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2006年05月25日(木) 00時00分

マンション共用部分を考える わが家なのに誰でも出入り 外壁130センチ『よじ登れない』 東京新聞

 全国で小学校低学年を狙った犯行が相次ぐ中、仙台市のマンション八階に住む小学校四年の女の子が転落死する出来事が起きた。宮城県警が事件性を捜査中だが、三月には川崎市で男児が投げ落とされ死亡する事件があっただけに子どもを持つ親は穏やかでいられない。外廊下などマンションの“共用部分”に潜む死角とは。 (大村歩、坂本充孝)

 「大変、大変、一一九番を」

 二十三日午後五時すぎ。仙台市内のマンション玄関ロビーには女性管理人(55)のあわてふためいた声が響いていた。

 “転落”現場に居合わせた三階の住人、小荒井清子さん(70)は振り返る。ちょうど買い物から帰宅したばかりだった。

 駐車場で頭から血を流した女の子が、左耳を下にして横向きに倒れていた。白いTシャツ、ジーンズのスカート姿にスニーカーばき。それがこのマンション八階に住む小学校四年生の女児(9つ)だった。

 管理人から連絡を受けた母親(44)も駆け付けた。母親は「起きて、起きて」と体を揺すったが返事はない。まもなく救急車が到着。動転したのか、母親は「保険証を持ってこなくちゃ」「こんな格好では病院に行けない。着替えなきゃ」と繰り返し、小荒井さんらが「そんなことはいいから一緒に救急車に乗って行きなさい」と言うのも聞かず、エレベーターに乗って八階の自宅まで戻ったという。

 このマンションは築約十年。玄関ホールはオートロック式だ。交通量の多い国道45号に面しており、斜め向かいには交番、並びには警備会社の拠点がある。非常階段には別の大手警備会社の「防犯カメラ作動中」というシールも張られている。管理人も午後五時まで常駐する。

外壁130センチ『よじ登れない』

 このマンションの外廊下の外壁は高さ約百三十センチ。女児の身長とほぼ同じだ。友人がこのマンションに住み、よく訪問するという近くの主婦(50)は「自分で外壁をよじのぼったとは思えない。私の首ぐらいの高さがあって、大人でも難しいでしょう」と首をかしげる。

 宮城県警の調べでは、女児は「新聞の夕刊を取りに行く」と言って自宅を出た。一階にある新聞受けの夕刊はそのままで、自宅を出た直後に転落した可能性が高いとみられる。防犯カメラには、転落をはさんで一時間の間、住民以外の姿は映っていないという。

 周辺では、最近、不審な男の目撃情報もうわさとして出ていたという。女児の転落死後、「不審な男を見なかったか」と捜査員に聞かれた人もいる。ただ、「部外者には入りにくい構造だし、もし事件を起こすなら、もっと人の目がないマンションはほかにあると思う」(前出の主婦)という声もある。

 女児が通っていた小学校では二十四日、保護者に登下校時の付き添いを依頼し、午後一時半ごろから帰宅ルートごとに順次、保護者同伴で集団下校した。

 六人の児童を引き連れた三十歳代の母親はこうつぶやいた。「付き添いに来られないお母さんの代わりに来た。事件か事故か分からないので何とも言えないが、かわいそう」

 堅固な建物であるマンションは、防犯性、安全性が高そうに見えるが、実態はどうだろうか。

 警察庁の統計によると、昨年中に少年が被害者となった犯罪は約三十二万六千件あり、このうち一戸建て住宅が犯行場所となったのは約一万五千件(四・八%)。これに比べてマンションなどの共同住宅は約二万三千件(七・三%)で、ぐっと多くなっている。未就学児の被害でみれば約三割が共同住宅で発生している。

 この理由について、地域社会学を専門とする中田実・愛知江南短大学長は、こう分析する。

 「マンションの共用部分は多くの矛盾をはらむ場所になっている。物理的には道路以上にいろいろな人が緊密に存在できるが、住民はプライバシーを大切にしたいという意識が強く、誰にも干渉されずに生活できる場としてのメリットを感じている。このあたりのズレにどう折り合いを付け、意識の死角をなくしていくかが防犯性を高める鍵だ」

 また「子どもはどこで犯罪にあっているか」などの著書がある中村攻・千葉大学教授は、高層、大型化が進むマンションの問題点を次のように指摘する。

 「三月に小学三年生の男児を放り投げ死なせる事件があった川崎の共同住宅の場合、十五階建ての建物に百四十八世帯、約五百人が居住していた。一定の空間にここまでたくさんの人間が集められると、人は他人に干渉しないようになり、コミュニティーは育ちづらくなる。自分たちの場所だという意識も育ちづらく、外来者は楽々と入り込める。全戸数が三十戸ぐらいならば、こうした傾向も目立たず、適正規模というものがあるのではないか」

 また大型マンションによく見られる「公開空地」も問題だという。

■公開空地も問題多い

 「建物の容積率を上げるために敷地内に緑地帯などを設け、公園などとして一般に開放するのが公開空地。これで開発業者は利益を受けるが完成後の管理責任者は分譲マンションに入った住民たちになる。誰もが出入りできる公開空地の扱いに住民は困ってしまう。防犯的にもほめられた話ではない」

 いずれも人間関係の希薄さが、不審者の侵入を許している、という説だ。

 女児が転落死した仙台のマンションの場合、十一階建てで居住世帯数は七十ほどだが、住民の結束の具合はどうだったか。また建物の構造など物理的な要因はないのか。

 住宅評論家の加藤憲一郎氏は「コストとのかねあいになるがエレベーターの数を増やしてプライバシー性を高める。防犯カメラを増やし、外廊下を内廊下に変える、などの方法で防犯性は高まるのではないか」と提案する。

 一方で「子どもに安全な製品やサービスを考え、提供しよう」というマンションデベロッパーや警備会社による企業横断的な試みも始まった。今月十五日にスタートした「キッズデザイン協議会」(事務局・東京都文京区)だ。事務局の担当者は「子どもにとって何が危険なのかを調査しデザインに反映させていきたい」と展望する。

■分譲の住民も真剣に考えよ

 マンション経営の経験がある東京都新宿区の「箪笥町管内町会連合会」の大崎秀夫会長はこう訴える。

 「賃貸マンションならオーナー側で安全策などを呼び掛けることができるが、分譲ではなかなか難しいのが実際。でも、こんな世の中だから、皆真剣に考えなきゃいけなくなるんじゃないか」

<デスクメモ>

 新聞記者として、女の子が「夕刊を取りにいくため」不幸に遭ったことに涙する。どうして小学校に通う、いたいけな子どもばかりが犠牲になるのか。登下校の安全ばかりか、家に帰ってからも命の心配をしなければならないのか。親の混乱は極まるばかりだ。この国の何かがおかしい。何かが壊れている。 (蒲)


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060525/mng_____tokuho__000.shtml