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2007年01月04日(木) 00時00分

ぼくらの時代<上> 71−74年生まれ 東京新聞

 1971−74年生まれの世代が注目され始めている。「団塊ジュニア」「第2次ベビーブーマー」ともいわれ、その数約800万人。団塊世代が第一線を退いた後のこれから、日本の社会、経済、文化の中心を担うのだ。彼ら彼女らの時代がやってくる。

 一九七一−七四年生まれは、ことし三十三−三十六歳になる。団塊の世代に次ぐ人口が多い世代だ。

 この世代は「団塊ジュニア世代」とも呼ばれているが、実際には団塊世代の子どもは多くはない。それよりも少し上の世代に当たる。出生数の多さから第二次ベビーブーマー世代と呼ばれることもある。

 人口が多かったために、激しい受験競争にさらされた。高度経済成長期に生まれ、小学生のころはバブル景気の全盛期。モノがあふれた豊かな子ども時代を送ってきた。そして「頑張れば報われる」と信じて努力を重ねてきた世代だ。

 ところが、社会に出るころになるとバブルは崩壊。一気に就職氷河期に。就職できずにやむなくフリーターの道を歩む者も多く出た。

 「あきらめ感」が強いのか、まじめでおとなしいという評も。一方で、バブル崩壊後の新しい生き方を必死に模索してきた世代ともいえる。淡々としているように見えて、内部に熱い気持ちを抱き、夢に向かって一歩一歩進む。だから才能豊かな人たちも多くいる。

 スポーツ界では、大リーグの松井秀喜選手(一九七四年生まれ)やイチロー選手(七三年生まれ)、芸能界では、歌舞伎俳優の中村獅童さん(七二年生まれ)やSMAPの木村拓哉さん(七二年生まれ)、女優の藤原紀香さん(七一年生まれ)ら。ほかに作家伊藤たかみさん(七一年生まれ)、囲碁の梅沢由香里さん(七三年生まれ)も。IT起業家の中にもライブドアの堀江貴文前社長(七二年生まれ)やサイバーエージェントの藤田晋社長(七三年生まれ)がいる。

 団塊世代のようなまとまり感はあまりないが、人口が多いというのは強み。少子高齢化が進む今後、社会の中心を占めるのは間違いない。新しい価値観、ライフスタイルを確立し、日本の将来を担っていく世代なのだ。

■映画監督 西川美和さん(32)

 「不景気が当たり前で、就職もできないし、常に乗り遅れている。うまくいってることに座りが悪いんですよ」

 若くして映画監督になった。二十七歳で初監督した「蛇イチゴ」は数々の賞に輝いた。昨年公開の「ゆれる」も評判となりカンヌ国際映画祭にも出品。順風満帆に見えるが「(仕事が)安定しているわけではないので、常に不安。今も学生時代と変わらない生活で、親も怒ってます」と笑う。

 大学卒業後、映像の世界にあこがれて、制作プロダクションの入社試験を受けたが、不合格。しかし、面接官だった是枝裕和監督から「フリーでもよければ」と声をかけられて映画の世界に。実は監督の才能はないと思っていたが、書くことには、少し自信があった。脚本を書くことで監督への道が開けてきた。それでも映画の世界は縦社会。「スタッフが言うことを聞いてくれるか、今でも怖い」と言う。

 「蛇イチゴ」「ゆれる」は、いずれも家族の中での微妙な心理がテーマだ。「団塊の世代のように集団で社会を変えようとしたり、バブル世代のポジティブなノリには引いてしまう。白黒はっきりした世界じゃない、間の色、そこが一番広いと感じるんです」

 彼女の作品テーマと世代のイメージが重なって見える。「男のようだとよく言われる。性別関係なくできるのが監督という職業だがまだ天職とは思っていない。将来、小説も書いてみたい」と可能性を見つめている。(吉岡逸夫)

 1974年、広島県生まれ。大学在学中から映画制作にスタッフとして参加。「ゆれる」は2月にDVDで発売される。

■文芸誌編集長 太田克史さん(34)

 「若者が読書しないと言うけど大うそ。書店に行くと若者しかいないでしょ。四、五十代よりよっぽど読んでいる」

 メールやブログに慣れた十−二十代は「テキスト文化」の“申し子”と力説。「自分が若いころに読んだ本を読んでいないからといって『読書離れ』と嘆くのは、送り手側の勉強不足」

 二〇〇三年、舞城王太郎や西尾維新ら一九七〇−八〇年代生まれの若手作家と、人気イラストレーターによる文芸誌「ファウスト」を創刊。一人ですべてを編集した。台湾版なども展開。書籍シリーズ「講談社BOX」も創設した。漫画も扱い「世界最強のレーベルを目指す。日本のポップカルチャーのインデックスにしたい」と意気込む。

 中高生のころにパソコンの洗礼を受け「世界は変わる」と予感した。「個人の力で世界を突破できると思えるのは、僕ら以降の世代」

 九〇年代は「日本が一人負けした時代」とみる。「冷戦終結で、欧州は歴史の痛みを乗り越えて結束を固め、米経済も上昇、中国は“西側”に接近した。日本だけが『明日』を信じられなくなった」。米国の大恐慌を体験した作家フィッツジェラルドらのように、“失われた十年”に思春期を過ごしたこれからの作家が「日本のロストジェネレーションになる可能性がある」と期待する。

 ゲームやアニメなど世界の若者たちが文化体験を共有しているからこそ日本発の「文学」にも新たな地平が開けると信じる。 (中山洋子)

 1972年、岡山県生まれ。講談社に入社後、社内公募でアイデアが評価され「ファウスト」編集長に。

■ルポライター 早坂隆さん(33)

 ジョークからみた日本人論「世界の日本人ジョーク集」がベストセラーに。素材は五十カ国で集めた。居酒屋などで「君の国のジョークを教えて」と地元客に頼んだ。「勤勉、優秀だが、集団主義、会社人間という対日観が分かり面白かった」

 二〇〇一年から二年間、ルーマニアに住んだ。崩壊したチャウシェスク政権が残したマンホール生活者たちを取材した。盗みを働きシンナー浸りの子どもがいる半面、厳しい生活の中でも夢を持ちジョークを飛ばして生きる家族にも出会った。

 外出禁止令下で、ジョークを楽しみながら過ごすパレスチナ人家族に接したことも。「家庭に笑いをもたらす父を、子どもたちが尊敬のまなざしで見ていた。ジョークの大切さを知った」

 自分の父親は団塊世代の会社員。「父の否定ではないが、会社にとらわれたくなかった」とルポライターに。大学卒業後、しばらく六畳一間のアパートで友人らと三人で共同生活。「誰も成し遂げたことがない仕事をしよう」と誓い合い、海外取材に飛び出した。

 旺盛な仕事ぶりだが、自分たちの世代を「戦後の混乱期を生きた父の世代のように、腹をすかせた経験がないためか、ハングリーさは乏しいかもしれない」とみる。

 イチロー選手は同い年。「彼のように、好きなことのためにはストイックで、海外への壁を感じない世代でもある。さまざまな分野で、そんな国際感覚を発揮できれば素晴らしいですね」
(古賀健一郎)

1973年、愛知県生まれ。ほかに「ルーマニア・マンホール生活者たちの記録」など著作多数。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/thatu/20070104/mng_____thatu___000.shtml