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2006年06月02日(金) 12時01分

悪質リフォーム:富士見の認知症老姉妹被害 認知症“証言の壁” /埼玉毎日新聞

 ◇元営業マン書類送検
 富士見市の認知症の老姉妹が全財産を失った訪問リフォーム事件。発覚から約1年、県警生活環境2課と東入間署は1日、姉妹と約2590万円の契約を結んだ住宅リフォーム会社「ハウス・ケアー・サービス」の元営業マン(48)を特定商取引法違反(不備書面の交付)容疑でさいたま地検に書類送検した。毎日新聞が姉妹の問題を報道して以降、主に高齢者を狙った悪質リフォームが全国的に明らかになった。その発端となった姉妹宅を訪れた19業者のうち、ハ社は最も高額な工事契約を結び、ひんぱんに顔を出していたのが元営業マンだった。【酒井祥宏、村上尊一、弘田恭子】
 ◇司法と現実のはざまで
 姉妹を支えてきた弁護士ら専門家は、捜査結果を踏まえ、悪質リフォーム事件を防ぐための課題を指摘した。
 姉妹の成年後見人、平岡直也弁護士は県警の捜査を「証拠収集が困難な状況でも、捜査員があきらめずに努力してきた成果」と評した。捜査が難航した原因としては▽姉妹の契約時の状況がわかる同居人がいなかった▽姉と妹がそれぞれ、複数の業者と契約していた▽かかりつけの医者もなく契約時の判断能力の有無がわからない——ことなどを挙げた。
 平岡弁護士は、姉妹に同居人やかかりつけの医者がいれば「事件が起きる前から判断能力の有無を病院で検査していたはず。営業マンとのやりとりを証言できなくても、契約当時、判断能力がなかったことを立証できれば、準詐欺などの刑事罰を科すことができたのではないか」とみる。その上で、同様の被害の再発防止には「家族や行政が面倒がらずに1人暮らしの高齢者を気にかけ、認知症の疑いがあれば医師の診断を受けさせるべきだ。成年後見人制度の早期適用も必要だ」と話した。
 リフォーム工事を鑑定した1級建築士の石田隆彦氏は「悪質な営業マンを逮捕せず、書類送検で幕引きするのは同様被害を助長する。司法判断と社会通念がかい離している」と厳しく批判した。
 石田氏は、姉妹をだました元営業マン(48)が刑事罰を受けなければ、証言能力のない認知症など社会的弱者はさらに悪質業者につけ込まれ、泣き寝入りするケースが増えるのではないかと憂慮する。業者との被害回復の交渉では刑事告発をしないことを弁済の条件として持ち出されることが多いといい、「刑事罰が科されないとわかれば、業者が弁済する意思を失う。弁済能力がない業者もさらに悪質になる恐れがある」と指摘する。
 ◇「救いたい」の一念−−県警
 元公務員(81)と元証券会社員(79)の姉妹は約4400万円を老後のために蓄えていた。昨年3月、近所の住民が競売にかけられた姉妹宅の購入を勧めるチラシを見て不審に思い、市に通報して問題が発覚した。「おばあさんがかわいそうだ。何としても救いたい」(当時の捜査幹部)。発覚後、県警は悪質リフォーム業者の立件に向けて捜査を進めてきた。
 しかし、姉妹は認知症のため「話を聞くたびに内容が変わる状態」(捜査員)で、証言能力が大きな壁となった。県警は昨年11月、別の高齢者に対するリフォーム詐欺容疑で、姉妹とも契約したリフォーム会社(大阪府)の元従業員2人を逮捕した。だが、家宅捜索で押収できた契約書類など証拠の乏しさと、契約・工事の際に複数の従業員が入れ代わり立ち代わり現れたため、被害者の記憶違いなどがあり、さいたま地検は不起訴処分とした。
 「振り上げた拳に決着をつける」。県警は一連の悪質リフォーム問題の発端となった姉妹をめぐるこの事件で、約1年に及ぶ捜査を続け、契約書などの物証を固めることで立件に結びつけた。
 ◇行政の対応も変化
 姉妹の窮地が社会問題化したことは、悪質リフォーム業者への行政の対応にも変化を迫った。県は富士見市と連携して被害の実態解明を進め、昨年10月の「ハウス・ケアー・サービス」に対する行政処分につなげた。特商法が禁じる「判断力不足に乗じた契約締結」を適用した全国初の例だった。
 処分への手続きは県消費生活センター職員らが担当。「契約時点の事実関係について、姉妹からの聞き取りは不可能」と判断したセンターは、同社が県内で行った他の違法行為を丹念に調べた。
 世論の高まりも追い風となった。悪質リフォームの社会問題化を受けて経済産業省は昨年8月、新築代金に匹敵する高額契約を結ばせた業者の行為を違法とする「通達改正」を行った。この結果、契約時点の判断力が不明だった姉妹のケースでも、違法性を指摘することが可能となり、県は「高額契約で、通常の判断力があれば容易に締結するとは考えられない」と判断した。
 担当職員は「社会的注目を集めた事案。ほかの仕事を後回しにして専念した」と振り返った。【高本耕太】
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 ◇弱者は泣き寝入りか…
 富士見市の消費生活相談員、竹村幸子さんは姉妹が支払った工事代金の返還などを業者に求めてきた。書類送検された元営業マンは昨年5月、「姉妹に返金したい」と市役所を訪れたという。本人確認のため書類の提出を求めると「免許証はない。住民票もとれない」と応じた。
 姉妹宅からは、元営業マンが書いた白アリ消毒代金15万円の領収書が見つかった。だが、領収書の控えも工事の契約書もなく「工事は頼まれたからやっただけ」と開き直ったという。竹村さんは「一見ひ弱でまじめそうな顔つきだが、言い逃ればかりで信用できなかった」と話す。
 同市商工業振興課によると、姉妹のもとには今年2月までに、9業者から計約2460万円が返金された。しかし所在不明の業者もあり、失った4400万円を完全に回復できる見込みは薄い。元営業マンも「毎月1万円ずつ返す」と約束したが、まったく返金していないという。
 姉妹宅を定期訪問している同市のケースワーカーの女性によると、返済された現金は後見人の弁護士が管理し、生活費は年金から必要な額を毎月引き出して手渡している。炊事や買い物の支払いなどは自分ででき、安定した生活を取り戻したという。一連の報道の後、業者の訪問販売もぴたりとやんだ。
 穏やかな日常に戻った姉妹には、リフォーム工事の記憶はもうない。竹村さんは「現状では被害者側が被害を立証しなければならない。ましてや姉妹は認知症。弱者は泣き寝入りするしかないのか」と指摘。「行政権限のある県が警察と連携して迅速に対処できる体制を早急につくってほしい」と話した。【和田憲二】

6月2日朝刊
(毎日新聞) - 6月2日12時1分更新

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060602-00000034-mailo-l11