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2006年05月23日(火) 00時00分

民団と総連の和解を承認? 北朝鮮の狙いは  東京新聞

 在日本大韓民国民団(民団)と、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)が、和解へ向け大きく動きだした。在日の社会を支えながら、組織としては対立してきた両団体の和合への決意は、歴史的決断だ。ここにきての“雪解け”は、韓国と北朝鮮との関係とも密接に絡む。特に北朝鮮は、この和解を承認しているとみられるが、その狙いとは−。

■『人権人道を大切にする』

 歴史的トップ会談から五日後の二十二日、民団中央本部からマスコミ各社へ「緊急記者会見」の知らせが回った。集まった取材陣を前に、河丙〓(ハビョンオク)団長は訴え続けた。

 「拉致問題を無視したり、脱北者問題を棚上げにしたり、そんなことは絶対にありませんよ。民団は人権人道を大切にします」

 ときには声のボリュームを上げ、ときには満面の笑みを見せながらのパフォーマンスが、むしろ事態の異常さを際だたせた。

 会見を開いたのは、中央本部の方向転換に、内部から異論が出たからだ。

 新潟県地方本部は「多くの拉致被害者がいる新潟県では、現時点で和解に応じることは適切でない」と中央の決定に従わない旨を県内各支部に伝えた。民団島根県地方本部も「拉致問題が解決しない中での和解が、日本人の理解が得られるか疑問」とし、民団長野県地方本部も「脱北者や拉致の問題が棚上げになる恐れがある」と独自路線を貫く方針を決めた。

 日本のメディアからも「北朝鮮が経済支援を取り付けるのに利用された」「本国から圧力を受けたのか」と不審の目を向けられた。

 そうした声にひとつひとつ反論するのが、この会見の目的。北朝鮮に有利な展開になったと理解されることには神経質になっているようだ。

 拉致問題については「無視できない。(国会参考人招致で来日する)金英男(キムヨンナム)さんの母親を民団が迎えに行き、激励します。総連にも『本国に在日の立場を伝えられるのは総連ではないか』と期待と要望を伝えていく」と影響を打ち消した。

 国内の脱北者への支援事業は、見直すことになるという。だが、これも二月に誕生した新執行部の「国際赤十字など公的な機関に任せた方がいい」という方針からで、総連を意識したわけではないと繰り返した。

 だが会見では在日の記者からも「方向転換はどのような機関で議決されたのか」など不信感に満ちた質問が続いた。半世紀続いた対立からの“雪解け”がもたらした波紋は、簡単には消えそうもない。

 民団と朝鮮総連は「在日本朝鮮人連盟」(朝連)という一つの団体だった。「朝連」は一九四五年に日本が敗戦した後、在日朝鮮人が民族団体として結成。朝鮮半島への引き揚げや生活の支援などに当たったが、翌年、左右両派が対立し分裂する。右派は「民団」の前身である「在日本朝鮮居留民団」を結成し、四八年に南北朝鮮双方が政権樹立を表明すると韓国支持の立場を取った。一方、朝連は北朝鮮を支持し、激しい闘争を繰り返した。

 このために朝連は四九年に解散させられたが、五一年に在日朝鮮統一民主戦線(民戦)として復活。五五年に共産主義路線から北朝鮮の社会主義建設に参画する路線に転換し、総連と名前を変えた。

 民団と総連の歴史的和解の背景には、それぞれ組織内の事情がある。両団体とも在日の組織離れが進み、「生き残り」に向けて思惑が一致した。法務省によると、日本で永住資格を持つ「韓国籍」「朝鮮籍」は計六十万七千四百十九人(二〇〇四年末現在)。若い世代が日本国籍を取得するなどして、九一年末の計六十九万三千五十人をピークに減り続けている。

■組織離れに危機感募らす

 コリア・レポートの辺真一編集長は「実態としては在日約六十万人のうち半数以上は、どちらの組織にも属さない『無党派』だ。残り三十万人のうち、二十二万人が民団、八万人が総連の構成員といったところだろう」と在日社会の現状を説明する。

 元総連職員の男性は「総連の主な活動は民族教育と商工会の税務対策、それに朝銀信組の経済活動だった。朝銀の破綻(はたん)で機能がかなり低下した。そこに拉致問題が追い打ちをかけた。民族学校の生徒数も少子化と相まってどんどん減っている」と解説する。

 さらに「若い世代の在日には、もともと対立もなかったので、和解といってもピンと来ない。和解が必要だったのは、一世、二世の年配。民族性の維持が手詰まり状態で、和解してアピールしないと、さらに組織離れが進んでしまうと危機感を強めたのだろう」と在日社会の内情を明かす。

 対外的には、二〇〇〇年六月の金大中(キムデジュン)大統領(当時)と金正日(キムジョンイル)総書記による南北首脳会談から続く本国の融和ムードも影響している。離散家族の再会や経済協力など、南北の交流は拡大している。

 朝鮮半島情勢に詳しい静岡県立大学教授の伊豆見元氏は「和解は本国の動きに歩調を合わせた結果だ。南北首脳会談から六年の今年、韓国と北朝鮮は新たな段階の関係に入ろうとしており、二回目の首脳会談も視野に入っている。それに合わせて民団と総連が協力するのは、韓国、北朝鮮にとって望ましいことだ」と話す。

 北朝鮮経済の韓国への依存も増しており、融和ムードに弾みをつけることは、北朝鮮側の思惑とも一致しそうだ。

 辺氏はさらに、今回の和解に際して、北朝鮮の総連への事前承認があったことは間違いないとみる。その上で北朝鮮側の狙いをこう解説する。「民団の幹部が近く北朝鮮を訪問することが考えられる。民団の団員の多くは北朝鮮に身内がいるので、北朝鮮訪問の道が開ければ、金持ちや企業家が観光や投資でおカネを落とすことになる。そこが北朝鮮にとって最大の魅力になる」

 一方、和解への動きは、日本人拉致問題に影響を及ぼすのか。辺氏は「日韓対北朝鮮という対立構図が、日本対南北朝鮮という構図にシフトしつつある。その象徴が民団と総連の和解だ」と指摘。その上で民団幹部が訪朝した際に、金総書記に拉致問題の解決を提起することを期待する。

 「拉致問題では民団も同じ在日として、あおりを受けている。民団は北朝鮮にとって『金の卵』なのだから、民団幹部が『拉致問題を何とか速やかに解決してほしい』と訴えれば、金総書記もないがしろにはできないだろう」

 一方、伊豆見氏は南北朝鮮の融和がさらに進むことによって、日本人拉致問題が置き去りにされる懸念を指摘する。

 「日本が韓国と連携して北朝鮮に圧力をかけることは難しくなった。韓国も自国の拉致被害に対して関心を強めているが、日本とは解決に向けたアプローチがまったく違う。捕虜問題と一括して、圧力ではなく、取引で解決しようとしている。場合によっては、韓国の方が先に拉致問題を解決させる可能性も出てきた」

<デスクメモ>

 昨年十一月、民団が「在日韓人歴史資料館」を開設した。名称を「韓人」にしたのは「韓国人」や「朝鮮人」など国籍等にとらわれず、「世界各地で普遍的に使われている」からだそうだ。この和解は「在日韓人」に一歩近づけた。だが「在日」減少も進む。在日を支える存在でいられるのか、時間との闘いだ。 (鈴)

※〓は金へんに玉


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060523/mng_____tokuho__000.shtml