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2006年05月24日(水) 11時03分

裁判員制度:市民と裁判官が審議/上 証拠「だけ」で事実判断 /青森毎日新聞

 ◇自己紹介なし呼称は番号 パフォーマンスに惑わされる恐れも−−本社記者が「模擬」体験
 市民が裁判官と一緒に刑事事件を審議する裁判員制度が09年5月から始まる。最高裁が今年1〜2月に実施した全国アンケート調査では、「制度に参加したくない」との回答が全体の6割を占めたが、記者の立場で是非を判断するには、まずは制度の内容を十分に理解する必要がある。そこで、裁判員制度を想定して青森地裁がこのほど開いた「模擬裁判」(2日間)に参加してみた。実際に「裁判員」を体験することで、制度の意義や問題点を探った。【喜浦遊】
 模擬裁判本番の前日、青森地裁に、これから一つの判決を出す9人の「裁判体」が集まった。裁判官3人と、一般人である裁判員6人だ。
 裁判官は簡単にあいさつしたが、裁判員の自己紹介はなかった。ここでは名前の替わりに、くじ引きで決まった1〜6の番号が裁判員の呼称になる。裁判員のプライバシーを守るためで、私は「5番」だった。
 今回、裁判長を務めるのは地裁八戸支部の佐藤卓生裁判官。「疑問に思ったことは、その場で解決しましょう」と佐藤裁判長はうながした。私たち裁判員は司法の素人。わからないことを「わかりません」と聞けなければ、誤った認識のまま審議が進む。「『あれ?』と思ったことには、すべて価値がある。それが市民を加える裁判の意味でもある」と佐藤裁判長は説明してくれた。
 その後、起訴状が配られ、担当の事件(架空)が明らかになった。罪名は殺人と銃刀法違反事件で、被告人は養殖業の男(48)。自宅で男性(当時35歳)を包丁で刺して死なせたという。裁判官と検察官、弁護士は事前に事件の争点を確認する「公判前整理手続き」を行っており、既に争点が(1)殺意があったか(2)正当防衛が成立するか——の2点に絞られていた。
 裁判官は「殺意」と「正当防衛」の定義を説明してくれたが、わかったような、わからないような……。きょとんとした私たち裁判員の表情に、室橋雅仁裁判官は「正当防衛は大学の法学部で1週間かけて学ぶ項目です」と苦笑い。消化不良のまま、翌日の審理に入ることになった。
     ◇
 「殺すつもりはありませんでした」。翌日開かれた公判の冒頭で、被告人はいきなり殺意を否定した。
 続く冒頭陳述では、検察官と弁護人が、それぞれが考える「事実」を述べた。しかし、裁判員は言葉に惑わされてはいけない。公判で提示される証拠「だけ」をもとに、何が事実かを決めなくてはならない。
 ただ、検察側と弁護側から出される証拠物や書類の量は膨大だ。どの部分が後の判決で重要になるのか、実のところ、さっぱりわからない。内容を確認するだけで精いっぱいで、登場人物の名前さえ混乱してしまう有り様だった。
     ◇
 1日目を通して最も印象に残ったのは、弁護側が演じた「犯行時の体勢」の再現場面の「わかりやすさ」だった。書類では理解しにくい説明も、実際に目で見ると、「なるほど」と納得してしまう。
 逆に言えば、これほど怖いことはない。わかりやすいことと、それが事実であることは、まったく別だからだ。
 その上、弁護人は大きなジェスチャーで裁判員に訴えかけてきた。無愛想な表情に終始した検察官に比べると、弁護人の方が「いい人」に見えてしまう。「パフォーマンスがうまい方が勝つ」とは言い過ぎだろうが、裁判員は法律の知識も経験も少ないだけに、証拠が印象に負けてしまう恐れがある。
 裁判員の負担を考えて多めにとられた休憩時間を迎えるたび、「ふう」と大きなため息が出た。証拠、被告人の様子、遺族の気持ち、被告人の家族の気持ち——。整理されないまま次々と詰め込まれる情報に、頭がパンクしそうな1日目だった。
………………………………………………………………………………………………………
 ◆裁判員の一日(1日目)◆
 9:00 裁判開始
      冒頭手続き=起訴状朗読など
 9:10 検察官の冒頭陳述
 9:25 弁護人の冒頭陳述
 9:45 公判前整理手続きの結果を朗読
 9:50 評議=裁判員に争点など説明
10:20 証拠調べ
 (10:50〜休憩)
11:00 証拠調べ・証人尋問
11:40 評議
 (12:00〜昼休み)
13:00 証拠調べ
 (約30分ごとに10分間休憩)
15:20 被告人質問=弁護側
 (16:10〜休憩)
16:20 被告人質問=検察側
 (16:30〜休憩)
16:40 証拠調べ
16:45 証人尋問=被害者の妻
17:00 証人尋問=被告人の妻
 (17:15〜休憩)
17:25 被告人質問
17:35 次回期日指定
17:40 閉廷

5月24日朝刊
(毎日新聞) - 5月24日11時3分更新

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060524-00000078-mailo-l02