悪のニュース記事

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2006年05月22日(月) 00時00分

ニートを防げ朝日新聞

 私が教鞭(きょうべん)を執る東京工科大は八王子の丘陵地帯にあります。理系を主とした専門学校なども都内に併設しており、新学期を迎えはや2カ月が過ぎました。

 かつては「五月病」などと言って、5月の大型連休を過ぎたころから学校に出てこなくなる学生が少なくなかったのですが、最近の学生はよく大学には通ってきます。

 ただ、「何をしてよいのかわからない」という学生が増えているようです。私が生まれる前の昭和の初めに公開された邦画に「大学は出たけれど」というのがありましたが、このままではフリーターやニートの候補生を育てることになりかねないと感じています。

 私のバイオニクス学部は3年前に開設されました。開設当時から、私は最初の授業で必ず人間の遺伝子を取り上げたビデオを学生に見せることにしています。

 工事現場で頭に大けがをした男性が突然性格が暴力的に変わり、その後、馬車を操る御者(ぎょしゃ)になって馬とふれあう生活をさせたらやさしい性格を取り戻した話(外国の実話です)や、遺伝子の中には高所恐怖症のように恐怖を感じるものがあり、その影響が異常に強くでると、一日中、家に閉じこもっている人がいるという話などを紹介します。

 これらはホルモンを作る遺伝子の働きが一因と考えられるのですが、バイオニクス学の扉を開くきっかけになる話です。

 講義が終わると、学生が私の所に近づいてきて「どの先生の授業をとれば、今の話のような勉強ができるのですか」と質問攻めにあいました。

 やはり、今の学生は映像主体の講義がなじみやすいのかもしれません。それにしても、正直言ってどんな授業を受け持つ先生がいるのかぐらいは、大学入学前にチェックしてほしいと思います。

 私が学生だったころは大学・短大への進学率は15%前後で、海外旅行などはめったにできない時代でした。それでも私は「海外に行っていろんな人や文化に触れたい。そのためには外国航路の船に乗れることが第一だから東京水産大(現東京海洋大)に行こう」と考えました。

 今では、学会などで海外に出かける機会は多いので、目的は達成したかもしれません。

 ただ、大学・短大進学率が5割を超えた現在、高校の進路指導では、どこの大学にどんな学部があるのかを教えて、成績に応じた進路指導をするのが精いっぱいなのかもしれません。

 事実、ビデオを見せた後、「バイオニクス学といっても、遺伝子組み換え技術を利用した医薬品や機能性のある食品、環境問題などニュースで取り上げられる話題に直結することばかりでしょう」というと学生は納得します。

 一度走り始めたら、彼らは全速力で走り出します。そうさせるのが、私たちの仕事になっているのです。

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 かるべ・いさお 1942年、東京都生まれ。東京工業大、東大教授などを経て02年、東京工科大教授。05年、副学長。主な著書に『バイオニクス学のすすめ』(丸善)『120歳まで若さを保つ法』(朝日出版社)。

http://mytown.asahi.com/tama/news.php?k_id=14000150605220001