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2005年12月15日(木) 00時00分

証人喚問 いらだつ国会 東京新聞

 国会の証人喚問に現れた姉歯秀次元一級建築士の証言は、耐震強度偽装への関与が指摘される木村建設や総合経営研究所の内河健所長らの発言との食い違いばかりを露呈した。目立ったのは責任のなすりつけ合いだ。注視した国民には不満も残る。偽装の闇から真相をどこまで引き出せたかを、証人や議員の表情、飛び交ったヤジから検証すると−。 

 衆院国土交通委員会の委員がまず追及したのが、姉歯元建築士に対し、木村建設、総研が偽造を指示したのかどうかだ。

 姉歯氏は、淡々と証言を続ける中で木村建設の篠塚明元東京支店長の名前を挙げ、「鉄筋量を減らすよう言われた。(篠塚氏に法令違反の認識は)十分にあったと思う」と指摘。さらに「これ以上の削減は無理と(篠塚氏に)何度も伝えたが『予算に合わないからやり直してくれ。設計事務所はほかにいくらでもある』と言われた」と説明した。

 これに対して、篠塚氏は「どの業者に対してもコスト削減は求める。それはあくまでも法律の範囲内という前提だ」として圧力を否定してみせる。そのうえで「『事務所を替える』との意味で言ったのではなく、『事務所はほかにもある』と言った」と釈明を加えると、委員からは「どこが違うんだ」とヤジが飛んだ。

 ■圧力に関しては姉歯氏に説得力

 「圧力」に関しては、委員の間には、姉歯氏の主張に説得力があるとする見方が目立った。自民党の中野正志氏は「(木村建設側の)答えはまったく信用できない。コストダウンの要求が(姉歯氏を)あってはならない偽造に踏み込ませた」と断じた。民主党の馬淵澄夫氏も「姉歯氏は正直に答えていた。苦しみながら、偽装せざるを得ない状況を聞けたことが大きかった」と成果を強調した。

 総研の内河所長は偽造の指示について、「私は断じて一切ない」と語気を荒らげて否定。だが、同社幹部が木村建設子会社の「平成設計」に対して、鉄筋の量を抑えるように指示していたメモを、馬淵氏から突きつけられると、「全然知らなかった。すぐに調べて回答する」と、しどろもどろになった。

 木村盛好社長、内河氏の個人資産隠しとも疑われる動きも追及の的になった。木村氏は「すべての財産、命以外全部、清算してでも再建対策に回す覚悟だ」と強調した。だが、民主党の下条みつ氏は、木村氏が自己破産直前の十一月二十日ごろ、熊本ファミリー銀行と面会していた事実を挙げ、計画倒産の疑いを指摘した。内河氏は、個人資産を投じて補償する考えがあるのか問われ、「二十四の問題あるホテルを改修するのに、どれくらい費用がかかるか分からない。いまはちょっと答えられない」と言葉を濁した。すかさず、「一銭も払わないということか」とヤジが飛ぶ。

 さらに、自民党の望月義夫氏は、内河氏が最近離婚したことをただした。内河氏は「四年前から実質、別居を繰り返していた。二年前から会ったこともない」と通常の離婚であることを強調したが、望月氏は「こういう時期の離婚は、自分だけが財産の保全をしていると疑われてもしょうがない」と切って捨てた。

 公明党の高木陽介氏は喚問後、記者団に「各二時間くらいの喚問では、真相解明に限界がある。あとは警察の捜査だ。身柄を確保して、家宅捜索で押収した関係証拠を持って、追及しなければ、真実は分からない」と話した。

 この証人喚問で何が明らかになり、何が明らかにならなかったのか。

 ジャーナリストの大谷昭宏氏は「姉歯氏、木村建設、総研がそれぞれ偽装にどう関与していたのかはある程度見えてきた」と評する一方で、「だれかが全体の絵を描いたのでなければ、これほどの問題にはならないはずだ。事件全体の構図にまで追及が及ばなかった」と問題点を挙げる。

 追及が手ぬるかった理由として、大谷氏は「質問する側が訓練されていないことが問題」と指摘する。「姉歯氏に質問した自民党の渡辺具能議員は、持ち時間の半分以上を自分の演説に費やし、林幹雄委員長もそれを遮らなかった。民主党も不慣れな一年生議員を質問に立たせた。国民が真相究明を期待していることを国会はもっと自覚すべきだった」と政治家の姿勢を突く。

 欠陥住宅問題に詳しい木村孝弁護士も「証人喚問は新しい事実を発見するというより、ウソを言えば偽証罪に問われるという制裁がある中で、これまで報道されていることを本人の証言によって確認することに意味がある。そんなことも知らないで、しゃべりまくる国会議員がいたのにはあきれる」と苦言を呈する。

 ■「困っている人」なりすました?

 喚問の焦点の一つは、国土交通省での聴聞以来、二十日ぶりに公の場に姿を現した姉歯氏の証言だった。

 「今さら失うものもない姉歯氏は喚問でかなり正直に証言したのではないか」(木村弁護士)という見方がある一方で、パフォーマンス研究家の佐藤綾子・日本大学教授は「姉歯氏の言うことに仮にウソがないにしても、完全に“被害者”になりきっている姉歯氏には『どう責任をとろうか』などという意識はないはずだ」とみる。

 「ウソをつこうとすると、普通は目と口の周りの表情筋という筋肉がチグハグな動きをする。例えば口は悲しそうな表情をしながら、目は平然としていることがある。しかし姉歯氏の場合、こういう矛盾がない。心も顔も身ぶりも『困っている人』になりきれる特殊な人格の持ち主。それをテレビで見ている人も姉歯氏のことを『困っている人』と思ってしまう。内心ビクビクしながら虚勢を張るため怒鳴ったりするヒューザーの小嶋進社長とは対照的だ。しかし姉歯氏はその場その場である役になりきっているだけ。もしだれかに『姉歯さんに大した罪はない』と言われたら、態度が豹変(ひょうへん)する可能性もある」

 証人喚問といえば、とかく個人の責任を追及しがちになるが、「欠陥住宅を正す会」代表幹事の沢田和也弁護士は「問題はそこにとどまらない」と強調する。

 ■本当の問題は「手抜き体質」

 「本当の問題は建築業界の手抜き体質だ。今回は極端な例が噴火した格好だが、構造設計でコストを下げ、浮いた分で見栄えを良くするという手法は業界にまん延している。事件の全容を解明する過程で、こうした体質そのものを改めていかなければならない」

 最後に大谷氏は証人喚問全体の印象をこう述べた。

 「各証人とも安全の大切さをほとんど口にしなかった。しかし彼らはこれまで安全を売ってきたのではなかったのか。今年はJR西日本の事故もあったが、安全があまりにもないがしろにされた一年の締めくくりが、この証人喚問だと感じた」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20051215/mng_____tokuho__000.shtml