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2006年05月07日(日) 00時19分

「還暦」ソニー、正念場 巻き返し目指し続く模索  朝日新聞

 ソニーは7日、設立60周年を迎える。若さと独創性あふれる社風で「世界初」「日本初」の製品を次々に開発。音楽・映画、IT(情報技術)にも進出し、戦後日本企業の成長とグローバル化の象徴であり続けた。だが、近年は業績低迷にあえぎ、SONYブランドにも陰りが見える。人間でいえば今年は還暦。このまま「たそがれ」を迎えるのか、往時の勢いを取り戻すのか。ソニーの模索は、日本のものづくりの模索でもある。

 「あなたの激励で目が覚めました。ソニーは原点に戻り、必ず巻き返します」。昨年9月、東京都内のホテルで開かれた恒例の販売店主会議。パーティーの席上、社長の中鉢良治(58)が太い声で名指ししたのは、練馬区で系列店(ソニーショップ)を営んで27年になる竹重敏昌(63)だ。

 実は、その前月に竹重は社内ビデオの収録に協力していた。主力製品の薄型テレビで松下電器産業やシャープに引き離されていた当時、業を煮やした竹重はカメラに訴えた。「成功体験にあぐらをかき、開発が遅れてシェアを奪われる。ソニーブランドを背負ってきた一人として寂しい」

 創業期のソニーは「モルモット」と呼ばれた。「新しいことに挑戦し、成功すると大手にまねされる、可哀想なベンチャー」というニュアンスだったが、創業者の井深大と盛田昭夫(いずれも故人)は誇りに思い、ウォークマンやCDなど一世を風靡(ふうび)する製品を連発し、市場を開拓した。

 ブランドイメージやデザインの重要性にいち早く気付いたのは、音楽家でもある大賀典雄(76)だった。80年代までに、海外や映画・音楽にも進出し、現在の屋台骨が完成した。

 ところが90年代に入ると、IT革命に直面する。あらゆる情報がデジタル化され、ネットワークで世界を駆け巡る時代だ。

 ここで「第2の創業」を掲げたのが出井伸之(68)。「インターネットは現代産業社会に落ちた隕石(いん・せき)」と喝破し、AV(音響・映像)育ちでアナログ志向が強かったソニーに「AVとITの融合」の必要性を説き、内外から「予言者」と喝采された。株価はITバブルの中で00年3月に3万3900円に達した(同月に株式を2分割し、値下がり)。

 だが、ソフト路線の夢に利益が伴わず、デジタル製品の激しい価格競争にも苦しんだ。「ヒット製品不在」や「技術力低下」が話題にされ始め、株価は03年4月に2720円まで急落。エレクトロニクス事業は06年3月期まで3期連続の赤字だ。99〜05年に社外取締役だった中谷巌(64)は「先端的なビジョンでデジタル革命に挑んだのは素晴らしかったが、現実性のある製品が手薄になってしまった」とみる。

 象徴的だったのは、デジタル製品の花形・薄型テレビの出遅れだ。97年発売の平面ブラウン管テレビはソニー独自のブラウン管技術の究極だったが、勝利の美酒に酔う間に市場は薄型に移行。05年に「ブラビア」を発売するまでは、基幹部品の液晶パネルを他社に頼っていた。ウォークマンも、ネット全盛時代になると、使いやすいハードと音楽配信サービスを組み合わせた「iPod」に惨敗し、AVとITの融合でお株を奪われた。

 05年6月、「縦割り組織を改革する」と訴えるハワード・ストリンガー(64)が会長、中鉢が4代ぶりの技術系社長に就任した。「夢を封印し、利益と自信の回復を優先する」という中鉢は、ブラビアのヒットで復活への足掛かりをつかんだ。「本格的なブロードバンド(高速大容量通信)時代に入り、ソニーの壮大なビジョンに現実の方が近づいてきた」(中谷)との見方もある。

 しかし、現場が付いてこないことには復活もおぼつかない。「工場再生請負人」として知られ、ソニーの工場にも頻繁に足を運ぶコンサルタントの山田日登志(66)は「シェアに目を奪われ、品質を置き去りにしていないか。ブランドでごまかさず、自分が作った製品を誇れる現場にしてほしい」と警鐘を鳴らす。

 ソニーが6月に社外取締役に迎えるトヨタ自動車副会長の張富士夫(69)も4月の講演で、一般論として語った。「現場を簡単に考えるトップが割といることに反発を感じる。自分で現場を見ると、おかしなことに気付く」

 原点回帰を唱えるソニーは「ぶっちぎりの技術が入った製品」(中鉢)で「らしさ」を取り戻そうと懸命だが、当面注目されるのは11月発売のゲーム機「プレイステーション(PS)3」。スーパーコンピューター並みの中央演算処理装置「セル」に加え、次世代DVDの標準規格を狙う「ブルーレイ・ディスク(BD)」の駆動装置が搭載されるからだ。

 ソニーは、他社がまねできない基幹部品を自社開発し、利益の流出を防ぎながら業界標準を握るという往時の「勝利の方程式」をPS3で目指すが、それが本業のエレクトロニクス事業で発揮されてこそ「らしい」と言える。(敬称略)

http://www.asahi.com/business/update/0507/001.html