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2006年03月21日(火) 02時20分

事件被害者の実名発表、公益性を重視読売新聞

 [異議あり匿名社会]「英米の現状<2>」

 「犯人逮捕に威力を発揮しているのは、これだ」

 英南部ハンプシャー州警察のイアン・リードヘッド副本部長は、携帯電話を取り出した。犯人の携帯から最寄りの基地局に発信される微弱電波を追うことで、位置を絞り込める。

 英警察は、1995年12月にフランス人女性が殺害された事件で、携帯電波の追跡によって、約2か月後に犯人を逮捕。昨年7月に起きたロンドン同時爆破テロでも、イタリアに逃亡した実行犯1人の携帯番号を伊警察に提供し、ローマでの逮捕につなげた。

 捜査には携帯電話会社や通信会社の協力が不可欠で、英データ保護法でも「犯罪の防止・発見」を目的にした個人データの提供は許される。リードヘッド副本部長は「重要事件ではだいたい協力を得られる」と話す。

 「警察には、銃で撃たれた患者が病院に運ばれれば、病院から連絡が入る。親に虐待されている子どもについて警察に通報があれば、教育、保健の関係当局に知らせる」という。

 日本では昨年4月25日のJR福知山線脱線事故で見られたように、個人情報保護法が全面施行された同月以降、医療機関が警察に患者情報を提供しないケースが、相次いでいるのとは対照的だ。

 事件や事故の被害者は、実名、匿名のどちらで発表するのか。日本では実名、匿名の判断を警察に委ねることが、昨年12月に閣議決定された政府の犯罪被害者基本計画に盛り込まれた。

 英警察全体の情報公開も担当するリードヘッド副本部長は、「家族に知らせてから被害者名を公表する」と語る。だが、家族への説明は同意を得るためではなく、発表することを伝えるのが目的だ。家族が非公表を望んでも、大きな事件・事故では、社会的関心の高さと公益性を重視する。

 警察が判断に迷ったり、警察の情報開示に異議があったりする場合は、データ保護法と情報公開法を所管する独立監視機関「情報コミッショナー委員会」に委ねられる。

 一方、容疑者については、逃亡中で警察が市民の協力を求める場合は氏名や年齢が公表されるが、起訴後は必要最小限の発表となる。「公正な裁判」を確保するため、裁判の陪審員に予断を与えないためだ。

 米国では、性犯罪の被害者や未成年者を除き、警察・検察は被害者、容疑者ともに実名発表が原則だ。ただ、被害者についてはプライバシーが尊重され、残虐な犯行などで報道する側が自主的に実名報道を控える場合もある。

 ロサンゼルス市警は、カリフォルニア州法に基づき、逮捕者の氏名、職業、住所、人種、罪名、逮捕場所などを記した報告書を公表。地方検事の広報担当も、被告の実名や予備審問期日、出頭裁判所などが記載された予定表を報道機関に発表する。

 南カリフォルニア大のマイケル・パークス教授(ジャーナリズム論)は、「実名の公表は、『秘密裁判』を防ぐのが最大の目的。犯罪の軽重を問わず、逮捕者の氏名が公表されることは、冤罪(えんざい)防止など本人の利益にもつながる」と語る。

 昨年8月、米南部を襲った超大型ハリケーン「カトリーナ」。今も身元確認作業が続いており、確認された死者は、ルイジアナ州当局が、氏名、年齢、性別、人種をホームページで公表、地元紙もその都度掲載している。パークス教授は「私の知る限り、報道で実名を公表するか否かが大きな論議になったことはない」と話す。実名は報道の根幹と認知されているからだという。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe6000/news/20060320ic33.htm