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2006年05月09日(火) 00時00分

検察取り調べ録音・録画 『裁判員制度』の重大事件 東京新聞

 法務・検察当局は九日、二〇〇九年に導入予定の裁判員制度の対象となる殺人などの重大事件に絞って、検察官による容疑者取り調べの様子を録音・録画する捜査の「可視化」を七月から東京地検で試行することを決めた。大阪地検でも実施する方向で検討している。 

 「自白強要」などの被告側主張に対して、供述の任意性を公判で効果的に立証する証拠として活用、裁判員制度の前提となる迅速な審理を確保する狙い。試行対象は検察官が裁量で選ぶなど限定的だが、可視化に一切応じなかった捜査当局にとって重大な方針転換だ。

 杉浦正健法相は同日の閣議後会見で「正式導入する方向の試行」と述べ、自白偏重の温床とされる密室での取り調べの改善につながることも期待される。

 関係者によると、試行の対象となるのは、警察から送検された殺人、強盗殺人などのうち、検察官が「必要と認めた」事件。こうした事件では、検察官は警察の供述調書を基に容疑者を取り調べ、検察官調書を作成するのが通例で、検察官が「任意性立証のため必要かつ相当」と判断した部分の様子を録音・録画する。

 特捜部などによる検察の独自捜査事件は対象とならないほか、容疑者供述の任意性などを公判で立証する検察官活動の一環として行うため、警察の取り調べも対象としない。

 刑事訴訟法などの改正の必要はなく、運用によって実施する。

 試行期間は裁判員制度がスタートする前の〇八年までの約一年半で、その段階で正式導入を判断する。

 日本の刑事司法の特徴は密室での取り調べにあるとされ、国連の国際人権(自由権)規約委員会は一九九八年、日本政府に録画などによる取り調べの記録を勧告。日弁連も、自白強要の有無などの検証が可能として導入を強く求めていたが、検察、警察とも一切、応じていなかった。

 昨年十一月施行の改正刑事訴訟法にも、裁判迅速化のための公判前整理手続きなどは盛り込まれたが、可視化については先送りされた。

 一方、松尾邦弘検事総長は今年二月、全国の検事長や検事正を集めた検察長官会同で「裁判員の理解を得るため、任意性立証の具体的方策が必要」と指摘し、取り調べの可視化実現に含みを持たせる発言をしていた。

■『自白偏重』防止に効果

【解説】 容疑者の取り調べ状況を録音・録画する「可視化」の導入はここ数年、法曹界で議論の焦点になっていた。一貫して反対してきた法務・検察当局が、試行とはいえ導入への道筋をつけたことは、大きな方向転換といえる。

 背景には三年後に迫った裁判員制度への強い意識がある。今の刑事裁判では、供述調書の真偽で検察側と弁護側が全面対決した場合、審理が長引くことになるが、裁判員制度では審理時間の短縮が求められる。

 さらに「今の立証方法のままでは、裁判員制度のもとで無罪判決が増えるのでは」という検察上層部の危機感がある。書面の供述調書だけでは、一般の裁判員に自白強要の有無の判断がつかず、結局「疑わしきは罰せず」の結論に至る可能性があるという危惧(きぐ)だ。

 捜査では容疑者の自供を引き出すことに重点が置かれる。それが「密室での自白強要」という危険性につながる。取り調べの可視化が自白偏重防止につながることは間違いない。

 欧米諸国のほとんどは何らかの可視化を取り入れている。捜査の透明化は世界的な流れで、日本の密室捜査は海外からも批判されてきた。今回の可視化試行は極めて限定的なため、捜査当局には正式導入へ向けた一層の取り組みが求められる。 (社会部・鬼木洋一)

 <メモ>裁判員制度

 (1)死刑または無期懲役・禁固刑が定められている罪(2)故意に被害者を死亡させた罪−を対象に、原則として裁判官3人、市民から選ばれた裁判員6人が有罪、無罪を判断し、量刑も決める。

 殺人、強盗殺人、強盗強姦(ごうかん)、現住建造物等放火、危険運転致死などがこれに当たる。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20060509/eve_____sya_____000.shtml