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2006年05月17日(水) 00時00分

ゴルゴ生む分業と脚本朝日新聞

●衣装、背景、顔…7人が分担
●「構成」は必ずさいとうさん
(文・片山健志 写真・徳丸篤史)

 「用件を聞こう!!」。入り口で険しい視線を送りながら尋ねるゴルゴ13(サーティーン)の絵に迎えられた。机に向かう男の左手には、太さの異なる7本のペン。おもむろに1本を選び取る。劇画家さいとう・たかをさん(69)率いる「さいとう・プロダクション」。東京・中野に、3階建ての自社ビルはある。

 分業システムをいち早く漫画・劇画界に持ち込んだ。超A級スナイパーが主人公の代表作『ゴルゴ13』は衣装、背景、顔、武器などを7人が臨機応変に担う。「このじいさん、どんな格好してたの?」とさいとうさん。「スーツです」「いや、池のそばにおる時だ」。描き進めながら細部を確かめる。

  ◎

 メカが得意の千葉利助さん(54)の机の周りは、ゴルゴ愛用のM16アーマライトカスタムをはじめエアガンやモデルガンがぎっしり。数多く描いてきた銃器の資料だ。「趣味と実益を兼ねてます」

 今春まで連載4本を抱え、増刊が重なる月は300ページ超を仕上げた。スタッフは30代の2人を除き50歳以上。ベテラン2人が倒れた今年1月、さいとうさんが仕事部屋に泊まり込んだ。仕事を減らしても、月200ページ前後はある。

 さいとうさんは60時間連続で働き、4時間の休憩後、さらに48時間働いた記録を持つ。「このときはいすから転げ落ちて寝ました」

 米ソ冷戦に民族紛争、原発事故、サイバーテロ……。現実の世界情勢を踏まえた舞台設定はゴルゴ13の魅力の一つだ。小学館ビッグコミック編集部によると、常任の脚本家は現在7、8人。68年の連載開始以来、約30人が執筆した。のちに直木賞作家となった船戸与一さんもその一人。銀行マンや分子生物学の研究所員も名を連ねる。

 米ホワイトハウスの大統領執務室もロシアのクレムリンも、資料を渉猟する。「背景をリアルにして実話のように見せる。でないと主人公が荒唐無稽(むけい)なので浮き上がってしまう」とさいとうさん。

 ビルの屋上に約3千冊を収めた書庫があるが、その役目は、総務担当の磯部陽子さん操るパソコンに取って代わられつつある。ブラジリアの国会議事堂も、『鬼平犯科帳』に登場する江戸時代の衣装もインターネットで探す。不案内のロシア文字に見当をつけ、ロシア車も見つけ出した。「機械文明が人間を幸せにすることはあり得ない」が信条のさいとうさんも、ドーバー海峡の資料が10分足らずでそろった時は目を見張った。

  ◎

 脚本をコマ割りする「構成」と主要人物の顔を描く仕事は、今もさいとうさんだけが担う。連載1回分が2日で仕上がることも、1週間かかってできないこともある。ゴルフの後も、慰安旅行先の宿の客室でも、週末に都心のワンルームマンションから戻る八王子市内の自宅でも、構成を考える。

 「正義」「悪」という言葉は認めない。時代によって意味は変わると思うからだ。ゴルゴは依頼人にウソを許さず、仕事に徹する。「ゴルゴに自分のプロ意識をかぶせている面はある」。ゴルゴ13の連載開始から38年。穴を開けたことは、一度もない。

■■独言伝言■■

◆核心つく「監督」の助言

 赤司教(さとし)さん(35)は、さいとう・プロの最年少のスタッフだ。とはいえ、経験15年。「先生」と呼ぶさいとうさんの、核心を突いた短い助言に今もドキッとする。「描き込むほどいいと思って細部まで描いたら、『塗りつぶした方がよくないかぁ?』。その通りでした」

 さいとうさんは、独り言もポロッと、「(自分は)耳にこだわったことないなあ」という具合だとか。「もっと良い作品を、という強い意思を感じる。ちょっと追いつけません」。スタッフに対し、「映画に例えれば私は監督。私の意図するところに従ってもらう」と厳しそうなさいとうさんだが、赤司さんには「先生は押しつけはしない」と映る。

http://mytown.asahi.com/tokyo/news.php?k_id=13000120605170002