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2006年07月11日(火) 00時00分

(1)スローセックス 脱AV「過程」楽しむ読売新聞

◆男も女も“演技”から解放

全身への優しいタッチはスローセックスに欠かせない。手の動かし方や力の加減をインストラクターから学ぶタカシさん(東京・港区のセックススクールアダムで)

 関東地方に住む会社員のタカシさん(32、仮名)は、看護師の新妻(25)と週に2〜3回、たっぷりと時間をかけてセックスを楽しむ。髪や顔、背中、足など、互いの体を優しくなで合い、寄りそっている時間が最も長い。

 「愛する人と肌を重ねることがこんなに心地よく、幸せなことだと思わなかった。結果だけにこだわっていた自分がバカみたいです」

 こう話すタカシさんは20歳代のころ、自分のセックスに自信が持てなかった。手本にしていたアダルトビデオ(AV)の男優は皆タフで、「その通りにできない」自分はふがいないとずっと思っていた。

 約2年前、タカシさんは30歳を前に「自信を持てるようになりたい」と、東京都内のセックススクールを訪れた。指導役のインストラクターから「AV的なやり方は男性本位。女性には苦痛なだけ」と教えられ、驚いた。女性の体のメカニズムやタッチの仕方、心を通わせることの大切さなどを学ぶうち、AV男優のようにしなければならないという、呪縛(じゅばく)は解けていったという。

 料理だけでなく、作る手間も楽しもうという「スローフード」や、自然と調和しながらゆったり生きようという「ロハス」の考え方が最近、浸透してきた。セックスでも、AVに代表される男性主導の即物的なセックスからの脱却を促すように、「スローセックス」が注目されている。ゆっくり時間をかけ、互いをいたわりながら肌を重ねる時間を楽しもうというものだ。

 作家の五木寛之さんが2002年、著書「愛に関する十二章」(角川書店)で紹介した「ポリネシアンセックス」がきっかけの一つになったと言われる。「ファストフードを摂取するかのような手軽」なセックスに代わる形として南太平洋の島々に伝わる技法を紹介した。肌を密着させて眠るだけでも精神的な満足を得られると、説いている。

 「結果を求める従来のセックスと違い、過程を大事にするスタイルがあってもいいのではという提案だった。反響は予想以上でした」と編集担当の伊達百合さんは言う。

 「お陰で気持ちが楽になった」「試してみたい」などの声が数多く寄せられ、その後、女性誌などでも特集された。性能力が低下しつつある中高年層からの注目度も高い。

 AVにとらわれているのは男性だけではない。東京都内の女性会社員(29)は、セックスの際、つい大げさに感じたふりをしてしまう。「AVを見ると、ああいう風に反応しないといけないのかな、と思ってしまう。自然に振る舞えたら」と言う。

 古代インドの性愛論書「カーマ・スートラ」を基に、20〜50歳代の米国人カップル5組が手ほどきをする同名のDVD(アップリンク)が5月末、大手CD店に並んだ。スローセックスのヒントにしたいと、主に女性が購入していくという。監修した米国人セックスセラピスト、ロリー・バックリーさんは「二人にとって幸せなセックスの形を作っていってほしい」と話す。

 偏った性情報から植え付けられたセックス観に、息苦しさや違和感を持つ人たちが、等身大のセックスを探し始めている。

 「くらし家庭面」で1996年に連載した「性の風景」は、性の問題を正面から取り上げて、大きな反響を得た。この10年で、インターネットや携帯電話が急速に普及し、アダルト画像や性体験談などを入手することは容易となった。だが一方で、これまでにない混乱や不安が人々に広がっているように見える。今日の「性の風景」をリポートする。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/sfuukei/fe_sf_20060711_01.htm