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2006年07月07日(金) 00時00分

変動型ローンの返済額増える  給料はなかなか上がらない  東京新聞

 日銀は来週、いまのゼロ金利政策を約5年半ぶりに解除する議論に入る。福井俊彦総裁の投資問題は片づかないが、一方で日本経済は再びデフレに後戻りする心配が小さくなっている、との見方に傾いたからだ。金利は「経済の体温計」といわれる。久しぶりの金利復活でどうなるの?

 「金利が上がるとウチのローンもピンチか」。都内の銀行支店窓口では、住宅ローンの相談者の列が途絶えない。毎月の返済額が長期間一定のローンに借り換えたり、駆け込みで新規ローンを組もうとする人たちだ。新規契約者の七割が固定型を選ぶという。

 ゼロ金利解除が庶民の生活に与える影響を、ファイナンシャルプランナーの紀平正幸氏が解説する。

 「まず住宅ローンは上がる。一番打撃を受けるのが、ここ数年間に1%前後とかの低いキャンペーン金利で“短期固定型”のローンを組んだ方たちです」

 紀平氏の試算では、三千万円を返済期間三十五年で借りた場合、三年固定タイプで金利が当初の1・20%から、四年目に3・20%に上がると毎月の返済は八万七千五百十円から十一万六千百五十六円に増える。七年目に4・20%に上がると十三万九百十九円だ。

 全期間固定のフラット35(銀行が住宅金融公庫と提携したローン)と比べて総返済額で三百万円もの差が出る。銀行窓口での相談が必死になるはずだ。

 一方、これまで利率0・001%の普通預金は百万円を一年預けても利息は十円、税引き後は八円だった。金利復活によって、預金金利が上がれば、年金生活者をはじめ懐は潤うようにも思うが、元銀行員で作家の江上剛氏は、実はそうではないと言う。

 「理屈では住宅ローンも預金金利も上昇するが、実際には預金金利の上昇の方はかなり遅れてくる。しかも現状が低すぎるので上がったといっても微々たるものだ。さらに物価も上がってくるので、この状況に明るい未来を見る人は少ないでしょう」

 さらに、江上氏は福井総裁の投資問題の影響も避けられないとみる。「金利が正常に戻るわけだから、普通は今か今かと期待感が高まるもの。これが景気に好影響を与えたりするが、今回は総裁の不祥事ですっかりしぼんでしまった。日銀は責任を持って、景気浮揚につながるよう金融政策の判断をしなくてはいけない。預金者に還元せずに、これまでおいしい思いをしてきた銀行も十分に考えてほしい」

 前出の紀平氏も年金生活は必ずしもよくならないと受け止める。老年者控除をはじめ相次いだ控除の廃止・縮小で、税金がびっくりするほど増えたのに加え、年金受給額に目を向けると“マクロ経済スライド”という聞き慣れない(減額)調整が二〇〇四年十月から導入されたからだ。

 「従来、物価が1%上がれば翌年から受給額も1%上がって、公的年金は物価上昇に強いとされたが、新方式ではまず年0・9%ほど減額される。1%から0・9%を引いた0・1%しか反映されなくなる。物価が上がり、金利も上昇することを念頭に置いた厚生労働省にしてやられたという感じです」

 その一方で、世の中を見回すとカネ回りは確実に良くなっている。

 全国のセブン−イレブンやイトーヨーカドーに一万千五百台のATMを設置するセブン銀行では、昨年度の利用件数が三億四千二百万件と、一昨年の二億五千七百万件から三割も増えた。

 「ATMの台数も利用可能なカードの種類も増えたが、一台当たりの利用件数もどんどん伸びている」と同行の広報担当。大勢の人が、お金を使うようになって、財布の出し入れが増えた反映とみられる。

 一日から始まった夏のバーゲンも大盛況だ。

 銀座三越では「初日の売り上げは過去最高。特に何が売れたというわけではなく全体に好調です」。

 プランタン銀座は「バーゲン品の売り上げは前年比140%。割引のない定価品も同129%なので、財布のひもは緩んでいる感じです」と分析する。

 こうした街角景気の改善は、政府・日銀のマクロ経済運営にもつながってくるはずだ。

 ■『日銀は景気落とさないで』

 「金利は経済の体温計で、経済実態を反映せず、常に零度しか示さない体温計は百害あって一利なし」と同志社大の浜矩子教授(国際経済学)は語る。

 そうである限り、金利復活は歓迎すべきだが、現状で慎重な見方が残る理由はこうだ。

 経済ジャーナリストの荻原博子氏は、日銀がゼロ金利解除の根拠を物価上昇に求めていることに対して「原油など原材料の上昇で物価は上がっていても、それで中小企業の収益が膨らんでいるかとみれば、そうではない。デフレ状態は続いている」とみる。

 それゆえ、給与は上がらないまま、「住宅ローンは長期的に上がり、大手銀行は一般の預貯金の運用が重圧になっている現状で、預金金利はほとんど上げないだろう。さらに国債による借金は膨らんでいくので、最後は税金頼みで増税の可能性が増す」と予想する。

 さらに金利上げが円高を招く懸念もある。これは立ち直りかけた日本経済を直撃しかねない。日銀もこれは警戒しており、市場に対し「年内の連続利上げは限られる」という慎重姿勢を繰り返し強調している。

 しかし、みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は「マーケットでは方向感が重要。お題目だけでは動かない」と円高を懸念する。その要因はむしろ、米国側にある点もやっかいだ。

 「五月の米雇用統計では非農業部門で七万五千人増と伸びが鈍化。米国の景気は減速しつつある。そのため、FRB(米連邦準備制度理事会)が十七回連続で続けてきた利上げが休止されるという読みが強い。そうなると米国の下げ、日本の上げという金利イメージが浮き上がり、円高が突出する可能性はぬぐえない」

 米国の金融政策は次回、八月八日のFOMC(連邦公開市場委員会)が注目されるが、上野氏は「ドル安の波が来る。円は今後一ドル=一〇五円の円高水準まで近づいていくのでは」と予想する。こうした弊害が懸念されつつも、前出の浜氏はマクロの視点からみて「金利復活は遅すぎたくらい」と話す。

 「ゼロ金利によって日本経済は五年半にわたり、集中治療室(ICU)に入っていた状態。体中が腐っても分からないという異常な状況下にあった。カネが回れば金利が伴い、リスクが生じるという当たり前の投資判断さえできなかった」

 金利が動くという経済の原点すら忘れてしまう感覚が怖いとの指摘だ。ゼロ金利解除の問題点を承知で、浜氏の見方はこうだ。

 「米国は財政と貿易の双子の赤字に原油高で、米国発の金融恐慌の可能性すら否定できない。米国に巻き込まれても倒れない、自力で立っていられる経済を取り戻す必要がある。早晩、人工呼吸器を外さなければならないなら、先延ばしせず早い方がよい。これは“マスト(必ず必要)”なんです」

<デスクメモ>
 宝くじが一億円当たったら利子だけで暮らせるかも。昭和の子どもはそんな夢想にふけることができた。金利は3%が当たり前の時代が原体験になっている。だから夢の二十一世紀が「百万円預けても利息は十円」では夢もしぼむ。今度はゼロ金利に慣れすぎて、利上げに生活がついていけるか心配が増える。 (学)


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060707/mng_____tokuho__000.shtml