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2006年06月10日(土) 15時47分

「悪魔の詩」翻訳者殺害7月時効 手がかり求め遺族奔走朝日新聞

 イスラム教を侮辱したとして物議を醸した小説「悪魔の詩」の翻訳者で、筑波大助教授の五十嵐一さん(当時44)が91年、筑波大構内で刺殺された事件が今年7月で時効を迎える。「国際テロ」の疑いでの捜査も進められたが、真相は不明のまま。遺族は、もどかしさを募らせている。

事件について語る五十嵐雅子さん=千葉県市原市の帝京平成大学で

 犯行現場では、五十嵐助教授とは違うO型の血液が検出され、階段には血だらけの足跡が残されていた。足跡は27・5センチの中国製カンフーシューズと判明。つくば中央署の捜査本部は製造元や販路を割り出すため、中国の公安当局に照会したが、特定できなかった。

 犯行日は五十嵐助教授の夏休み前最後の出勤日。犯人は入念に下見をしたか、助教授をよく知る人物ではという見方も浮上。交友関係をつぶす捜査が進められた。

 事件の10日ほど前には、イタリアでも翻訳者が襲撃される事件があり、捜査本部は関連に注目。つくば市内のイスラム教徒の居住状況なども調べたが、直接の犯行声明などがなかったこともあり、決め手を欠いた。

 当初100人で始まった捜査態勢は次第に縮小。他県で逮捕された外国人が「事件について情報を持っているらしい」という情報が年に1〜2件寄せられる度に捜査員を派遣したが、犯人特定にはつながらなかった。

 妻の雅子さんは、東大生時代に一さんと知り合って結婚。事件当時は中学生の長女と小学生の長男の子育て中だった。

 事件後、茫然(ぼうぜん)自失の状態が続いたが、子どもを養うために大学教員の世界に飛び込んだ。今は帝京平成大学で比較文学の助教授を務め、笑いを取り入れた講座の全学的な展開に奔走する。

 夫の業績を風化させたくないと、7月の命日前後には都内で「しのぶ会」を欠かさず開いてきた。毎年、学者仲間ら百数十人が集う。

 会の参加者でイラン情勢に詳しい元新聞記者、佐藤陸雄さん(66)から5月、情報がもたらされた。米シンクタンク研究員で中東情勢の権威、ケネス・ポラック氏の著作を翻訳していたところ「悪魔の詩の日本語翻訳者は(イランの武装組織の)イスラム革命防衛隊に暗殺された」との記述があった、というのだ。

 犯人が海外にいるのなら時効は停止しない。「有力な手がかりになるかもしれない。会を開いてきてよかった」と期待する。

 自宅の書斎には、イスラム文化を愛した夫が、かつてイランで買い込んだ膨大なペルシャ語の文献数百冊が眠る。事件後、独学で何とか文字が読めるようになった。

 「だって悔しいじゃない。形見の本の題名もわからないなんて」。ただ事件が解決しない限り、本の整理に手をつける気にはなれないでいる。

   ◇

 〈キーワード・筑波大助教授殺人事件〉 91年7月12日朝、筑波大学人文・社会学系A棟7階エレベーターホールで、五十嵐助教授が血まみれで倒れているのが発見された。内臓に届く深い刺し傷が数カ所あり、首はほぼ切断された状態だった。五十嵐さんは、イスラム教を冒涜(ぼうとく)しているとしてホメイニ師から死刑宣告された英国人作家サルマン・ラシュディの小説「悪魔の詩」を翻訳。90年2月の翻訳出版会見では、会場にいたパキスタン人から抗議を受けた。

http://www.asahi.com/national/update/0610/TKY200606100227.html