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2006年08月02日(水) 00時00分

直前『地震速報』で『パニック』本当? 東京新聞

 地震の大きな揺れが来る寸前に警報を出す「緊急地震速報」が一日、鉄道やゼネコンなど一部の民間企業に導入された。広く市民に流すのは来年以降に先送りされ、速報が威力を発揮する大地震があっても多数の一般市民は“蚊帳の外”だ。気象庁は「パニックや混乱の防止」を理由に挙げるが、専門家からは、パニックを心配し過ぎる「パニック幻想」だとして「市民への提供を遅らせたことは将来に禍根を残す」との批判も出ている。 (社会部・宇佐見昭彦)

 グラッと大きく揺れる寸前に「地震が来ます」という情報を市民が聞けば、机の下に潜ったり、倒れそうな家具から身を守ったり、火を消したりするなどの危険回避の行動ができる。だが、同庁は、劇場や百貨店で人々が出口や階段へ殺到するなど「無用の混乱やパニックを起こす恐れがある」と、一般への情報提供に慎重な姿勢を当初から固めていた。

 有識者を集め今年五月まで五回開いた検討会。昨年十一月の初会合で、座長の故・広井脩東大教授は「すべての国民に一斉に伝えることが社会的に妥当なのか」「使い方によっては社会的混乱につながる大変微妙な情報だ」と、議事の前にくぎを刺した。一般提供を遅らせる二段階導入が同庁から提案され、先行導入分野と一般の区分などは話題になったが、第二回検討会で承認された。

 ●「命の差別だ」

 ところが、首相官邸に「一般提供が遅れるのは不可解」「命の差別だ」などのメールが市民から届く。そのため第三回で、座長が念を押した。「従来通りの方針でいいですか」。委員からはひと言の発言もなく、再び承認された。

 同庁は先行導入分野の提供開始を、試験運用に対して「本運用」としていた。だが、「市民は後回し」との印象を薄めるため、一般提供を「本運用」と変更。第五回検討会では、「国民の生命にかかわる情報伝達に区別(差別)があってよいのか」という東京都内の防災コンサルタントの意見も紹介されたが、同庁は「広く国民に出すには時期尚早」と繰り返した。

 結局、パニックの恐れがどの程度なのかという根本的な議論は一切なされないままだった。

 ●「幻想」指摘も

 災害時のパニックを恐れ過ぎることを、心理学では情報の出し渋りを戒める意味も込めて「パニック神話(幻想)」と呼ぶ。検討会に入っていないリスク管理の専門家はどうみているのか。

 「映画みたいなパニックは起きないのが定説。混乱を恐れて利用開始を遅らせるのは的外れだ。過去の災害でもパニックが起きた事例はほとんどない。情報が出たら何をすべきか、行動指針を与えればよい」とインターリスク総研(東京)の三島和子主任研究員は話す。

 広瀬弘忠・東京女子大教授(災害心理学)は「空襲警報や津波警報もそうだが、警報の衝撃が意味を持つ。予測不可能なことが起きるのは警報の宿命。伝えられた側は慌てるかもしれないが、防御の態勢がとれ、メリットの方が大きい」と指摘する。

 その上で、広瀬教授は気象庁の姿勢について、「パニックという亡霊に恐れをなして、せっかくの文明の利器を有効に使えていない。作為(伝えること)で何か混乱が起きるよりも、不作為(伝えないこと)で被害が起きた方がましだという役所の考えがあるのではないか」と批判している。

 ◆懸念の方が大きい

 <気象庁地震火山部管理課の話> 周知されておらず、自分たちの(周知の)努力も足りない。誤差や限界もあるが、それでも(一般に)出してくださいというコンセンサスができて初めて提供できる。パニックの可能性は非常に低いと思うが、ゼロではない。現時点では慌ててけがをしたりする懸念の方が大きい。

 ◆メモ <緊急地震速報>

 大地震の初期微動(P波)を検知し、遅れて伝わる主要動(S波)の数秒−数十秒前に流す警報。東海・東南海・南海地震など震源が主に海域の地震に有効で、直下型地震では速報が間に合わない可能性が大きい。これまでの試験運用には300近くの機関が参加。昨年8月の宮城県沖の地震(最大震度6弱)では、仙台市内の小学校にS波到達の十数秒前に速報が届いた。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20060802/mng_____kakushin000.shtml