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2006年07月20日(木) 00時00分

一転謝罪パロマ 同族経営のモロさ 東京新聞

 死者が二十人にのぼっているパロマ製品の一酸化炭素(CO)中毒事故。「安全」を理念に掲げながら、事故の抜本的な再発防止策を尽くさず、二十年間も放置した。「同族経営」と指摘される老舗企業の対応に、内輪の論理を優先させた落とし穴はなかったか。

 「息子の社長を父親の会長がかばい、その親子を、ひな壇に陣取った側近がかばう。そういう異様な図式だった」

 発覚した一連のCO中毒事故を受けて、パロマが十八日、名古屋市の本社で開いた二回目の記者会見。取材した経済記者の一人は、その場で強い印象を受けたという。

 当初、事故が発覚した十四日の会見では、パロマ側は「不完全燃焼を防ぐ安全装置の不正改造が原因で、製品自体に問題はない」と強調し、一度も謝罪しなかった。

 一転、十八日はひたすら平謝りに徹した。同社社長の小林弘明氏(37)は、着席前に約二十秒間、頭を下げた。会長の敏宏氏(68)ら、ほかの五人も一斉に頭を下げる。この変わりぶりと同じくらい目立ったのが、敏宏氏らが弘明氏を擁護する様子だ。

■一族に捜査が及ばぬように

 弘明氏の責任について追及されると、敏宏氏は「(昨年九月に社長に就任したばかりで)弘明は今回のことは知らなかった」「引き続き社長をやってもらいたい」と小声で語り、重ねてかばってみせた。

 側近の部長の一人が、内部調査の結果を答えようとすると、ほかの部長が「調査中ですから」と制する場面も。前出の経済記者は「警視庁が捜査していることもあり、小林一族に累が及ばないようにとビクビクしている様子がありありとうかがわれた」とみる。

 パロマは一九一一(明治四十四)年創業の老舗。創業者の小林由三郎氏以来、弘明氏まで四代続けて小林一族が社長を務める典型的同族会社だ。敏宏氏は早稲田大理工学部出身の技術者で、「技術分野の先駆性で会社をここまで大きくしてきたという自負は強いのではないか」(ガス業界関係者)と指摘する。

■財界活動希薄体質は閉鎖的

 敏宏氏は日本ガス石油機器工業会の会長も務めているが、パロマは業界内や地元財界との付き合いは薄いとされる。

 地元財界関係者は「財界活動的なものはほとんどしていないから、知名度の割にはうわさが聞こえてこない。閉鎖的な企業体質と言われても仕方がない。名古屋には同族会社が多く、同業他社でやはり名古屋が拠点のリンナイも同族会社だが、東証一部に上場しているせいか、あからさまな創業者支配とならないように配慮が見える」と話す。

 パロマのホームページのQ&Aコーナーでは、「同族経営ではないですか」という質問に対し、「あくまで実力主義であり、現に役員、幹部のほとんどは創業者一族との血縁関係がありません」と答えている。同族経営との指摘を逆に気にしているフシもある。

 事業継承をめぐっての事件も起きている。

 敏宏氏は九七年ごろ、東京都内の公認会計士から相続税対策を持ち掛けられた。実際は「節税策」を実行しなかったため、会計士が約二十一億円と巨額の手数料だけを得る格好となった。その後、会計士は所得税法違反などの罪で名古屋地検特捜部に逮捕、起訴され、一審、二審とも懲役六年の判決を受けた。

 同族経営に関連して、敏宏氏は十八日の会見で「振り返れば私の熱意が(事故を)報告しにくい状況にしていたかもしれない」と社内の風通しの悪さを認める発言をした。

 パロマの記者会見を見て「極めてまずい対応だった」と話すのは危機管理コンサルタントの田中辰巳・リスクヘッジ代表。

■まず責任逃れ被害者逆なで

 「まず事実を調べる前に会見を開き、自社の正当性を主張して責任逃れをしようとした点がダメ。さらに、ああいう場面で一番してはいけないこと、責任のなすりつけ、身内のかばい合いもしていた。あれでは被害者の感情を逆なでするばかりだ」と批判する。

 田中氏によると、こうした記者会見には「謝・調・原・改・処」(社長限界でしょ)の要素が欠かせないという。「まず謝り、調査の結果と原因の分析を公表する。さらに今後の改善策と、関係者の処分を示す。このどれが欠けても記者会見は成功しない。なにより大切なのは、自社が加害者の側にいることを自覚すること。小売店や業者などにも責任はあるかもしれないが、被害者から見れば、いずれも同じ対岸に立つ者で、どうでもいいこと」

 昨年、松下電器産業が製造した石油温風器で死傷事故が起きた。このときの同社の対応も不手際が目立ったという。「最初の事故は一月初旬に起きたが、事故を公表したのは四月二十日で、この間にも被害が出ていた。さらに会見に社長すら姿を見せなかった。その結果、世間の大批判を浴びせられ、信頼回復のために二百四十億円もの大金をかけて問題の製品を回収することになった。今後、パロマが企業として存続していくためには、同じように徹底した再発防止策を打ち出すしかない」とみる。

 「同族経営の悪い面が出た」と話すのは経営評論家の梶原一明氏。

 「フォード、ミシュランのように、世界の一流企業にも同族経営は少なくない。日本にもトヨタや松下電器の例がある。いずれも経営陣の求心力が高いのが特長だ。一方で、ホンダの創業者、本田宗一郎氏のように“会社は個人の持ち物ではない”と身内を入社させなかったやり方もある。不祥事が起きたとき、同族経営だと経営陣が一気に追い込まれてしまう点が弱みだ。今回も、それを恐れて歯切れの悪い記者会見になったのではないか。ここまで、こじれてしまったら、もう現経営陣は退陣するしかないだろう」

■10年過ぎても民法上の責任

 ところでパロマの法的な責任はどうなるのか。

 製造物責任(PL)法などに詳しい岡村久道弁護士によると、問題の瞬間湯沸かし器が、製造者が損害賠償義務を負う期間十年を超えていれば、同法は適用されない。「ただし」と同弁護士は次のように話す。

 「事実関係を精査しなければならないが、その結果いかんではメーカーにも民法の不法行為責任が生じる。不正改造されたケースでは、メーカーが講習会を行ったという情報もあり、改造した業者をメーカーがそそのかした事実があるのか否か。安全装置をはずすような改造を業者がしたのは、もともと製品に問題があったのではないか。そのほかのケースでも、事故が起きた時点で公表する義務があったのではないかともいえる」

 消費科学連合会の犬伏由利子副会長は、消費者の立場から、道義的な責任を問いかける。

 「消費者はパロマの製品であるから購入して使ったのであり、小売店や修理業者で選んだわけではない。不正改造が行われていることを知っているなら、注意の喚起もパロマがすべきだった。それを怠って責任がないというのは、あまりにいいかげんすぎる。松下電器のように、どれほど費用がかかっても再発防止に努めてほしい。それは生きたお金になると思う」

<デスクメモ> 「過ちを弁解すると過ちを目立たせる」。シェークスピアが四百年前に残したせりふから学べなかったパロマの事故対応。社会の公器としての自覚はあったのか。実は上場企業も約四割が同族会社だ。強い同族経営は称賛され、不振なら批判の矛先に。差は先代の背中を見て育つか。見せるべき背中があるのか。 (学)


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060720/mng_____tokuho__000.shtml