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2006年05月24日(水) 00時00分

データ活用 事故減った 千葉・鎌ケ谷で『プロジェクト』 車の速度を抑える効果があるハンプ。交差点中央部は傾斜5%で約13センチ盛り上がっている=いずれも千葉県鎌ケ谷市で 東京新聞

 国際交通安全学会(東京都中央区)と千葉県鎌ケ谷市が共同で進めている「交通事故半減プロジェクト」が、成果を上げている。これまで自治体が活用してこなかった警察の事故情報を徹底的に分析し、住民参加で即効的な対策をとる先駆的な取り組みだ。周辺自治体にもシステムを広げつつある。

 住宅地にある九カ所の小さな交差点が、緩やかな丘のように盛り上げて舗装されている。鎌ケ谷市の東初富地区で、通過車両の速度を抑えるために整備された「ハンプ」と呼ばれるこぶだ。

 隣接する幹線道路は、交通渋滞が絶えない。多くの車が朝夕、抜け道としてこの地区を時速五十キロ超で通過するため、交差点で出合い頭事故が多発していた。市と住民が事故対策を協議する中で浮上したのがハンプだった。

 ハンプの上を車が通過すると、騒音と振動が起きる。ドライバーと住民の理解を得るのに手間がかかるため、国内ではまだ整備が進んでいない。国土交通省によると、これだけの数のハンプを集中設置している例は全国的にも珍しいという。市交通安全推進係の長谷川実さんは「市民参加で合意形成をした事故対策だからこそ可能になった」と説明する。

 ハンプ設置後、通過車両の平均速度が三十キロ以下に抑制された。安全学会と市が二〇〇〇年から進める「交通事故半減プロジェクト」の成果の一つだ。

 プロジェクトを提案した安全学会顧問の日大理工学部・高田邦道教授=交通工学=は、交差点設計などに携わる中で、日本の交通事故対策の遅れに危機感を抱いてきた。「この五十年間に年平均一万人が交通事故で死んでいるのに、世間の関心が低すぎる。この交通戦争を戦うには、『軍備』と『徴兵』が必要だ」。「軍備」とは事故を減らすためのシステムづくりと人材育成、「徴兵」とは国民参加による対策を意味する。

 高田教授は一九九〇年代から海外視察を重ね、事故を減らす仕組みづくりを学会の同僚と研究してきた。鎌ケ谷市の幹部から「交通事故対策を進める場所の選定が、議員ら有力者の声に左右されてしまう」と相談を受けたことをきっかけに、同市をモデル地区に「事故半減プロジェクト」を進めることになった。

 プロジェクトの眼目は、行政の限られた予算の中で、対策を進める交差点や路線、地区の優先順位を客観的に決めることにある。警察から事故の場所や形態、原因など詳細な事故情報を提供してもらい、市民が危険を感じた「ヒヤリ・ハット情報」とともに、インターネットの地図上で一覧できるシステムを開発した。「どこでどんな事故が起きているか、市にはまったくデータがなかった」(長谷川さん)という状況が、これで一変。「事故多発交差点」などの順位がすぐに分かるようになった。

 市は事故情報などをもとに、最も危険度の高い交差点を選んで対策を進める「点対策」をスタート。次に事故率の高い市道路線(約一・八キロ)を選んだ「線対策」、通過交通に悩む東初富地区を対象に「面対策」と続けた。一部は国土交通省と警察庁のモデル事業にも指定され、住民参加で改良整備を進めてきた。市道で四割、交差点で六割ほど事故数は減少した。

 隣接する市川・白井の両市でも同様のプロジェクトをスタートするため「ヒヤリ・ハット情報」の収集作業などを進めている。システムの導入を検討する自治体は、ほかにも増えているという。

 長谷川さんは「行政の事故対策は啓発活動か道路拡幅などの長期的施策に限られていた。だが、詳細な事故データの分析で即効的な対策がとれるようになった。高田教授のような専門家に住民との協議に参加してもらったことで、住民側の信頼感が増したことも大きかった」と手応えを語る。

 高田教授は「警察の事故情報を自治体の対策に結びつけることが大事だ。成果を評価できる段階に入ってきたので、プロジェクトを全国的に普及させていきたい」と期待している。

 文・石井敬/写真・五十嵐文人、高嶋ちぐさ

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