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2006年05月26日(金) 00時00分

【関連】石綿被害集団提訴 被害者、早期救済訴え 東京新聞

 「命あるうちに救済を」「国の責任を認めさせたい」。アスベスト(石綿)による健康被害で二十六日、初の国家賠償請求訴訟に踏み切った大阪府泉南地域の原告たち。提訴後の会見では、それぞれに背負ってきた苦しみと怒りをぶつけた。 

 会見には原告八人のうち五人が姿を見せた。原告代表の一人、大阪府阪南市の看護師岡田陽子さん(49)は、石綿肺、続発性気管支炎で苦しむ。両親が勤める零細な石綿工場に隣接した社宅で生まれ育ち、十二年間をそこで暮らした。

 「子ども連れでも仕事をしてほしい」と、工場主が母親春美さん(70)に頼み、幼いころの岡田さんは無邪気に石綿を入れた竹製のかごの中に座っていた。周囲では、粉じん状になった石綿が飛散し空中を舞っていた。

 父は一九九五年二月、肺がんのために六十六歳で亡くなった。母も石綿肺などで通院、今回の原告には母娘で名を連ねる。「病気を引き起こすことを知らずに親が仕事に励んでいた」のが悔しくて、悲しい。

 岡田さんも母もアスベスト新法で規定された救済疾病の対象外。「国が家族や地域住民にも大きな疾病を起こすことを知っておきながら、何十年も放置してきたことに怒りを感じる」と、唇をかんだ。

 昨年二月、父寛三さん=当時(91)=を石綿肺と肺気腫で亡くした泉南市の南和子さん(63)も訴訟に加わった。寛三さんは工場に隣接する農地で農作業をしていた。六十歳を過ぎたころから体調が悪化し、亡くなるまでの十年は寝たきり。「父は生前『訴えてくれ』と話していた。その無念を晴らしたい」

 弁護団は今回の提訴を手始めに、二次以降の提訴も視野に入れる。弁護団の芝原明夫団長(59)は「昨年の“クボタショック”で埋もれていた被害者が出てきた。新法よりすき間のない新制度を確立する力になれば」。村松昭夫弁護士(52)は「早期審理を求める。遅すぎる救済は救済ではない」と話した。

<解説>『すき間』埋める第一歩

 アスベスト(石綿)による健康被害で二十六日、大阪府南部の被害者らが集団で初の国家賠償請求訴訟を起こした背景には「救済新法でもあいまいにされた国の責任を明確にしたい」との思いがある。

 同府泉南市や隣接する阪南市には関連工場が集中、かつては最大の石綿製品生産地として栄えた。「石綿村」と呼ばれた地区もあり、被害は地域全体で長期間にわたる。

 こうした工場のほとんどは中小零細企業で、家内工業も多く大半は既に廃業。事業主やその家族が被害者という例も多く、周辺住民も含む独自の救済制度を創設したクボタやニチアスのような補償は望むべくもない。

 クボタの工場周辺で健康被害が発覚した昨年六月以降だけでも、国が以前から工場周辺住民への危険性を認識していた可能性が何度も浮上。原告の「石綿の恐ろしさを知りながら放置した」との疑念は深まった。

 原告側弁護団によると、過去のじん肺訴訟などで周辺住民らに対する国の責任を認めた例はないという。前例がない難しさに加え、原告には症状の重い人や高齢者もおり早期の解決も課題だ。

 法廷で国の責任を明らかにし、新法見直しと被害者の全面的救済を求める構えの原告側。提訴は「すき間のない救済」に向け、国の重い扉をこじ開けるための第一歩といえる。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20060526/eve_____sya_____002.shtml