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2006年05月13日(土) 00時00分

トラブル続きのJR東 『鉄道マン元気出せ』 東京新聞

 一体どうなっているのか。当たり前の日常を支える公共交通の主役、鉄道に大きな揺らぎが起きている。先日はJR京浜東北線で信号トラブルが発生し十四万五千人に影響が出た。明日、十四日は六百人以上の死傷者を出した信楽高原鉄道衝突事故から十五年。同じ日に閉館する交通博物館を訪れる鉄道マニアたちの思いは。

 十二日の交通博物館は平日にもかかわらず押すな押すなの盛況ぶり。電車の運転が体験できるシミュレートマシンには十メートルの順番待ちの列ができ、実物の八十分の一の列車が走り回る模型鉄道パノラマには二重、三重の人垣が出来上がっている。小さな子どもの手を引く家族連れなどが目立つが、中にまじっているのが筋金入りの鉄道マニアである。

 特徴といえば、首から下げた大型カメラ。何より展示物を見つめる熱い、食い入るような視線である。

 線路の切り替え機をガチャコン、ガチャコンと動かしながら、同行の友人にあれこれと説明をしていたのが千葉県佐倉市から来た古川満さん(63)。

 ■『過密ダイヤ 原因の一つ』 

 「新小岩の機関区のそばに住んでいたことがあって興味を持ったのが始まり。引っ越してからは佐倉の機関区にもよく通った。C−57だのC−58だの遠くから眺めたもんだ。鉄道の魅力といえば、機械とはいえ人間くさいところでしょう。SLなんか人間に技術がなければ動かなかったと思うんだ。それに比べれば電車なんか制御できるはずなのに、近ごろは事故が多いよね。営利追求主義で人減らしをしたのが原因じゃないの。民営化のせいもあるのか。ダイヤも過密になったしなあ」と苦言を呈す。

 雪景色の中を走るSLのビデオを食い入るように見ていた老紳士がいた。葛飾区の横根順一さん(72)だ。

 「青森の出身だからね。SLは故郷の風景ですよ。今でもあちこち、鉄道の旅をするよ。ストーブ列車の津軽鉄道『走れ!メロス号』とかね。吉幾三の歌に出てくる、あれ。一生懸命走っているって感じがいいんだ。廃線になったローカル線や、辛うじて残っているけど駅舎もぼろぼろになったような線が全国にたくさんあるでしょ。本線も特急列車ばかりで鈍行はめったにこないなんてところが多いよ。地方が切り捨てられる時代だね。そうやって痛めつけられて、鉄道マンは元気をなくしちゃったんじゃないか。彼らの誇りが世界一の日本の鉄道を支えていたのに」

 高校二年の若槻勲さん(16)は横浜市からやってきた。「鉄道好きになったきっかけは、ゲームの『電車でGO!』。ゲームも面白かったけど、この博物館に来て実物の迫力に圧倒された。鉄のにおいとか重量感とか、当たり前だけど現実感が違う。いつか鉄道で日本を一周したい。なぜ事故が多いかって、新幹線が死亡事故ゼロなのを考えればわかると思う。お金と人と技術を注ぎ込めば、安全性は高まる。どこかで手を抜いたから事故が起きるんだよ」

 では、鉄道王国復活に向けて、どうすればいいのか。玄関前のD−51(デゴイチ)を眺めていた佐藤輝義さん(44)はこう提言する。「乗ることでしょ。みんなが車をやめて電車に乗る。電車も、路面電車やらモノレールやらとバリエーションを増やして身近な生活の足にする。ローカル線も大切にしなきゃ。活気が戻れば、また日本の鉄道は輝き始めるよ」

 ■『JRは現場に戻れ』

 鉄道マニアから“危ぐ”の声が上がるように首都圏のJR東日本では、昨年後半から今年に入っても大きなトラブルが相次いでいる。

 運行トラブルが起きた際、JRは振り替え輸送などを行っているが、乗客にしてみれば「飛行機に乗れなかった」「重要な商談を逃した」などといった被害もありうる。

 JR東日本の広報担当者は「旅客営業規則などにより、一般乗車券の効力は駅間を安全に輸送するということにとどまっており、何時何分までに確実に到着させることには及んでいない」と明かす。過去に運休などで損失を被ったとしてJRを相手取った訴訟もあったが「低価格の運賃でそこまでの責任を鉄道事業者に課すのは酷だ」と賠償責任を否定する判決が出て、以来判例として定着しているという。

 問題は、なぜこれほどトラブルが続発しているのかという点だ。

 同社の担当者は「それぞれの原因がバラバラで一つ一つ個別に詰めていくしかない」と説明。首都圏は戦前から鉄道整備が進んだ一方で目に見えない老朽化、それに伴う不具合なども考えられるが「運行本数、旅客人員とも多く、それに対応して設備点検、整備の頻度も高い」と強調する。

 元鉄道総合技術研究所研究室長の中村英夫・日本大教授も「JR東日本はJR各社の中でもインフラには一番お金をかけ、信頼性向上に向けた独創的開発を進めている」と評価する。

 しかし、技術評論家の桜井淳氏は「民営化後の二十年間でJR全体では約三割鉄道関係従事者を減らした。そのことの弊害が噴出しているのだろう」と批判する。「特に保線関連は100%近く下請けに丸投げしており、線路という自分の体の一部なのに、障害が自分の脳には届いていない状態。トラブルが偶発的に重なっているとはいえないと思うし、重大な事故さえ懸念される」と警告する。

 ■メーカー呼び対応する例も

 信楽高原鉄道事故をきっかけに設立された鉄道安全推進会議の副会長で関西大教授の安部誠治氏も「JR東日本も西日本もいざトラブルが起きると、体制の立て直しに時間がかかるのは共通。十五年ぐらい前まではトラブルが発生すると何が問題か立ちどころに分かる技術者がいたが、今は場合によってはメーカーの担当者を呼んで対応させる。これでは数時間かかっても不思議ではない」。

 安部氏によれば、JR東日本は民営化後に整備回数を抑えてコストダウンを図る「メンテナンスフリー」のハード整備を掲げていたが、結局、それは外注化を促進。故障した際の代替部品の在庫も切りつめ、配置場所も少なくなったため、トラブルが起きても遠い場所から運ばなければならないという。

 「一度外部に出してしまった技術力を全部取り戻すのは現実的に不可能だろうが、せめて五、六年現場で技術を習得し、その後、現場監督ができるような仕組みをつくるべきではないか」と安部氏は指摘する。

 日本航空は一九八五年の御巣鷹山事故から二十年を超えたのを機に、今年四月から事故機の後部圧力隔壁などの残骸(ざんがい)の一般公開に踏み切った。

 閉館する交通博物館の展示物は、来年十月十四日(鉄道の日)に、JR東日本の創立二十周年記念事業のメーンプロジェクトとしてさいたま市にオープンする「鉄道博物館」に移設される。

 JR東日本は社員研修施設の総合研修センター内に、事故車両の車輪などを展示する『事故の歴史館』を併設している。前出の桜井氏はこう訴える。

 「安全に対する世論を喚起する意味でも、こうした事故関連の遺物を一般公開してはどうだろうか」

<デスクメモ> 学生時代、鉄道研究会だったあるデスクは「交通博物館のあの車体と油のにおいが好き」とのこと。確かに博物館の玄関にある初代新幹線の前に立つと、幼いころドキドキして乗った独特のにおいが感じられた。JR東日本が威信をかけて開く鉄道博物館では安全を“五感”で感じられる展示をお願いしたい。(蒲)


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060513/mng_____tokuho__000.shtml