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2006年05月09日(火) 00時00分

返済だけOKなぜ アイフル業務停止 東京新聞

 借りた人に行き過ぎた返済を迫ったとして金融庁より八日から「業務停止」処分(三−二十五日間)を受けている消費者金融会社「アイフル」。同社ではこの期間の「貸し付け」は行わないが入金(返済)は受け付けるという。無理な返済請求へのペナルティーで業務できないなら、この期間はどうして「返済受け付け停止」にならない? (浅井正智、竹内洋一)

 「ほとぼりが冷めたら、またしつこい取り立てを始めるんだろう。金貸しも慈善事業でやっているわけじゃないんだし」

 サラリーマンやOLが行き交う昼すぎの東京・渋谷。「お客さま各位に多大なご迷惑をおかけし、心からお詫(わ)び申し上げます」とアイフル渋谷駅前店の前に掲示された張り紙を横目で見ながら、とび職の男性(45)はこう話した。

 男性自身、別の消費者金融から借金をしている。体をこわして仕事に出られなくなった穴埋めのため、仕方なく借りたという。

 「消費者金融が強引な取り立てをすることくらい承知のうえで金を借りている。そもそも銀行が貸し渋るから、貧乏人は消費者金融に頼らざるを得ない」

 アイフルは債務者の家族や勤務先に電話し、しつこく返済を催促するなどしたため、金融庁から異例の業務停止命令を受けた。処分の対象になったのは無人店舗を含む全国約千九百店全店。現金自動預払機(ATM)による融資も停止されるが、新聞などに掲載した文書では「業務停止期間中もお取り扱い可能な業務」として「弊社各店舗でのご入金」「提携先ATMでのご入金」を明記している。融資した顧客からの入金(返済)は受け付けるというわけだ。

 ここで疑問がわく。そもそもアイフルが業務停止を受けた原因は、強引な取り立てだったはずだ。ならばこの間は返済を猶予すべきではないのか?

 しかしアイフルを所管する近畿財務局はこれには否定的だ。同局の担当者は「もし返済できないことになれば、延滞が生じ、債務者の不利益になりかねない」と強調する。同局資料にはアイフルの「停止対象業務」として「業務の全部」と掲げながらも「弁済の受領に関する業務および債権の保全行為を除く」とカッコ書きがされている。

 一方、アイフル側は「もし返済できず、そのまま期限を過ぎてしまったら遅延損害金が発生する。返済を業務停止に含めないのは、むしろ債務者保護の観点からでは」と行政指導をおもんぱかる。処分を下した側も受けた側も、返済が“停止”にならないのは「債務者保護」のためという点で一致している。

 業務停止期間の返済猶予命令ができない理由について重ねて聞くと近畿財務局の担当者はこう答えた。「債権者(アイフル)の正当な権利が失われることになりますから」

 とはいっても、業務停止中も返済できることを全顧客に連絡しているわけではない。アイフルの広報担当者は「各店舗の店頭に張り紙をしておきましたので…」と言葉を濁す。

 返済は店頭でもできるが、この日訪れた渋谷東口店と五反田東口店はいずれも有人の窓口が閉まっていた。同社のホームページは先月二十八日から「お詫びと業務停止期間のお知らせ」を掲載するだけ。何もせず、ひたすら嵐が過ぎるのを息を潜めて待っているかのようだ。

 金融庁の処分、アイフルの対応に対して「釈然としない」と話すのは、日本消費者連盟代表運営委員の富山洋子氏だ。「業務停止期間も金利はそのままだし、返済もされるわけだから、アイフルにとっては、まるで打撃にならない。ペナルティーを科すなら、打撃になるものでないといけない」と憤る。

 富山氏は「取り立ての問題が報道された段階でアイフルのイメージが傷つき、借り手が少なくなるのは当然だ。行政処分はさらにダメージを与えなければ意味がない。単なるアリバイづくり的な処分で、一体誰のためなのかという気がする」と指摘する。

 アイフル被害対策全国会議の事務局長を務める辰巳裕規弁護士は、処分がアイフルの子会社に及んでいないことを問題視する。「全店の業務を停止させたことは評価できるが、ライフカード、事業ローンのシティズなどの子会社はそのまま営業しているし、テレビCMも流している。アイフルはグループとして営業しているので、本体の処分だけで問題解決とはいかない」

 辰巳弁護士はさらに「三日たってそのまま営業を再開し、その後も高収益のために過剰に融資し、厳しく取り立てるアイフルの体質が変わらないなら、これで終わりということにはならない。立法も含めて実効的な対策が講じられなければ、消費者金融業界全体の改革を促すことにはならない」として、立法・行政の規制による高金利引き下げや過剰融資の禁止を訴える。

 今回の問題の背景には、日本の金融システムの層を薄くしてしまった「金融行政の怠慢」があると指摘するのは、エコノミストの紺谷典子氏だ。

 「地域に密着した顔の見える小口の金融機関は必要だ。信用組合ですら自己資本比率が低いという理由で統合したり、なくしたりしてしまった。その結果、借り手のきめ細かいニーズに対応できる多様な事業者金融がなく、メガバンクと消費者金融しかない状況になってしまった。アイフルだけたたいても問題解決にはならない」

 ■「金融透明化へ“百罰百戒”を」

 経済評論家の三原淳雄氏は「そもそも利息制限法と出資法の間にグレーゾーン金利があるということがおかしい。金融にも透明なルールがなければいけない。脱法だが違法ではないなんて国際的には通用しない。今回の処分で『普通の国』になるなら評価できる。そのためには『一罰百戒』でなく『百罰百戒』でなければいけない。ヤミ金融に対してもきちんと対応しなければいけない」。

 マーケティングコンサルタントの西川りゅうじん氏は、「アイフルは大きくイメージダウンし、社会的な制裁を受けているが、場合によっては、貸金業の免許を取り消すくらいの厳しい態度で臨まないと、金融業界全体がよくならない」と指摘する。

 国民生活センターの調査では、消費者金融やクレジットの使いすぎで返済に行き詰まった多重債務者は全国で二百万人以上。消費者金融、信販会社の営業の在り方についての顧客アンケートで「貸付可能金額の増額を提案された」「必要な金額以上の借り入れを勧められた」など過剰融資をうかがわせる回答も多数寄せられている。

 前出の富山氏はこう訴える。

 「お金持ちは消費者金融を利用しない。消費者金融を頼るのは、生活が苦しくても銀行が貸してくれないという人たちだ。そういう厳しい状況にある人を苦しめた業者に対しておざなりな処分では、社会の二極化がさらに進む。今回の問題では、返済の猶予や利息を減免する特例もあってしかるべきだ」

<デスクメモ>

 クレジットカードで数万円の“キャッシング”をしたとき、後からとんでもない高額利息が加算され目をむいた覚えがある。金銭話にカタカナ用語は要注意だ。さて今回の「業務停止」命令。いかにもご大層な名前だが、消費者金融業界へいかなる戒めになったのか。もっともらしいお役所言葉にも、ご用心。 (蒲)


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060509/mng_____tokuho__000.shtml