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2006年07月02日(日) 13時30分

ひき逃げ誤認逮捕、勾留10カ月 無実の訴え耳貸さず朝日新聞

 警視庁にひき逃げなどの疑いで誤認逮捕された藤佐悦寛(とうさ・よしひろ)さん(28)の勾留(こうりゅう)は10カ月に及んだ。「車には乗っていなかった」。警察や検察は、この単純な主張をなぜ確かめようとしなかったのか。憤り、焦り、あきらめ。仕事に復帰した藤佐さんは、友人の協力で疑いを晴らすまでの苦悩を振り返った。

 逮捕は突然だった。

 塗装の仕事で岩手県釜石市に来ていた藤佐さんは昨年8月、仕事に出る直前、警察官7〜8人に囲まれた。突きつけられた逮捕状には「道路交通法違反」と書かれていた。

 ピンときた。約2カ月前、後輩の榎本智久容疑者(21)が菅野北斗容疑者(21)を同乗させていた車で起こしたひき逃げ事件だ。2人から告白を受け、出頭すると聞かされていた。

 「警察にも話せば分かるだろう」。いきさつを知っているだけに安心感もあった。

 玉川署。「事故を起こしたのは榎本(容疑者)で、自分は車に乗っていない」「当日の夜は駅前のコンビニにいた」。が、何を言っても相手にされなかった。

 警察の認定は、藤佐さんが運転、菅野容疑者が助手席、榎本容疑者が後部座席、というものだった。物証となる乗用車も発見されていない。不安がよぎった。「壁に向かって1人でしゃべっていろ」。捜査員はにべもなくそう言ったという。接見禁止となり、無実の訴えを聞いてくれるのは、当番弁護士の松田隆太郎弁護士(36)だけだった。

 主張はいれられず、起訴を迎えた。道交法違反(ひき逃げ)と危険運転致傷の罪。「なぜ自分だけが疑われるのか」が理解できなかった。

 公判に入り、弁護士に証拠が開示された。榎本容疑者ら2人の参考人調書に「運転していたのは藤佐」というくだりがあった。ほかにもこれに沿った証言をしている人が多数いるという。

 藤佐さんは、榎本容疑者らの先輩格にあたる。この力関係が災いしたようだった。強い立場の藤佐さんが、榎本容疑者らに罪をなすりつけようとしている——。捜査員も検事も、後輩の榎本容疑者らの言い分をすっかり信じたようだった。

 2人は裁判にも検察側証人として出廷し、「運転は藤佐さん」と繰り返した。被告席と証言台の間にはついたてが用意された。2人の声だけが聞こえ、立ち上がり叫びたくなる衝動を必死で抑えた。

 最後に藤佐さんを救ったのは無実を信じる友人(27)らだった。「榎本(容疑者)は車を神奈川県清川村の山中に捨てたらしい」という情報を同容疑者の周辺から聞き出し、未発見だった事故車を見つけ出した。今年2月のことだった。

 榎本容疑者らが容疑をおおむね認めた6月初旬の夜、藤佐さんは「勾留解除」を告げられた。両親が、渋谷まで迎えに来てくれた。「よく我慢したな」。父親の昌利さん(58)に声をかけられ、言葉に詰まった。

 6月下旬、東京地裁の一室。「どうもすみませんでした」。警視庁交通捜査課幹部、玉川署幹部、東京地検検事がそろって2度頭を下げた。「なぜ逮捕した。なぜ釈放しなかった。絶対許さない」。怒りを抑えきれず言った。

 翌日、記者会見した警視庁は「物証に乏しく、難しい事件だった。供述に頼ってしまい、裏付けが不十分だった」と非を認めた。

◇言い分聞くべきだった 

 〈松田弁護士の話〉 接見段階で無実の予感があった。供述に争いがあったのだから、双方の言い分に慎重に耳を傾けるべきだった。適切な裏付け捜査をしていれば、10カ月も不当に勾留されることはなかっただろう。

     ■     ■

 〈事件の概要〉 昨年6月27日未明、東京都世田谷区の国道交差点で、パトカーに追跡された乗用車が信号を無視して交差点に入り、バイクの男性(26)をはねて重傷を負わせ逃走した。警視庁は2カ月後、神奈川県相模原市の塗装工、藤佐さんを道交法違反(ひき逃げ)などの疑いで逮捕、起訴した。

 藤佐さんは一貫して否認し、今年になって未発見の乗用車が見つかったのを機に捜査を再開。車は後輩の榎本容疑者が運転していたことが分かり、同乗の菅野容疑者とともに、道交法違反や偽証の疑いで逮捕した。藤佐さんの勾留も解除された。検察側は無罪論告する見込みだ。

http://www.asahi.com/national/update/0702/TKY200607020156.html