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2006年07月31日(月) 07時27分

生活費数万円、突然の解雇予告 偽装請負のメーカー工場朝日新聞

 低い賃金、短く不安定な雇用……。「偽装請負」の現場で働く若者たちには、景気回復の実感は乏しい。「結婚や子供なんて考えられない」「年をとってもこんな働き方を続けられるだろうか」。将来が見えない不安を抱えつつ、あてどなく漂う。

大分キヤノン大分事業所=大分市迫で、本社ヘリから

 5月下旬のある夜、大分市の飲食店に数人の若者が集まった。大手請負会社に所属し、キヤノンのデジタルカメラ工場で働く職場の仲間だ。

 沖縄出身で30代前半の男性がぼやいた。

 「昼休みはたった40分。メシを食う気力もない」

 立ちっぱなしの作業でむくんだ足。ほこりから製品を守るための仕事着を着替えて食堂まで行くのに片道10分近くかかる。往復することを考えると、とても行く気にならない。だから昼休みは、空腹を我慢し、横になって午後の仕事に備える。

 大分の大学を出て建設会社に勤めたが、給料が不満でやめた。今の仕事は「作業は単純で楽だけど、先がない。ずっと同じ仕事を同じ給料で続けるだけ。キャリアを積んだら上の仕事、ということもない」。前の仕事は、かんなの使い方が上達するなど、技量が上達する充実感があった。本当はふるさとの沖縄へ帰りたいが、いい仕事がないので戻れない。

 ■一時しのぎ

 福岡出身で20代前半の男性は、羽振りのいい生活にあこがれて大阪でホストをしていた。しかし、逃げた客の飲食代を背負わされ、借金取りに追われた。今の仕事は、借金の肩代わりをしてくれた親に返済するための一時しのぎだ。

 見ず知らずの土地。請負会社に言われるままに寮に入った。「寮費の4万2000円は相場より高い。光熱費も水増しされている気がする」。寮には、自分と同じように全国各地から集まってきた若者が住み、送迎バスで一緒に工場に通う。

 給料日前、金がなくて水とパンでしのぐこともある。「いつかまたホストをやりたい」

 「求人広告では月収22万円可能、なんて言っていたけど、全然違った」と、女性(29)は憤慨する。実際には16万円程度で、社会保険料や家賃、携帯電話代などを引くと、生活費は数万円しか残らない。

 会社に文句を言ったが、担当者は「残業や休日出勤があれば計算上はあり得る」とにべもない。腹は立つが、仲間たちは「どうせ長く働くわけでもない」とあきらめ顔だ。今月、女性は工場をやめた。職を探しているが、同じような工場での仕事しか見つかりそうにない。

 「これ、読んどいて」

 5月末。愛知県内にあるトヨタ自動車グループの部品工場で働いていた男性(21)が、雇用主の請負会社から「解雇予告通知書」を渡された。

 書類には「自己都合の欠勤が多く、反省がみられない。メーカーへ迷惑を及ぼした」とある。

 仕事中にけがしたことへの対応や給料の前借りができなくなったことなどに、たびたび不満を訴えていた。「うるさいやつだから、クビにするのか」

 男性は北海道出身で、つきあっている女性とともに工場で働き、寮でも同居していた。あわてて個人で入れる労働組合に相談し、会社と交渉してもらった。解雇は何とか撤回させたが、秋には契約が切れる。「どうせ更新してもらえない。北海道で次の仕事を探す」

 ■冷たい視線

 日本の製造業復活の陰で、顧みられることのない無数の若者たち。安い労働力をかき集めてメーカー側に供給する請負会社は、この10年で大きく成長したが、利益の源である彼らへの視線は冷めている。

 「仕事に不満があっても実際に声を上げることはほとんどない」と請負会社の元幹部。

 別の請負会社幹部も皮肉を込めて語った。「最近の若者は、実力主義を『時給が100円高くなる工場へ移ること』と、はき違えていたりする。一生こんな賃金で使われ続ける彼らの将来は大丈夫かねえ。我々にとってはありがたい存在だけど……」

http://www.asahi.com/national/update/0731/TKY200607300432.html