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2006年02月01日(水) 00時00分

米牛肉の安全 政府が“放棄”? 買い手ない肉2000トン超 東京新聞

 米国産牛肉の輸入再開前に実施するはずだった政府の現地調査が、実施されていなかった。一昨日の国会で、中川昭一農相が“白状”した。しかも事前調査は、閣議決定したもので、消費者への“裏切り行為”だ。輸入再開後、米国側のずさんな検査態勢が発覚したばかりだが、その上、日本政府が「安全の確保」をしないのなら、一体誰がそれをやるのか。

 「このまま肉が通関しなければ、売り物にならなくなる。一日も早く輸入代金と同金額で米国に買い取ってもらわないと…」

 輸入食肉を扱う流通業者ら四十社からなる日本食肉輸出入協会の岩間達夫専務理事の口からは、ぼやき節が止まらない。

 米国産牛肉が一月二十日に輸入禁止されて以後、通関できないまま倉庫やコンテナの中で滞貨となっている牛肉は千三百八十トン。金額にして十四億−十五億円になる。同協会非加盟業者分も合わせると二千トンを超えるとみられる。

 現在、肉は氷点下二〇度の倉庫で眠っている。岩間氏は「少しでも長持ちさせるための窮余の一策だが、それでも日一日と肉の品質は落ちていく。早く輸入再開されてほしいが、そんな見込みは…」と声を落とす。

 二〇〇三年末にBSE問題で米国産牛肉が輸入禁止された際、同様の牛肉は一万二千−一万三千トン。このときは米国側が安く引き取り、それでも埋められない損害は保険の適用を受けた。今回、量こそ減ったものの、保険適用の審査も厳しくなる。

 一月三十日の中川農相の国会答弁で、米国産牛肉の輸入再開に当たって、閣議決定された事前の現地調査が行われていなかったことが判明した。

■輸入条件順守 米国側任せに

 農水、厚労両省の政府査察団が現地に向けて出発したのは、輸入解禁となった翌日の昨年十二月十三日のことだ。同十六日には第一陣が早々と輸入された。調査は十人が三チームに分かれ(1)牛の月齢確認(2)特定危険部位の除去(3)日本向けの肉とそれ以外の肉の分別−などについて定められた手順で実施されているかを調べた。

 厚労省監視安全課の担当者は「査察には一カ所につき一日をかけた。すべての施設に立ち入り、輸出プログラムが実際に守られているかをチェックした。書類に目を通すだけで済ませたことはない」と自信をもって話す。

 米国内には日本向けに牛肉を輸出する業者の食肉処理施設が三十八カ所ある。このときの査察は十一カ所にとどまったが、「段階を踏んで、いずれすべてを査察する予定だった」(同担当者)という。

 だが、食品安全委員会プリオン専門調査会の吉川泰弘座長が共同通信のインタビューで、「政府が査察して(条件順守の実効性などを)確認した上で牛肉が輸入されると理解していた」と述べている。調査の実効性についても日米が合意した調査は検査などを意味する英語「オーディット」で、「形式的なものにすぎない」と指摘。きちんとした「査察」を指す「インスペクション」に変えるべきだと主張している。

 さらに、事前調査が行われなかった理由について、中川農相は答弁の中で「輸入解禁後でなければ、実効性のある調査ができない」と弁明した。しかしBSE問題に詳しい市民バイオテクノロジー情報室の天笠啓祐代表は「特定危険部位を除去することが輸入再開の前提条件になっていたのだから、事前に調査をしないと意味がない」と批判する。

■行政の問題点『ない』と農相

 日本政府は「輸出条件を米国が守ると約束した」と説明してきたが、先月、米国側の検査官が除去すべき危険部位を理解していなかったというずさんな検査態勢が露呈した。

 先月二十六日には国会で、小泉首相が「責められるべきは米国側だ。なぜ日本が責められるのか分からない」と開き直りともとれる答弁をした。事前調査未実施が発覚した三十日の時点でも、中川農相は「日本側に行政としての問題点はないと考える」と人ごとだ。

 全国消費者団体連絡会の神田敏子事務局長は憤る。

 「もちろん第一義的に責任は米国にあるが、日本として、もっと主体的にルールを順守させることが重要。『アメリカがこう言ってきたから』じゃ、困る」

 事実上の輸入解禁の決め手になった、昨年十二月八日の食品安全委員会の最終答申では、先月三十日に示された「政府統一見解」のとおり、事前の現地調査が輸入再開の条件にはなっていない。

 ただし、条件になっていなかった理由は、この答申が「輸出プログラムの順守について守られることを前提に評価しなければならなかった」からだ。

 そのため答申では、「結論」の後に、「結論への付帯事項」が設けられ、「今回のリスク評価は日本向け輸出プログラムの順守を前提に行った。従って管理機関(日本政府)が順守を保証する必要がある」と再三にわたり明記してある。

 同プリオン専門調査会座長代理を務めた東京医科大の金子清俊教授は「不安が的中した」と話す。

 「諮問を受けた時、日本向けプログラムが守られることを前提に議論してくれ、順守のための条件は審議の対象項目に挙げなくてもいいと言われた。だから、事前調査すべきか、事後でいいのかは一切審議していない。私は何度も本当に前提が成り立つのか確認したが『政府が責任を持つ』ということだった」と話す。

■追及逃れで?未検査説も

 もともと昨年十一月のブッシュ大統領来日の手土産として「輸入再開ありき」との指摘がある。「答申が出た十二月八日は木曜で、土日を挟んだ週明けの月曜には、もう再開が決定し、どうやって対日輸出プログラムを順守させるかも示されなかった」(神田氏)。そのため輸入に問題があっても日本政府に責任追及がこないよう、米国での現地調査を本格的に実施しなかったとの指摘もでている。

 「ずさんな管理態勢を改めない米国と、米国にすべてを任せた日本政府の無責任さが今回の事態を引き起こし」(天笠氏)、輸入再々開のハードルは高くなった。その条件を同委員の山本茂貴・国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部長は「二十四時間、全施設に張り付いて査察することは現実的ではないから、輸入再々開にあたっては、検査官をきちんと再教育し、その結果を米国政府が報告することが必要」と指摘する。

 同じく同委員で九州大学大学院の甲斐諭教授は「日本から米国への牛肉輸出は、米国の検査官が来て、認証した工場で行われている。日本も、検査官が米国に行って認証した工場から輸入するシステムを構築すべきだ」と提案する。

 金子氏は、指摘する。

 「一番の主役は消費者。答弁の食い違いでもめるのは、大臣間や政府と現場、対国民などいろんなコミュニケーションが十分ではないから。日本の足並みが乱れていると、米国に対し毅然(きぜん)とした態度も取りにくい。このままでは国民の信頼を失うことを、きちんと認識しないと、ますます傷口を広げることになる」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060201/mng_____tokuho__000.shtml