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2006年05月26日(金) 00時00分

鉛筆で犯人復元 似顔絵捜査員 IT時代に見直される“あいまいさ” 競争率は3倍。選抜試験をくぐり抜け、似顔絵捜査員講習を受ける受講生たち=いずれも東京・霞が関の警察総合庁舎の警視庁鑑識課で 東京新聞

 IT(情報技術)化が進む中でも、警視庁の事件捜査では昔ながらの似顔絵が解決につながったケースは少なくない。目や口などの部分写真を組み合わせる「モンタージュ写真」より似顔絵の方が、対象者の特徴が印象的に表現できるとして見直され、警視庁は似顔絵を活用したデータベースの構築を進める一方、「似顔絵捜査員」の養成に取り組んでいる。目撃者の記憶から犯人の顔を“復元”する似顔絵捜査員とは−。

 警視庁鑑識課。その一室で若い警察官四人が、真剣な面持ちで紙の上に鉛筆やパステルを滑らせる。競争率三倍近い選抜試験を通った、似顔絵捜査員の卵たちだ。「まず顔の輪郭。次に目と鼻の位置と大きさを決める。形はその後」。傍らで、この道二十年以上のベテラン、青山芳高・同課巡査部長(52)が指導する。

 捜査用似顔絵は輪郭を重視する。似顔絵は目を似せるというが…。「そこが普通と違うところ。犯人も人間。犯行時と普段の人相は違う。特に目つきは変わる。でも輪郭を決めれば、鼻や口もほぼ定まる」

 講習は八日間。初めの四日間で、似顔絵の描き方や画材の使い方を一日約九時間仕込まれる。後半は先輩捜査員と現場へ。実践で鍛える。教本は各部分の描き方から、似顔絵の歴史、目撃者との信頼関係の築き方まで警視庁独自のものだ。流行もあるため、美容師が使う髪形集も参考にする。

 「モンタージュは顔写真に見えてしまい、少しでも違う所があると別人に思えてしまう。でも似顔絵は『幅』がある分、特徴が印象に残りやすい」。青山巡査部長は似顔絵の“あいまいさ”が利点と指摘する。「だから、目撃者が覚えていない所は、無理に描かない勇気も求められる」

 似顔絵完成までは約一時間。目撃者から犯人の特徴を聞き「作成メモ」を書くことから始まる。目撃者の多くは被害者。傷付き、動揺する相手を思いやり、正確な記憶を引き出すコミュニケーション能力も不可欠だ。

 警視庁が似顔絵捜査員認定制度を始めたのは二〇〇〇年。技術を持った捜査員の高齢化で技術伝承が危ぶまれたことから、後継者育成に乗り出した。当初は三十人ほどの捜査員も現在は百三十九人に。刑事、鑑識課だけでなく、交通課や機動隊にもいる。志望者は毎年六十人を超え、講習は選抜試験をするほどの人気だ。今年は二十四人が合格。将来は、全百一署に一人は配置する方針だ。

 専従職でなく、日々の仕事をこなしながら、要請に応じ出動する。激務なのに、なぜ志すのか。受講生に尋ねると「似顔絵で実際に犯人が捕まったと聞き、技術を身につけたくなった」と、刑事志望という所轄署の交通課の女性巡査部長(31)や、女性巡査(23)は目を輝かせた。別の署の女性巡査(24)も「見たことのない顔を他人の記憶で描く点が、興味深い」と語る。

 (1)特別な器材がいらず、短時間で作れて修正も簡単(2)誇張ができ、人相や着衣の特徴がつかみやすい(3)必要に応じ、横顔や全体像が描ける−などの点を評価し、警察庁は〇三年に捜査用似顔絵を捜査に積極的に活用する方針を打ち出した。同庁によると、全国で似顔絵を作った事件は、十九九九年は七千二百四件だったが、昨年は一万九百三十件に増えている=グラフ参照。

 警視庁管内で似顔絵を作成した事件は、五年前の約七百五十件から昨年の約千二百件と一・六倍に増えた。逮捕につながったケースも約三十件(作成数の4%)から約六十件(同5%)に。今後は容疑者の特徴や手口に似顔絵を加え、データベース化する。

 今年三月、東京都練馬区でタクシー運転手の男性(70)が、乗車した男に金を奪われた事件。約一カ月後、数人の似顔絵捜査員で作った似顔絵とそっくりの男(22)を高島平署員が見つけ職務質問し、逮捕した。〇一年五月、青森県弘前市の武富士弘前支店で起きた強盗殺人・放火事件でも、犯人に酷似した似顔絵に多くの情報が寄せられた。

 青山巡査部長は言う。「似顔絵は捜査手法の一つ。これを見た現場の捜査員や地域の人と一体になって、初めて生きるものだと思う」

 文・中沢佳子/写真・川北真三

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