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2005年12月16日(金) 00時00分

泣きの耐震偽装ホテル 東京新聞

 耐震強度偽装事件で、退去要請を受け、やむを得ずマンションを出た人たちへの救済策が論議されているが、コンサルタント会社の指導で“格安ホテル”を建設後、構造計算書の偽造が発覚し、営業、工事停止を余儀なくされているホテルも全国で三十棟を超えている。年末年始、クリスマスシーズンを迎え、泣きの涙の耐震偽装ホテル事情とは。

 「ショックですよ。もし、あの時に地震があったらと思うと…」。愛知県安城市内で飲食店を経営する比嘉明美さん(47)は、愛知万博を見に来た親せきに問題になっている「名鉄イン刈谷」を紹介した。設計には姉歯秀次元建築士がかかわっており、取り壊しが決まっている。

 「(親せきも)もう知っているかもしれないけど、何も言ってこない。そんなホテルを紹介したとなると、お互い気まずくなってしまうからだと思う」と、ため息をつく。

 このホテルには、店の常連客もよく泊まっていた。比嘉さんの店では問題発覚以降、「オレも泊まった」「おまえは何階に泊まったんだ」「思い出すと、ぞっとする」といった会話が繰り返されていたという。

 「見た目は立派なホテルでしたよ。でも、周りの人は、みんな『あれ? あっという間にできたね』と話していた」

■営業中止しても出社する従業員

 耐震偽装事件では、マンション住民への補償が焦点になっているが、全国各地の多くのホテルも、観光シーズンだというのに休業を余儀なくされた。営業は休止していても、客からの問い合わせに応えるため、従業員は客のいないホテルに出勤している。

 関西地方のビジネスホテルの従業員は「うちは大きい会社の系列なので解雇される不安を持っている従業員はいないと思うが、小さなホテルのことを思うと、同業者として心苦しい」と打ち明ける。そして「姉歯氏には、言葉にできない怒りを覚える。十四日の国会中継を従業員みんなで見ていたが、正直、誰が悪いのかわからない」と憤る。

 中部地方の別のホテルの従業員は「迷惑な話ですよ」と怒りをにじませる。マンション問題では、国や自治体が救済に向けて動きだしているが、ホテルに関しての動きは低調。国や自治体への要望について聞くと「従業員レベルでは、そんなことまで考えていません」との声が返ってきた。

 調査の結果、耐震に問題がないことが判明し営業を再開したホテルもある。十五日に再開したばかりの「サンホテル鳥栖(とす)」(佐賀県)の支配人は「オーナーを信じて再開を待っていた。他のホテルの人たちは、どうされているんだろうとも思ったが、このホテルが基準を満たしていなかったときのことしか考えられなかった」と振り返る。

 会社を信じて、再開を待つ従業員。一方、オーナー側には、建築確認を受理した行政への不満や、手抜き工事をした業者へ怒りが渦巻いている。愛知県岡崎市のビジネスホテルのオーナーは、「国はマンション住民への補償を考えはじめているようだが、私たちのような中小企業に対しても考えてほしい」と苦境を訴えた。

■書き入れ時に…怒るオーナー

 京都府内でビジネスホテルを経営する企業の担当者は「年末の稼ぎ時に、本当に困っている。営業できるものなら、明日にだって営業したい」といら立つ。

 東京都内では「京王プレッソイン茅場町」と「京王プレッソイン五反田」の取り壊しが決まった。両ホテルを運営する「京王プレッソイン」は、公的な援助を求めるかどうかについてこうコメントした。「今回の問題の事実の解明がなされて、責任の所在が明らかになった段階で判断したい」

 耐震強度偽装ホテルがつくられた構図とはどんなものだったのか。

 国土交通省調査などによると、姉歯元一級建築士による構造計算書の偽造は本来ホテルが主体で、二〇〇一年までの偽装はホテル十六棟に対しマンションは三棟だった。これらのホテルにはコンサルタント会社「総合経営研究所」(総研)が関与していたとされる。

 総研がホテルオーナーを募り開業を指南。その際、設計業者として平成設計、施工業者として木村建設をセットにしていた。平成設計は「営業活動はせず仕事は総研からすべて下りてきた」としており、平成設計は耐震構造計算を姉歯元建築士に発注していた。

 建設経緯はヒューザーなどが建てたマンションと似ているものの、公的援助について、国は偽装マンションと偽装ホテルとの間に明確に一線を引いている。

■マンションには支援総額80億円

 偽装マンションについては、建て替えへの補助、解体費の全額公費負担など総額八十億円に上る住民支援策を策定した。しかし、ホテルと賃貸マンションについては公的支援を否定。佐藤信秋国交省事務次官は八日の記者会見で「建築主が施工者、設計者を選んでいる。自己責任でやってもらうのが基本」と言明した。

 県内のホテルで耐震強度偽装が発覚した愛知県建築指導課の担当者は「マンションを買った人は建築確認や建設に一切関与していない善意の第三者。これに対しホテルオーナーは建築主でいずれの段階でも関与している。偽装マンションで言えばヒューザーのような立場。公的支援するわけにはいかない」と解説する。

 同県のホテルオーナーはほとんどが耐震補強を行って営業を継続したいとの意向。同課は補強にともなって必要であれば容積率や建ぺい率の点で何らかの措置を検討するという。

 今回問題になったホテルのオーナーには、過去にホテル建設経験があり、偽装を見抜けそうな大企業やその子会社も含まれている。「総研の内河健所長のカリスマ性にだまされたというオーナーもいたが、大企業がバックのところは相談に来るにもバツが悪そうだった」(同課担当者)。

■安全なホテルも問い合わせ殺到

 一方で、偽装ホテルの多くが割安なビジネスホテルだったことから、ビジネスホテル業界全般に波紋が広がっているという。

 業界大手の東横インは十五日、ポスターやパンフレットに張る「構造強度は大丈夫です」というシールを全国のグループホテルに配布した。担当者は「各ホテルに客から『大丈夫か』と問い合わせがあるようだ。うちのホテルに姉歯物件はないし、問題となっているホテルが鉄筋コンクリート造(RC造)なのに対してうちは鉄筋鉄骨コンクリート造(SRC)。構造が違う。建設費のコストダウンは図っているが、法令の範囲内での話」と強調する。

 死者三十三人を出した一九八二年のホテルニュージャパン火災では、故・横井英樹社長が利益優先に走り、スプリンクラーなどを不備なまま放置したことが火事拡大の原因とされた。多くの人命を預かるホテルは利益より安全を優先するという教訓を生かすことはできなかったのか。

 日本ホテル協会の満野順一郎事務局長はこう訴える。

 「夜間、多くの宿泊客はベッドに入って寝ており、ホテルは客の一番無防備な時間の安全を担っている。これが不安なホテルなど存在できない。安全ということは大前提すぎてあまり外部に言うことではなかったが、業界として、今後はそのことも明確にしていく」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20051216/mng_____tokuho__000.shtml