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2006年03月10日(金) 00時00分

リスクの認識甘く トラブル多発 周産期医療  東京新聞

 妊娠後期から生後間もない新生児まで、お産にかかわるこの期間を「周産期」という。母親や子どもの命と健康に深くかかわり、危険も高い時期と言える。周産期医療のリスクとどう向き合っていけばいいのか。東京で今月開かれた日本助産学会のシンポジウムから報告する。 (田島 真一)

 日本の赤ちゃんたちは人為的な操作と誘導で産まされている−。「陣痛促進剤による被害を考える会」世話人の勝村久司さんが示したデータは驚かされる内容だった。

 厚生労働省の人口動態統計から集計したところ、赤ちゃんが生まれた曜日や時間に不自然な偏りがあった。二〇〇四年十二月を例に見ると、平日は約三千−三千七百人台で推移、特に火曜日の多さが目立つ。ところが週末は激減。日曜日はすべて二千二百人台だ。祝日の二十三日と、年末休みになる二十九日以降も大きく落ち込んでいる。

 この年に生まれたすべての赤ちゃんの出生時間分布も、午後二時の約八万千人をピークに、午前九時から午後六時の間が多い。午後十時は約三万二千人で、深夜・早朝に四万人を超えることはない。自然なお産が基本の助産所での出生に、時間帯による変動はほとんどない。

 勝村さんは一九九〇年、陣痛促進剤の不適切投与で長女を亡くし、妻も一時危篤に陥った。事故があったのは火曜日の昼だった。「被害にあった市民病院は当時、大きな赤字を出していて、院長や事務局長が変わり、人件費の削減などで黒字に転じさせた」。陣痛促進剤を使うことで平日の昼に産ませるよう誘導し、深夜は助産師もいなかったという。

 勝村さんは「スタッフをそろえ、いい医療をするところほど赤字になる。私たちから見て価値があるところにお金が払われず、薬を使い、手術をするほどもうけが出る。医療制度の構造がおかしい」と指摘する。事故と訴訟が医師の産科離れを進め、スタッフが足りなくなる中でまた事故が起きるという悪循環だ。

 元大阪地裁判事の稲葉一人さんは「法律面から見ると医療訴訟に目を奪われがちだが、訴訟に至らない紛争や事故にも目を向けるべきではないか」とし、その対策の一つに訴訟外紛争処理(ADR)の仕組み作りの必要性を説く。

 多くの場合、周産期医療は子をしっかりと産むことが目標で、病気で通院、入院するのではない。出産には必ず一定のリスクが伴うが、他の病気などと比べて、「リスクもあるという緊張感を踏まえた信頼関係」が産む側と医療者側の間に乏しく、訴訟や紛争の多さにもつながっていると、稲葉さんは指摘する。

 「被害者と同じく、医療者も再発防止を願っている。だが、なぜしっかり話し合う機会をつくれないのかという問いがなされてこなかった」。その話し合いの場がADRというわけだが、「双方の当事者がすぐ相手の話を受け止めることはできません。調停役になる第三者が必要になります」という。

 事故やリスクを減らすためにどうしたらいいか。

 勝村さんは「インフォームドコンセント(十分な説明と同意)を充実させれば事故が減るかのように言われていますが、情報公開がなされていない中でやっても効果はない。情報をきちんと公開し、事故から学ぶこと、そして病院内の民主化が重要だ」と強調する。

 稲葉さんも「医療者主導のリスク管理、医療者がいいと思った改善だけではなく、患者さんの意見をききながら進めることで、全体としてリスクが低減する。患者や遺族の参加をネガティブにとらえるのでなく、そこで出された意見をしっかり現場に返すことが求められている」と、コミュニケーションのあり方の変化を訴えた。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/ken/20060310/ftu_____ken_____000.shtml