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2006年05月23日(火) 20時07分

模擬裁判に参加 量刑巡り議論に熱朝日新聞

 09年5月までに始まる「裁判員制度」をPRするための模擬裁判が、青森地裁で19日までの2日間にわたり開かれた。私も裁判員役の一人として参加した。プロの裁判官3人を交えた生々しい話し合いを経験し、制度の意義や問題点について考えてみた。(小宮山亮磨)

 ◇裁判員制度をPR

 「被告」は、殺人と銃刀法違反の罪で起訴された48歳の男。隣人と殴り合いのけんか中、相手方に加勢してきた隣人の息子を包丁で刺して死なせた、との想定だ。裁判官3人と検察官、弁護士はそれぞれ本物が務め、被告や証人は裁判所の職員が演じる。裁判員役6人は全員、一般の人だ。

 争点は大きくわけて二つ。(1)殺意があったか(2)正当防衛と言えるか——だ。殺意がなければ殺人罪にはならないし、正当防衛なら無罪になる。

 初日は、午前9時に開廷した。裁判官に続いて裁判員が入廷し、アーチ型の長い席に着く。検察官と弁護士が、意見を言い合うのを聞いた。

 「被害者に追いかけられて転び、怖くなってとっさに刺した」という弁護士に対し、「転んだあと立ち上がり、腹めがけて突き刺した」という検察官。ときどき休憩を入れながら、それぞれが提出する証拠をチェック。午後6時前に終わった。

 話し合いに熱が入ったのは2日目だ。午前10時に開廷し、まず検察官が懲役15年を求刑。弁護士は無罪、「たとえ有罪でも懲役3年程度だ」と主張した。弁護士は「被告が被害者を怖がっていた」と説明するため、被害者が持っていたという角材を法廷内で実際に振り回すパフォーマンスまで見せた。

 午後から、裁判員と裁判官計9人による本格的な話し合いが始まった。有罪か無罪か。刑罰はどのくらいか。青森地裁八戸支部の佐藤卓生判事が裁判長として、議論を仕切った。

 まず犯行の日時や場所など、比較的無難な点を証拠とつき合わせて確認する。話し合いは次第に核心に近づき、議論は熱を帯びていった。

 被告が寝た状態のまま刺したのか、立ち上がって刺したのか、という点で意見が分かれた。裁判官3人は全員、検察官に賛同する「立った」派。この意見が多数決で優勢になったが、「疑わしきは罰せず」の原則はどこまで成り立っているのか、疑問も残る。

 結局、この点は棚上げに。「被害者から襲われると勘違いしていた可能性がある」「とはいえ包丁で刺すのはやりすぎ。『殺意』はあった」という点で、意見はおおむねまとまっていった。

 だが、刑罰をどうするかという「量刑」になると、裁判員の意見はこれまでになかったほど大きく分かれた。まず佐藤判事が、今回のケースでは懲役2年半〜11年の間だと言う。幅が広すぎる。

 みなが口ごもる。「直感でいいですから」と促され、私は「7、8年。間をとって7年半」と言ってみた。もちろん根拠はない。

 他の5人も、催促されて年数を口にした。最短3年9カ月、最長は11年。佐藤判事が妥協点を探るが、「バナナのたたき売りじゃないんだから、これ以上はまけられない」と、刑の短縮を渋る意見も裁判員から出る。最終的には、偶然にも私が言った「7年半」にまとまった。

 その後に佐藤判事の意見を聞くと、「8年」だった。うまく調整されたということなのかもしれない。

 判決の言い渡しが終わったのは午後8時過ぎ。予定を4時間近く過ぎていた。

■三輪和雄・地裁所長に聞く 市民感覚を裁判に

 模擬裁判終了後、感じた疑問を青森地裁の三輪和雄所長に聞いた。

 ——量刑について裁判員の判断は大きく分かれた。経験のない素人が裁くのは難しいのでは。

 「裁判官だと鍛えられて『量刑感覚』が身についてくるが、訓練をへていなければ、意見は分かれるに決まっている。裁判員制度は法律の専門家が量刑の『相場』として考えていたことが本当にいいのか、市民の常識で見直してもらうということでもある」

 ——たとえば殺人罪の罰は懲役5年から死刑までと幅が広い。幅を狭めて、罪の種類を細かくすることも必要では。

 「制度が定着した将来、そのことが制度のネックになれば刑法も変わっていく可能性がある」

 ——制度導入で何が変わるか。

 「裁判が非常にわかりやすくなる。一般の国民だけでなく、被告にとっても、自分がどう裁かれたのかがわかるのはいいことだ。これまでの裁判は閉塞(へい・そく)感があるといった批判があった。国民が参加すれば、市民の感覚を採り入れられる」

 ——開かれた裁判のためには、合議の際の裁判官同士の話し合いの中身を公開してしまうのが一番簡単な方法では。

 「弊害が多い。個別的な判断について意見の分かれ方を判決に表してしまえば、裁判の存在価値について疑念を持たせる要素になる。裁判官一人一人の意見を外に出せば、極端な場合には裁判官の身に危険が及ぶこともあり得るのではないか」

 ——検察官の主張に対して「合理的な疑い」があれば、被告は無罪になると言うが、どこまで証明すれば「疑い」はなくなったと言えるのか。

 「比喩(ひゆ)的に言えば、完全に信じられるのを100%としたら、刑事事件なら多分90%の確証では足りない。かと言って99%では厳しすぎる」

《キーワード》裁判員制度

 一般人から選ばれた裁判員6人と、プロの裁判官3人が刑事裁判に立ち会い、話し合って判決を出す制度。意見が一致しなければ、多数決で決まる。対象は、殺人や傷害致死、放火などの重大な犯罪。国民の意見を採り入れることで、司法への理解を深めることを主な目的としている。

http://mytown.asahi.com/aomori/news.php?k_id=02000000605230003