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2006年02月15日(水) 00時00分

どうして利息は増えないの? 『汗かかずにもうけ過ぎ』 東京新聞

 ライブドア事件は、貯(た)めるよりも殖やすのをもてはやす世相を映し出した。家計の「虎の子」が、株などの投資に向かう背景には、ゼロと見間違えそうな預金利息の低さがある。銀行は好業績を上げるのに、預金者に還元はしないの?

 「預金して受け取る利息は事実上ゼロで、借りた場合に支払う利子は高い。銀行だけが一方的にもうかる、こんな資本主義って一体何なんだ」

 東京都西東京市で、飲料や旅行を扱っているベンチャー(新興)企業の役員(56)は十四日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の「純利益が一兆円を超える」との経済紙の報道に、こう憤った。

 「だいたい銀行は、相変わらず土地や現金、預金といった担保がなければ貸してくれない。独自の審査力を磨き、新産業に貸し付けて収益を上げたわけでもない。額に汗したことのない部分でもうけている」

 一方、都内の三十代の女性会社員は「コンビニエンスストアでも二十四時間、銀行のキャッシュカードでお金がおろせる。そうした便利が増えるなら、もうけ過ぎとは思わないけれど」と受け止めた。

 ■ATM利用1回利息が吹き飛ぶ

 多くの人が預金通帳に十円や百円単位で利息が印字されるのを見てきた。十三日現在のスーパー定期預金(三百万円未満一年もの、税引き前)の利率は0・03%。百万円を一年預けても利息は三百円にしかならない。

 さらに、普通預金の現在の利率は0・001%で、百万円を一年預けても利息は十円。税引き後の手取りは八円だ。一回でも銀行ATM(現金自動預払機)を時間外に利用すれば、手数料で利息は吹き飛ぶ。

 これに対して銀行側は相次ぎ好業績を上げてきた。昨年十一月発表の二〇〇五年九月中間決算でMUFGの当期利益は、トヨタ自動車を上回った。通期の当期利益も、大手銀行・金融グループ全体で約二兆六千億円に達する見通し(十一月時点)となり、実現すればバブル期を上回る過去最高益になる。

 各銀行首脳は決算発表の場で、本業の貸し付けが伸びていない現状などを挙げて「もうけすぎではない」「新サービスで顧客に還元する」と説明、再燃しかねない「もうけ過ぎ」批判の火消しにやっきだった。

 銀行出身者からも、預金者に利益を還元すべきだとの声が上がる。元みずほ銀行行員で作家の江上剛氏は「もうけ方が半端じゃない。日銀のゼロ金利政策の下、銀行はほぼゼロのコストで資金を調達でき、モラルハザードを起こしている」と語る。

 実際に、日銀のゼロ金利や量的緩和といった異例の政策の下で、しわ寄せは預金者に及んだ。一九九三年からの十年間で払われるべきだった「国民の利子所得は百五十四兆円減った」(福井俊彦日銀総裁)。

 江上氏は、一般市民にとって金融商品の選択肢は広いように見えて実は狭いという現状も指摘。「おばあちゃんが百万円を定期預金で預け、一、二万円の利息で孫の服を買ってあげたり、満期の日にごちそうを食べてみるかというぐらいの金利が付く方が健全だ。銀行自体も、新たな投資信託販売などに力を入れすぎれば、銀行自体が流動性リスクにさらされて経営が健全ではなくなる」という。

 「はみ出し銀行マンの勤番日記」などの著作で知られる元銀行員の横田濱夫氏は「大企業は株式市場などで直接、資金を調達するようになり、銀行離れが目立つ。かといって景気回復はまだ中小企業にまでは行き渡っておらず資金需要がない。貸出先に困った銀行がどこで稼いでいるかといったら不動産への貸し付け。要するにバブルの再演だ」と強調。そのうえで「カネ余りの状況で銀行が預金の獲得競争をするはずがなく、従って預金金利が上がるはずもない」とみる。

 経済ジャーナリストの荻原博子氏が解説する。「たくさん預金されても運用先がない以上、迷惑だというのが銀行のホンネ。だから、預金者の批判に負けて利益還元する可能性なんてない。銀行は金庫がわりだと割り切った方がよい。もっとも、高金利を打ち出して、大量退職する団塊世代を囲い込み、次に投資信託などに誘導することはありうるし、貸出先をしっかり持っている信金・信組が金利をよくする可能性もある。今後はネームバリューにとらわれず、預金者が銀行を選別する番だ」

 では、低金利の防衛策はどうするか。「とにかくローン返済にまい進することをおすすめする。二年固定金利の住宅ローンだって、その後はどんな金利にされるか分からない。返済し終えたら年収の一、二年分のお金を確保しておく。株や投資信託に手出ししてよいのは、それでもなお、お金が余る人だけ」と荻原氏。

 銀行の選別方法についても「銀行の格付け、自己資本比率、利益率で決める。従業員教育が行き届いているかどうかもポイントだ。左前になる会社ほど教育費を削減するから」と説明する。

 ■手数料引き下げ一つの策として

 「純利益一兆円」と報じられた見通しについて、MUFGは「現時点で確定した事実はない」と、まずは慎重な姿勢。不良債権化した融資先が株高などで立ち直った好影響などで「貸倒引当金が戻ってきた結果でもあり、欧米銀行に比べ、まだまだ実力は低い。本当の収益力を強化してから、お客さま、株主への還元(の話)が出てくる」と説明する。さらに「『預金を持ってこられても困る』なんて思っていません。もうけすぎ批判も十分認識してますし、取引メリットを享受していただけるサービスを検討中です。確定事実ではないが、手数料引き下げも一つの策として考えられなくはありません」と言う。

 これに対して、インターネット上のバーチャル政党「老人党」の提案者で、作家のなだいなだ氏は「銀行は大口預金者には高金利商品で対応しているが、老人党のメンバーのような退職者、年金生活者は対象外。だから、株などにひっかかってしまう。銀行が今日あるのは、ゼロ金利で我慢してくれた預金者のおかげと、肝に銘じてもらいたい」と注文をつける。

 エコノミストの紺谷典子氏は「金利は上げるべき。金利6%が世界標準。宗教上の理由で金利をつけられないイスラム圏を除き、どこにゼロ金利の国がありますか?」としたうえで、「72の法則」を示した。

 ■『預金が2倍になるには1800年かかる』

 複利の場合、72を金利のパーセンテージで割ると、預金が二倍になる年数が出るという法則だ。「金利6%なら十二年。十五年前のバブル崩壊時の預金が、とっくに二倍になっていた。一千万円預金した人なら、月々の食費ぐらい出ていた。ところが今の金利、例えば0・04%なら、二倍になるまで千八百年かかる。邪馬台国の卑弥呼が預金していたとしても、今やっと二倍になった計算だ」

 紺谷氏は、貸倒引当金が戻ったから一見、もうかっているように見えるが、本当の体力はついていない、という銀行側の説明にも首をかしげる。「つまり、貸倒引当金を積み過ぎていたということでしょ? 予想外の利益が出たわけです。ならば、金利をあてに老後などの人生設計をしていた預金者に、きちんと還元しなくてはならないはずだ」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060215/mng_____tokuho__000.shtml