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2006年08月03日(木) 00時00分

作る側と使う側でルールの共有を読売新聞


福田美蘭「(c)」(1999年)「ミッキーマウス」などの顔が(c)マークで隠されている

 現代美術の人気アーティスト、鴻池(こうのいけ)朋子さんに“お蔵入り”した作品がある。オペラ音楽に触発された映像を作り、個展で発表。しかしCDの発売元に照会すると、歌手の著作権が壁になり、作品販売も公的な場での展示も不可となった。

 画家の福田美蘭さんは、名画や現実を引用・翻案した作品で知られる。1998年に画集『ピクチュアレスク』を出版したが、作品の一部を切り抜いた形で掲載せざるを得なかった。出版元はディズニーの動物などを描いた絵を、掲載しないよう提案。しかし、あえて問題部分を白ヌキで出すことにしたのは、「問題を知って欲しかったので。自分も画家として、著作権とまっすぐ向き合いたかった」と説明する。

 その後、著作権を主題に作品を発表するが、展覧会図録でも同じ事態が起きた。ある美術館では、所蔵品を引用して制作する企画展で、選んだ作品に「著作権が難しいから」とストップがかかった。

 「作った人の権利は尊重されなければならない。でも私が出合った壁は、ディズニー社や作家本人ではなかった。それが引っかかるんです」。後難を恐れて自己規制する出版元や美術館。それが見えざる制度となって、表現者を束縛する。「著作権法は〈作った人〉の保護を優先してきた。これからは〈作る人〉の権利も考えて欲しい」と福田さんは話す。

 鴻池さんの作品は、昨年12月から「コモンスフィア」というウェブサイトに音抜きで公開された。米国のローレンス・レッシグ教授が、インターネット上の著作物を共有するルールとして提唱した「クリエイティブ・コモンズ」(CC)の活動を受け、実践普及のために作られた日本のサイトだ。

 CCは各国の著作権法の下で、利用許諾をあらかじめ決めておく考え方。著作権者が「帰属表示」「改変禁止」などの条件をマークで示し、使い手はそれを守って利用する。鴻池さんは自作の改変、営利目的の2次利用まで認めた。

 同サイトを編集するドミニク・チェンさん(日本学術振興会特別研究員)は、「ものを作ったり、批評し合ったり、共有したりという、自然な状態を普及しようとしているだけ」と話す。現代美術の拠点「NTTインターコミュニケーション・センター」(東京)のサイトでも、シンポジウムなどの活動記録を、CCライセンス付き動画で公開する仕事を手がけた。

 同様の動きは世界に広がる。イギリス放送協会(BBC)は昨年、過去の映像をCCと似た条件で公開した。発展途上国に贈るパソコンの搭載ソフトなど、活用も多様化している。

 その一方、インターネット上には無断使用の画像が氾濫(はんらん)し、著作権を守る側はモグラたたきのような対策に追われている。日本美術家連盟の担当者は「集中処理する機構があれば助かる」と話す。さらに「利用する側も、著作権者が誰なのか分からず、出版社などに聞いても個人情報を理由に教えてもらえないことがある。著作権情報をストックし、共有する必要を感じる」とも指摘する。

 作る側、使う側が前もってルールを共有する場が拡大すれば、著作権をめぐる議論もいま一歩、前進するに違いない。

http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20060803nt05.htm