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2005年12月02日(金) 00時00分

『一級建築士』とは デザインの要求 拒めば『仕事減る』 東京新聞

 耐震強度偽造問題で渦中にある姉歯秀次一級建築士。その肩書は、医師、弁護士と並び、「センセイ」と称される資格だが、本人は構造計算書の偽造を繰り返したうえ、その違法を検査で見過ごしていた側にも民間や自治体の建築士らがいた。難関を突破した人が資格を得る一級建築士の実態と仕事の専門性とは。

 「人の命に直接、かかわる仕事でしょ。だから、国も戦後間もなく建築士の国家資格を定めた。医師、弁護士と一緒にサンシ(三士)と呼ばれ、尊敬されるべき仕事のはずだった」

 都内大手企業のベテラン一級建築士(62)は、建築士の立場をこう明かす。試験は合格率3−8%、合格者の平均年齢は三十二歳程度という難関だ。「職場には試験対策の学校に授業料三百万円をつぎ込んだが、まだ合格しない人がいる」

 毎年四月、法規・計画・構造・施工の四分野の学科試験で平均点以下の受験者をふるい落とし、さらに十月の設計製図の実技試験で合格者が決まる。

 不動産管理会社の女性一級建築士(32)は「出題は広く、浅く。建築の歴史から始まる。現場を知っていると、かえって解答がずれて間違えることがある」と、試験のノウハウが肝心だと指摘する。大学の建築学科等を出た場合で、二年以上の実務経験が受験資格には必要だが、「仕事をしていると『一級』を持っていて当たり前で、持っているから仕事探しにも有利かといえば、現状では建築士は余っている」という。

 今回、マンションやホテルの安全性を揺るがす問題の背景として、建築士の間で指摘される問題の一つが、同じ一級建築士の中でも一般的な建築家に当たる意匠(デザイン)の専門家と、構造の専門家との上下関係だ。

■『構造屋』は下請け

 前出の大手企業の建築士は「いわゆる“構造屋”さんは意匠屋の下請けだ。建築士法や国交省の告示で定められる報酬基準も低い。意匠屋から『いくらでやってくれ』と言われ、断ると『無理が利かない』とみられて仕事が減る」と話す。

 構造を専門とする一級建築士の一人は「建築確認の最終局面で、われわれ“構造屋”を疎外していることが原因で、安全性を損ねている」と指摘する。

 建物は、まず、意匠の建築士がデザインし、構造の建築士に下請けに出して構造計算などが行われる。ここで鉄筋の本数、壁の強度などをチェックし、意匠の建築士に戻す。構造担当は“誠実な技術者集団”とも呼ばれてきた。

 しかし、往々にしてマンション販売会社から「室内を明るくしたいから、壁をガラス張りに変えてくれ」「かっこ悪いから、この柱は、なくしてくれ」といった注文がつき、意匠の建築士がデザインを変更する。

 そこで、もう一度、新しいデザインを構造の建築士にチェックしてもらうのが当然と思えるが、「そういうことは、めったに行われていない」のだという。

 構造に詳しいベテラン一級建築士のひとりは「意匠屋から直接、柱を減らしてくれ、という類(たぐい)の注文をされることもある。私は、頑として拒みますが、新人の構造屋だったら難しいかもしれない」とも明かす。

 ある建築士は「医者でも内科、小児科、外科とあるように、構造の建築士、意匠の建築士、と分けるべきかもしれない」と話す。そうすれば、構造の分からない建築士しかいない検査機関が大きな顔をして「安全です」という状況も、少しは変わるかもしれない。

 その点から現状を、ある一級建築士は「構造の実務は大学で構造の専門だったような人しか分からない」と述べる一方、構造の学科試験を今より難しくすることに関しては、「今でも数%しか受からない試験だから、誰も合格しなくなってしまうのでは」と話す。

■震災後の建築物 神戸市徹底監視

 建築士の実態は、「地方自治体の体質」によって変わるという指摘も業界内から出ている。

 関西地方の、ある一級建築士は「阪神・淡路大震災以降、神戸市は厳しくなった、という評判が知れ渡った結果、多くの設計士が、神戸市内での仕事では、ふんどしを締めてかかる」と説明。「神戸市には違反建築対策室があり、目を光らしている。ホームページで違反建築のチクリ(告発)を受け付けているから、手抜きできない」

 こうした日本の建築士は一体何人いるのか。

 一級、二級、木造を含めた建築士の有資格者は二〇〇五年三月末時点の集計で約百一万人で、うち一級建築士の登録者は三十一万人にのぼるとされる。

 国際建築家連合(UIA)に加盟する世界の建築士は約百万人。このため、数字上は世界の建築士の三分の一は日本人が占める計算で、人口千人当たりの建築士の有資格者は世界平均の二・五倍という“建築大国”だ。

 しかし、日本では建築士登録者の更新制度がないため、死亡しても届け出がなければそのまま登録されており、実数が把握されていないのが現状だ。

 日本建築士会連合会では、実際に活動している建築士を六十万人と推計しているが、それでも同連合会に加入している建築士は十万七千人にすぎない。

 同連合会の幹部は「国家試験にもかかわらず、そもそも建築士がどれだけいるのかという基本的な実態すら分からない」と話す。

■「欠陥」多いのに行政処分されず

 二十五日、日本建築士会連合会、日本建築士事務所協会連合会とともに記者会見した日本建築家協会(JIA)の小倉善明会長は「倫理観が持てない建築士が生まれる状況にある。欠陥住宅が数多く生まれているのに行政処分はほとんどなされていない。建築士に更新制がないために資格者の実態把握も大きな問題点だ」と指摘、建築士登録での更新制の必要性を強調した。

 このほか、三団体が再発防止に向けて今後、国土交通省などに要望していくのは(1)業務領域の専攻制(2)施工全体をチェックする監理建築士の要件整備(3)建築士事務所の強制的な保険加入−などだ。

 業務領域の専攻制というのは、実務レベルでは資格者が意匠、構造、設備などの専門、得意分野に特化している状況から、設計事務所を開設した際、専門業務を表示することを義務付けようというものだ。

 ただし、「専攻制をつくる話は、古くは一九七〇年ごろからあった」(ある建築士)と、見直しが掛け声だけで終わることを危惧(きぐ)する声もある。

 さらに建築では、設計、施工、監理という『三権分立』があって、互いのチェックが利くことになっている。ところが、偽造問題ではヒューザー、木村建設、姉歯といった息のかかった会社や下請けを使った。チェックはできず、いわば同じ穴の貉(むじな)だった。

■下に回す構造が「腐敗」続く原因

 日本建築構造技術者協会の幹部は「(構造計算を)下請けに回す構造をなくさない限り何も変わらない」と指摘したうえで、一級建築士の中での上下関係や発注問題についてこう嘆く。

 「先の三団体の声明でも『下請け』構造の問題について言及していない。建築家ならば、誰でも下請けに問題があることを認識しているが、言いださないだけ。それは下請けが業界にとって利潤を生む構造だからだ」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20051202/mng_____tokuho__000.shtml