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2006年07月31日(月) 16時42分

警察官僚のがん闘病ブログ、正義感残し妻にバトン朝日新聞

 「警察官僚ガン闘病記」と題したブログ(簡易型ホームページ)が昨秋、開設された。過酷ながん治療で、パソコンのキーボードを打てなくなると、妻が代筆した。筆者が5月24日、36歳でこの世を去った後も、1人残った妻は一緒に闘った日々をつづり続けている。

 《護法院志徳悟道居士。2人でよく護国寺に行っていたこと、法を護(まも)る仕事、『一生懸命頑張っている人達が報われる世の中にしたい』という思いが強く……それらのことから、この戒名をいただきました。彼は「かっこいいじゃん」と言ってくれるでしょうか》(6月19日)

 森實(もりざね)悟さんは京都出身。93年警察庁に入った。02年8月から違法駐車取り締まりを担当。駐車監視員の資格や委託法人の評価基準など新制度の枠組みを作り上げた。

 「仕事が速く、細かい点まで完成度が高かった。安心して仕事を任せられた」と上司が振り返る森實さんが、食後に腹痛を感じたのは昨年9月上旬のことだ。1カ月後、病院で「国内で年間数例しか発症しない小腸がん。完治できない」と宣告された。

 《『茫然自失(ぼうぜんじしつ)』とは、正にあの状況を指すのだろう。職場に連絡を入れ、初めて嗚咽(おえつ)した。努力してきた道のり、そんなものすべてを取り上げられた気がした》(12月22日)

 病室に戻ってベッドに腰掛け、妻の満紀さん(35)に「ごめん、ごめん」と声を絞り出すのがやっとだった。

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 ブログは「死ぬまでに何か残さなきゃ」と始めた。守秘義務が体に染みついている警察官僚が開設するのは異例だが、「もう怖いものはありません」と記した。

 手術では病巣をすべて切除はできず、医師は「おなかの中にがんがこぼれている」と説明した。抗がん剤の副作用でしびれる手で治療経過や日々の思いを書き留めた。パソコンが使えない時は満紀さんが更新し、入退院を繰り返すうち代筆回数が増えていった。

 《自分の体がだめになっていく自覚。ただひたすら残酷に思える。クリスマスプレゼントが僕にももらえるなら、ただひとつ『健康な体』をくださいとお願いします》(12月15日)

 3月からは食事を止められ、好きなカレーも満紀さんの手料理も口に出来なくなった。

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 幼いころから正義感が強く、小学校の卒業文集に書いた夢は警察官。意識が混濁しても「仕事」はやめず、点滴のチューブがつながれたまま、キーボードを打ち、資料を手に取った。うわごとで「人が足りないからだれか回してください」と口走った。最期は満紀さんの手を握り締め、同僚の「お前がいないと職場が困る」という呼びかけにうなずいたという。

 《始まったサッカーW杯。彼と一緒に観(み)ています》(6月11日)

 《入院中ベッドの上でアルバムを見ました。最後のページを見終わった後、彼は写真に眼を落としたまま言いました。『よかった、まっく(彼が私を呼ぶ名)の中に俺は残っていられるね』》(7月21日)

 4年前のW杯で、森實さんは日本組織委員会に、観客の安全確保やフーリガン対策の専門家として出向していた。

 自宅には、当時の公式球がある。闘病を知った当時の同僚たちがスポーツ用品会社に残る最後の1個をもらい受けた。「ガンバレ」「みんなが支えているゾ」という言葉が記されている。

http://www.asahi.com/life/update/0731/011.html