 「自分らしさ」を追い求める志向は、女性よりも男性に強いという。社会学者らによる「青少年研究会」が2002年に行った調査によると、「自分らしさがないと自分が好きになれない」というのは男性に多い。これを測定する指標を10年前の調査と比較すると、女性は横ばいなのに、男性は約1・6倍に増えた。

 東京学芸大の浅野智彦助教授(若者文化論)は「男性の人生モデルがなくなる中で、自分らしさへのこだわりが女性よりも強まっているのではないか」と分析する。

 YUJIさんは数年前の面接にもこの格好で臨んだ。係長の小野貴志さん(38)は「こんなヤツ絶対に不採用」と思ったが、工場長が採用を決めた。しかし、一緒に仕事をしながら話をするうちに、小野さんはYUJIさんの生き方に理解を示すようになった。

 「男って、実益を伴わないことはやろうとしないでしょ。宇宙飛行士になりたかったけど、あきらめてサラリーマンになる、みたいな。男はいつも『一番やりたいこと』を置き去りにしてきているから、YUJIがうらやましい」

 30歳を過ぎてもアイドルを目指すと公言するYUJIさん。街を歩いていて、「がんばれよ」と声をかけてくれるのは、いつも中年男性だ。

 しかし、「自分らしさ」志向は、プラス面ばかりではない。「自分らしい仕事が見つかるまではフリーターでいい」という若者たちの増加は、その“副産物”と言えないか。

 明治大の諸富祥彦教授(臨床心理学)は「頭の中だけで自分らしさを求めている人ほど、それが何なのかわかっていない場合が多い」と言う。「まずは我を忘れるくらい何かに熱中する。そこで初めて自分らしさに気づき、自己実現ができるはずです」

日本の高校生「自分らしく」74%

 財団法人「日本青少年研究所」(東京)が2006年にまとめた日米中韓4か国の高校生意識調査によると、「学歴より自分の好きなことをしたい」という設問に「そう思う」と答えた日本の高校生は74%に上り、米国(43%)や中国(62%)を大きく上回った。「人にはどう思われても自分らしく生きたい」に肯定的な割合も高く(74%)、「自分」にこだわる日本の若者像が浮き彫りになった。


http://www.yomiuri.co.jp/feature/otokogokoro/fe_ot_07010501.htm