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2006年07月23日(日) 00時00分

発覚3年 住民あす責任裁定申請 茨城・神栖ヒ素問題 東京新聞

 茨城県神栖市の井戸水が有機ヒ素化合物に汚染された問題で、地元住民約三十人は二十四日、公害等調整委員会(公調委)に公害紛争処理法に基づく責任裁定を申請する。国や県に対し、汚染源の特定や除去、健康被害などへの補償を求める方針だ。汚染発覚から三年。進まぬ原因究明と将来への不安。申請に踏み切った住民の思いは。 (水戸支局・高橋知子)

 「生きている間は医療の保証をしてほしい」

 「二年間も収入ゼロだよ」

 三月三十一日夜、健康被害などに悩む同市大野原中央地区の住民が集まった。口々に出てくるのは、将来の生活に対する切実な訴えだった。会合は三時間近くに及んだ。

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 ある女性は、いまだに震えやめまいなどの症状に悩まされている。二〇〇三年に医療手帳を交付されたので、今は医療費は無料だが、期間は〇八年まで。農業を営む男性は、県や神栖市による米作の自粛要請を受け、収入が絶たれた。

 国や県に損害賠償を請求する方法もあるが、裁判を起こせば長期化は必至だ。弁護団長の坂本博之弁護士(45)の助言もあって、裁判に比べ費用がかからず、平均一年程度で結論が出る責任裁定の申請を決断した。

 責任裁定にした狙いはもう一つある。香川県豊島(てしま)の産業廃棄物不法投棄問題などでは、責任裁定が事態打開のきっかけとなった。

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 汚染が確認されたのは、同市大野原中央、木崎の両地区。当初、汚染源は旧日本軍の毒ガス兵器の残留物の可能性が高いとされた。

 環境省は〇五年六月の中間報告書で、木崎地区で見つかった有機ヒ素を含むコンクリート塊から、地下水脈を通じ、約一キロ離れた大野原中央地区の井戸水も汚染された疑いが強いとの見方を示している。

 しかし、大野原中央地区の住民は、中間報告書に納得せず、独自の分析を行った。

 中間報告書によると、同地区の観測用井戸三本では、地下十メートルと三十メートル地点のヒ素濃度は、ほぼ同じだった。住民側は「ヒ素は比重の大きい物質。深い所ほど濃度は高くなる」と指摘。コンクリート塊を汚染源とした場合、地下二十メートル前後を流れる水脈を通じ、より高い位置にある地下十メートル地点の井戸水を汚染するのは不自然で、汚染源は別にあると主張している。

 このため、環境省に再三、同地区の汚染源究明に向けた調査を申し入れてきたが、同省は応じていない。

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 同地区の住民でつくる「旧日本軍毒ガス汚染被害者の会」代表の池田三富郎さん(61)は「原因が分かれば、取り除くのが一番。責任裁定を通じ、汚染源をきちんと究明・特定し、除去してほしい」と訴える。

 動かない環境省に代わって、公調委が専門家による鑑定や研究機関などへの調査委託などの証拠調べを行い、事実解明が進むことを期待している。

 「ヒ素は、地区の負の遺産でしかない」。池田さんら住民は、ヒ素汚染問題を後の世代まで引きずらぬよう、徹底した調査と原因究明を願っている。

<メモ>

 【神栖ヒ素問題】 問題が発覚したのは2003年3月。住民の健康被害の訴えを受け、水質調査した結果、神栖市木崎地区の井戸から、基準値の450倍のヒ素が検出された。今年6月現在、大野原中央地区を合わせ住民152人に健康手帳が交付されている。周辺には、かつて旧日本軍の関連施設があったことから、毒ガス兵器の残留物質が漏れ、汚染したとみられた。その後、木崎地区での掘削調査で、有機ヒ素に汚染されたコンクリート塊と土壌が見つかった。コンクリート塊には、1993年の製造年月日が記された空き缶が含まれており、不法投棄の可能性が強まっている。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20060723/mng_____kakushin000.shtml