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2006年06月11日(日) 00時00分

揺らぐ連帯保証人制度  東京新聞

 自分が借金したわけでもないのに、他人のためにどこまでも債務を負い続け、ときには自殺者まで生む連帯保証人制度。強引な取り立てが原因で金融庁から全店業務停止処分を受けた消費者金融大手「アイフル」が業界上位に食い込んだのも、連帯保証人を軸にした有担保ローンの拡大が原動力だったという。その融資の実態と揺らぎ始めた連帯保証人制度について探った。 (大村歩)

 「自分の親が利用すると言ったら絶対やめとけと反対しますね」

 アイフル元社員で「サラ金トップセールスマン物語」の著書があるフリーライター笠虎崇氏(ペンネーム)は、同社の有担保ローンについてこう話す。一九九七年ごろから二年間、同社の有担保ローン専門店で勤務していたという。

■有担保ローンは約3415億円で突出

 当時はまだ、消費者金融が不動産担保や保証人を取って融資することはほとんどなかった。だが、アイフルは「おまとめローン」という有担保ローンを始めた。多重債務者に他社借り入れを一括返済する原資を融資し、その担保として不動産担保と連帯保証人を要求するパターンだ。

 アイフルの社内報によれば、昨年十二月期の決算で、同社の有担保ローンの貸付残高は総貸付残高の二割に上る約三千四百十五億円。アコムの約五百四十三億円、プロミスの約三十五億円と比べるとアイフルの突出ぶりが目立つ。消費者金融の象徴的存在である武富士の場合、有担保ローンはゼロだ。有担保ローンがなければ、アイフルは大手四強の一角とはならない。

 「貸出残高を増やし他社の客を奪うという一石二鳥を狙って有担保ローンに踏み切った」(笠虎氏)

■消費者金融では「邪道なやり口」

 これについて武富士の元幹部は「消費者金融は小口、無担保、無保証が基本で王道。五十万円程度の小口なら客が返済不能に陥ることは少なく、貸し倒れになっても低リスク。アイフル方式で何百万円も貸したら毎月の金利返済だけで客が壊れる。同業として邪道なやり口だと思う」と語る。

 親の土地などに抵当権を設定されると、相当追いつめられた状態になるが、狙いは実は債務者本人や土地ではなく、連帯保証人だ、と笠虎氏は解説する。

 「土地の担保は、『競売にかけるぞ』と圧力をかけるため。実際には競落価格が低かったりで回収が難しいので、競売はほとんどやらない。最初から連帯保証人をあてにして貸す。ほとんどは親など親族だった」

 融資の段取りがついた後、いざ連帯保証人という段階で、もめることは何度もあったという。自宅にアイフル社員を同道し「もうアイフルさん来ちゃってるしさ。とりあえず形だけだから」などと渋る親を促す債務者や、「あんまり金額とか利率とかを親に話さないでくれ」と笠虎氏に頼む債務者もいたという。

 高知県では、書類を読んだり説明を聞く能力にとぼしい身体障害者の高齢男性が娘のために連帯保証人になったケースで、アイフルから十分な説明を受けなかったとして、連帯保証債務不存在の確認などを求めた訴訟も起きている。「『おまとめ』を成約すると担当グループに報奨金が出る。強引な事例もあると思う」と同社の現役社員は言う。

 アイフルがここまで重視し、業績アップのために使った連帯保証人制度とは、そもそも何か。

 民法は四五四条で「連帯保証人」となった場合の特則を定めている。単なる保証人の場合、保証人は貸し手がまず借り手本人に返済の催促をするように求める権利(催告の抗弁)があり、保証人が借り手本人に資産があると証明できた場合、貸し手はまず本人の資産から取り立てなければならない(検索の抗弁)。

 ところが、連帯保証人はこの二つの抗弁ができない。借り手本人の返済が滞った場合、貸し手はいきなり連帯保証人に対して返済を迫ることができる。日本で借金の「保証人」といった場合、実務上は連帯保証人を指すことがほとんどだ。

 ■「人情でハンコ」日本文化根ざす

 市民団体「連帯保証人制度見直し協議会」発起人でセントラル総合研究所社長の八木宏之氏は「人情でハンコを押させ、返させるときは冷徹なビジネスとして取り立てる。連帯保証人制度はまさしく貸し手側のおごりを体現した制度」と厳しく批判し、「アイフルは大変優れた債権保全をやってますよ」と皮肉る。

 八木氏によれば、先進諸外国にも個人が借金を保証する制度はあるが、責任は限定的だ。日本のように借り手本人と同様に厳しく取り立てを受ける保証人制度はほとんど例がない。その源流は豊臣時代の船を建造する際の手形にまでさかのぼるが、「日本文化に根ざした制度なだけに、その分、現代には合わない」。

 青山学院大の瀬尾佳美助教授(リスク理論)は「問題が多いながらも残ってきたのには、それなりの理由もある」と指摘する。

 貸し倒れを不動産担保や保証人で回避できない場合、金融機関は貸出金利を上げることになる。一方で、借り主側は、金利が上がると借りられない場合が多い。このリスクを保証人に押し付ければ、融資が可能となる。円滑な経済活動には保証人という非合理な存在が便利だったわけだ。

 ただし、これは貸し手、借り主双方のモラルハザード(倫理観の欠如)を生む。「連帯保証人から回収できると思えば、金融機関は借り手の返済可能性など考慮せずに済むため、その審査機能は弱まる。一方で、借り手は第三者に連帯保証人になってもらう場合、本当はどれだけ借金があるかや、今後の収入の見通しなど、不利なことも含め正確な情報を伝える可能性は低い」(瀬尾氏)

 数年前までの不況で、連帯保証人の悲劇が多発したこともあり、連帯保証人制度そのものを見直す動きも広まっている。中小企業庁は、中小企業向け融資を債務保証する信用保証協会の保証制度について、同協会が中小企業に第三者の連帯保証人を要求することを原則禁止する通達を出し、四月から実施されている。

 一方、連帯保証人の場合、「包括根保証」という事実上無限責任を負う保証契約が多かったが、これも一昨年の民法改正で禁止された。中小企業庁の担当者は「批判が集まったことで、金融機関側でも連帯保証人をとって融資するのは控える方向にある」と話す。

 ■フランスなどは保証会社を導入

 関係者の間では、特に中小企業などへの融資の際に個人の連帯保証人ではなく、保証料を収益源とする保証会社が保証するフランスなどの仕組みを日本でも導入すべきとの意見がある。

 ただ、アイフルの「おまとめ」のように借り主が個人の場合、保証会社で対応するのは難しい。また、包括根保証は禁止されても、保証極度額の客観的基準は定められておらず、素人保証人にとってはつけ込まれる恐れもある。

 前出の笠虎氏はこう語る。

 「ほとんどの人が連帯保証人という立場を理解していない。言葉の問題もある。保証人ではなく“連帯債務者”と言ったら引き受ける人がいるだろうか。どれだけ危険な役割を負わせられるかを含めて、義務教育レベルからカネに関する教育を真剣にやるべきでは」

 ◆メモ <アイフル業務停止>

 金融庁は4月、客の委任状の偽造や、強引な取り立てなど貸金業規制法違反の行為があったとして、アイフル(京都市)に対し、5月8日からの3日間、全店で業務停止命令という異例の処分を出した。一部店舗では業務停止期間が25日間に上った。すでに全店で業務再開されているが、テレビCMなどは自粛している。

<デスクメモ> 亡くなった祖父は、「借金の保証人だけにはなるな」と子どもたちに厳しく言っていたという。身近で「不幸」を見ていたからだ。頼んでくるのは当然親しい間柄で、恩ある人の場合など断りにくい。日本的義理人情を逆手に取った“産物”だけに、やっかいだ。が、時に大きな落とし穴が待ち受けている。 (透)


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060611/mng_____tokuho__000.shtml