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2006年04月27日(木) 00時00分

耐震偽装 再建への道のり厳しく 東京新聞

 「住」の安全を根底から揺るがせた耐震強度偽装事件は、警視庁などが二十六日、元一級建築士、姉歯秀次容疑者(48)ら八人を逮捕したことで、新たな局面に入った。国土交通省が昨年十一月、偽装問題を公表してから約五カ月余。姉歯容疑者が構造計算書を偽造したマンションに入居していた大半の住民は既に退去し、再建に向けて仮住まいを続けている。しかし、その道のりは厳しく、元の生活を取り戻すにはなお時間がかかりそうだ。 (近藤晶、小嶋麻友美、大原啓介)

 マンションが林立する都内には、姉歯容疑者が構造計算書を偽造した物件も特に多い。そのうち、耐震強度が建築基準法で定める値の50%を下回り、国による建て替え支援の対象となっている分譲マンションは七棟=表参照=ある。住民たちは民間や公的住宅に仮住まいしながら、建て替えに向けた協議を進めている。しかし、現在抱える住宅ローンに加え、再建で新たにのしかかる負担に、どこも建て替えの決定には至っていない。

 自治体の使用禁止命令を受け、七棟のうち六棟で全住民がマンションを出た。強度の確定が二月半ばに遅れた「グランドステージ池上」(以下、グランドステージは略)では今も五戸が入居中だが、区によると五月中には全員退去の見通しだ。

 国交省によると、建て替え手法は主に三パターン。国は当初、自治体が都市再生機構(UR)などに委託してマンションを買い取って再建し、住民に再売却するスキームを示した。ほかにマンション建替え円滑化法に基づいて住民や事業者で建替組合をつくる方式、全住民の同意を得て区分所有権を移し、個人または数人共同で施行する方式があり、民間の活用を目指すマンションが多い。

 国の要請で都市再生機構が当初、マンションごとに作った素案では、一戸当たりの追加負担額は二千万−三千万円。各マンションは自治体と連携し、負担軽減できる方式を模索しているが、「『負担可能な額』は住民間でかなりばらつきがある」(「茅場町」の対策委員長)という難しさもある。

 一方、原則として建て替えが決議されなければ現建物の解体はできず、近隣住民からは「震度5強で倒壊の恐れ」を不安視する声も。「池上」の近くに住む女性(51)は「早く解体してほしいけれど、現状もこれからどうなる予定なのかも、よく分からない」と話す。

■「稲城」住民『なぜ5カ月も…』

 稲城市矢野口の多摩川南側に立つ「グランドステージ稲城」(九階建て、二十四戸)。今年二月一日に最後の住民が退去し、一階玄関はベニヤ板で封鎖されている。今月二十三日には多摩川にかかる多摩川原(たまがわら)橋が開通し、マンション前を通る鶴川街道が拡幅。周囲の風景も少し変わり、月日の流れを感じさせる。

 姉歯秀次元建築士らの逮捕を受けて、住民の男性(71)は「なぜ五カ月もかかったのか。もっと早くしてほしかった。それに偽装とは別件の容疑」と納得いかない様子で話した。

 同物件は、まだ具体的な建て替えプランは何も決まっていない。男性は「資産価値がないものにローンを払い続けている状態。新たなローンが加われば返せない。既存のローンを軽減するような支援策があれば、建て替えも進むのではないか」と語る。

 「全容解明へ向けて今後、捜査がどう進むのか注視したい。詐欺で立件してほしいが、それが補償問題の解決にどうつながるのか」と住民の四十代男性。「捜査とは別に、同じ過ちを繰り返さないためにも、法整備もきちんと進めてほしい」と期待を寄せる。

 建て替えについては「やはり金銭面がネック。新たな負担がゼロというのが理想だが、そうでない場合、住民全体の合意形成が難しい」と話した。

■『東向島』住民『力の限界、希望見えず』

 墨田区内の分譲マンション「グランドステージ東向島」(三十六戸)。耐震強度偽装事件の関係者一斉逮捕を受けて、住民対策委員会の田中拓代表(32)は「個人の責任に刑罰を科すだけで無く、容疑者に少しでも真実を話させてほしい」と捜査当局に求めた。

 耐震強度が31%とされた「東向島」では、区の使用禁止命令を受けて一月中旬に全住民が退去。現在、同区や住民との間で具体的な再建策作りが話し合われているが、ほとんどの住民が再建そのものには賛成。一方、新たに約二千万円の負担が生じることに対し、住民の賛否は真っ二つに分かれている。

 住民は再建に協力してくれる建設会社を探すなどしているが、前向きな返事は得られていないという。田中代表は「住民の力の限界が見えてくる一方で希望は見えない」。その上で、「事件では、確認検査制度や法の不備など多くの関係者に責任がある。一部の関係者だけでなく、視野を広げて真相を解明してほしい」と求めた。

 江東区内の分譲マンション「グランドステージ住吉」(六十七戸)では二月に全住民が退去した後、立ち入り禁止を示す看板が敷地の周りに掲示されている。住民は「東向島」同様、区側と再建策作りの話し合いを続けているが、住民側が受け入れ可能な案は出ていない。

 住民の男性は「真相解明への突破口になる可能性はあるが、気持ちの上では、一区切りとは思えない」と話した。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tko/20060427/lcl_____tko_____000.shtml