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2006年07月26日(水) 00時00分

『タミフル被害者の会』の思い 東京新聞

 インフルエンザ治療薬、タミフルを服用後、異常行動で高校生らが死亡した問題で、遺族らが中心となって全国初の「タミフル脳症被害者の会」が結成された。タミフルの副作用と、異常行動との因果関係は証明されていないが、関係者は「将来の被害を防ぎたい」と訴える。インフルエンザの“特効薬”の側面ばかりが強調されるタミフルだが、遺族らが被害者の会を結成した思いとは−。

 「息子が死んだのはタミフルを服用したのと関係があるのではないか」

 岐阜県内に住む男性が、高校生の息子=当時(17)=の事故死の原因をこう思い始めたのは、死後三カ月のことだった。

 高校生は二〇〇四年二月五日、高熱を発して病院でタミフルを処方された。昼食後に一カプセルを服用して約四時間後、裸足(はだし)のまま家を出て、近くのJR高山線を横切り、高さ八十センチのフェンスを越えたうえ、国道に飛び出してトラックにはねられた。ほぼ即死状態だった。その様子は、たまたま近くで下水道工事をしていた作業員に目撃されていた。当時家族は不在で、高校生一人だけだった。

 当初、警察は自殺の可能性もあるとみて捜査していたが、「息子が自殺する理由など全くない」と父親は断言する。精神的な異常はなく、遺書も出なかった。

 インターネットでタミフルのことを調べ、初めてタミフルとの関連に気づいた。薬の添付文書をあらためて見たが、幻覚や異常行動を起こす可能性については何も記されていなかった。

 しかし、警察の事情聴取に、トラックの運転手は、飛び出してきた高校生が「笑っていた」と供述したという。「事故当日は八センチもの積雪があった。にもかかわらず裸足のまま駆け出すなど異常な行動をとったのは、タミフルの副作用としか考えられない」。父親はこう強調し、「息子はバスケットの選手だった。幻覚のため、トラックのライトをボールと思い取りに行ったのではないか。苦痛を感じずに死んだと思えることが唯一の救い」と自らを慰めた。

 タミフル服用後に異常行動を起こし、死に至ったケースは、このほかにも報告されている。

 昨年二月、愛知県で男子中学生=当時(14)=が一カプセル飲んだ約二時間後、自宅マンションの九階から転落死した。栃木県でも同月、インフルエンザになった二歳男児がタミフル服用後、亡くなった。

■他の薬での自殺と通知

 これらの三遺族は昨年、独立行政法人医薬品医療機器総合機構に対し、一時金と葬祭料の支給を求める被害救済を申請した。今月初めに送られてきた通知書では、いずれもタミフルの副作用を認めなかった。

 ただ岐阜のケースでは、「シンメトレルによる自殺」と結論づけられた。事故死した高校生はタミフルを処方される前日、医師から別の抗インフルエンザウイルス剤シンメトレルを処方されていた。しかし父親は「シンメトレルをのんでも息子の熱は下がらず、再度病院でタミフルを処方された。この判断には納得できない」と語気を強める。

 この父親を代表に、死亡したり後遺症を負うなどした七人の家族が被害者の会を結成したのは、木で鼻をくくったような当局の対応に業を煮やしたためだ。

 支援者の柴田義朗弁護士は結成の理由について、「タミフルの副作用と異常行動の因果関係を国と製薬会社に認めさせることで、考えられる危険性に対し、きちんとした対応を促していきたいからだ」と話す。

 そのために当面、被害救済申請を却下した医薬品医療機器総合機構に異議申し立てを行う方針だ。
 柴田弁護士は「まだ薬害として国や製薬会社の責任を問う訴訟を起こせる段階ではない」と現状の難しさを吐露する。被害実態が分からないのが最大の理由で、「被害者の会の活動を通じて、社会の関心を喚起したい」と期待する。

■服用後死亡すでに52件

 厚生労働省が公表しているタミフル服用後の死亡例は、今年六月末までに五十二件ある。同省はタミフルの安全性について、今年一、三月に公開の審議会を開いたのをはじめ、専門家の意見を随時聴取してきた。

 その結果、このうちショック死など四例はタミフル服用との「因果関係が否定できない」とされ、残る四十八例は「因果関係が否定的」とされた。この中には飛び降りなどの異常行動を伴った四件も含まれる。

 厚労省は「現段階でタミフルの安全性に重大な懸念があるとは考えていない」と結論づけている。タミフルを輸入販売する中外製薬も「厚労省と同様に考えている。現時点では因果関係を示す証拠はない」(広報IR部)としている。

 これに対し、タミフルと突然死・異常行動死との因果関係は濃厚だと主張するのは、NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)理事長の浜六郎医師だ。浜氏は今年三月、「被害拡大防止のため適切な措置が必要」とする意見書を厚労省や日本小児科学会に提出、同省の審議会でも議論の対象になった。

 浜氏は「厚労省も製薬会社も、タミフルの副作用に警告を発しながら、因果関係がないとするのは理解できない」と話す。例えば、厚労省は〇四年六月、服用後に窓から飛び降りようとし、母親に抱き留められた十代女性の事例を「医薬品・医療用具等安全性情報」として公表している。

 また、中外製薬は同年五月、タミフルの添付文書の「重大な副作用」の項目に「精神・神経症状」を追記し、具体例として異常行動や意識障害を列挙した。同社は「タミフルとの因果関係は明らかではないが、厚労省と協議の上で予防・警告的な意味合いで記載した」と説明する。

 浜氏は、(1)タミフルの呼吸抑制作用による突然死は動物実験で確認されている(2)呼吸抑制作用のある薬品が脱抑制(理性による抑制が失われた状態)を起こし、幻覚や異常行動が現れることは薬理学の常識−などと指摘。その上で「普段健康な人はタミフルを使わなくても、インフルエンザは治る。心不全や糖尿病など持病がある人には、副作用が出やすく使いづらい」とその有用性に疑問を呈する。さらにこう訴える。

 「国や製薬会社が要求するのは百パーセント確実な因果関係。危険性を心配して警告しているのに死亡例との関連をなぜ認めないのか。薬害エイズの時もそうだった。服用後の事故の症例が積み重ねられ、動物実験で確認されていることで因果関係の証拠はすでに十分だ。因果関係を否定するような情報を厚労省や小児科学会が流すことで、医者が安心してタミフルを処方し被害が拡大している。明らかに薬害だ」

 東京HIV訴訟の元原告で松本大非常勤講師の川田龍平氏は、最初の提訴から国・製薬会社が責任を認めるまで約七年を要した訴訟に、「本来なら裁判までしなくても解決できた問題で、なぜここまで時間がかかったのかという思いが強い」と薬害認定に立ちふさがった「壁」を振り返る。

 さらに「国に責任を認めさせるには世論の力が大きかった。厚生省を取り囲む人間の鎖など、全国で若い人たちを中心に支援の動きが広がった。国を動かすには、いろんな立場の人たちが関心を持って行動することが大事だ」と訴える。

 最愛の息子を失った岐阜の父親は、こう話す。「タミフルは薬として有効性があるかもしれないが、だからこそ危険性を認め、副作用の怖さをちゃんと警告してほしい。二度と私たちのような悲しい思いをする親が出てきてほしくない。それが被害者の会をつくった私たちの願いです」

 ◆メモ <タミフル>

 スイスの製薬大手ロシュが製造販売するインフルエンザ治療薬で、日本では子会社の中外製薬が輸入販売している。新型インフルエンザでも発症抑制や重症化防止が期待できる。世界で圧倒的な市場占有率を持つ。日本はタミフルの約7割を使う世界最大の使用国で、国内売上高は2005年は352億円。

<デスクメモ> 亡くなった愛知県の中学生も活発な少年だった。月命日には、野球部の仲間や級友が自宅に集まるという。インフルエンザで寝ていたはずの息子が突然、転落死する。「なぜ」の思いから調べ始めた母親は、副作用を書いたホームページにたどり着く。「息子の死を無駄にしたくない」。母親の重い言葉だ。 (透)


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060726/mng_____tokuho__000.shtml