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2005年11月22日(火) 00時00分

欠陥住宅は今日も建つ  検査機関機能せず  東京新聞

 耐震設計などに必要な構造計算書が偽造されていた問題で、関係した一級建築士はコストダウンなどの結果としたうえで、「そういう風潮が業界の中にある」と言ってのけた。今回は、結果的に計算書の偽造発覚で欠陥住宅の存在が分かったが、建築士の言が本当なら、氷山の一角、との不安も広がる。欠陥住宅を見分ける方法はあるのか−。

 「(欠陥住宅を含め)現行の耐震基準には適合しなくなった『既存不適格住宅』が全体の25%にあたる約千百五十万戸も存在すると推計されている」

 日本弁護士連合会(日弁連)が十一日、採択した「安全な住宅に居住する権利を確保するための決議」の中の一節だ。同決議のまとめ役を務めた日弁連消費者問題対策委員会の吉岡和弘元副委員長は「欠陥住宅で素人目にも分かるケースはよほどひどい業者。大半は目に見えない主要構造部に手抜きが多い」と言い切る。

■『最後の砦崩れた』

 二十七年前から欠陥住宅被害者の救済を続けている「欠陥住宅を正す会」代表幹事の沢田和也弁護士も「今回の問題は、検査機関という最後の砦(とりで)が崩れたことを示した」と話す。

 決議は、「現在も建築基準法の定める最低限の安全基準にも達しない『欠陥住宅』が多数生み出されている」と指摘するが、欠陥の代表例として、吉岡弁護士は次のようなケースを挙げる。

 木造の場合は柱と梁(はり)がしっかりと接合されていない。帯状に基礎をめぐらす際、本来は所定の寸法で型枠を組んで鉄筋をコンクリートで固定するが、ただ穴を掘ってコンクリートを流し込むケースが多い。

 マンションの場合は、めぐらされた横筋、縦筋の鉄筋の間隔が広かったり、コンクリートを打ち込む際も水を多く含ませてのばし、後に水の部分が空洞化する通称「ジャン化」のケースが目立つという。

 いずれも建築基準法に違反する行為だ。加えて、沢田弁護士は「雨じまい」の欠陥を指摘する。雨じまいは外に接する異種素材の接合部や複雑な形状部分への防水対策だが「強い雨が降って初めて気づかされるケースが多い」と説明する。

■構造計算ミスで住民が損賠訴訟

 欠陥住宅問題に取り組む弁護士、建築士らのグループ「欠陥住宅全国ネット」のホームページでも、構造計算ミスの事例が紹介されている。福岡県内のあるマンションでは、外壁ひび割れや雨漏り、床のたわみが起きた。階段やバルコニーの重さを実際より軽く算定するという構造計算ミスで、柱の耐性に問題があったとして、住民らが設計・建築業者などに建て替え資金など十億円の損害賠償を求める裁判を起こしている。

 こうした欠陥住宅の背景について、一級建築士の石田隆彦氏は「構造設計の段階で、安全性を高く取るか、ぎりぎりのところで取るか、という違いはあるが、建設コストの大きなウエートを占める柱や基礎を削ることで、一割はコストを下げることができる。それをキッチンや風呂場などに回せば、見栄えが良くなり、消費者も喜ぶという構図がある」と指摘する。

 では、欠陥を見抜くことは可能なのか。

 吉岡弁護士は「建て売りの一戸建てやマンションの場合、専門家を連れて行っても業者に図面を提出させ、天井裏に潜り、床の厚さをはがして見なくてはならない。だが、業者は当然嫌がる。かつては家の建築中、午前と午後、施主がお茶を入れる名目で現場を訪れた。あれは手抜きをさせないための生活の知恵だったが」と難しさを説く。

 「モデルハウスの多くが実際の住宅と違う。言ってみれば、だましの道具。ビー玉を転がしたりするのも素人だましの域を出ない」と厳しい指摘だ。

 阪神淡路大震災での建物被害にも詳しい関西地方の一級建築士は「購入したいマンションの構造計算書を業者側から提出させることが第一だが、かりに提出させてもチェックは難しい。さらに、構造計算書がきちんとしていても安心はできない。実際は、その通りに建築されないケースが多々あるからだ」と警告する。

 「工事現場を抜き打ち検査し、それを防止するのも検査業者の仕事だが、検査業者自体が構造計算書を読めないことも多い。そんな検査業者は全国にある」

 それにしても、鉄筋の数量が少なすぎることぐらい、工事期間中に誰かが気づくはずだが、この建築士は「気づいても、下請けや孫請け業者が発注元に指摘することなどできない。当該工事にタッチしていない業者だって指摘しない。業界の仲間はずれになるのが怖いから」と話す。

 となると、やはり民間任せの検査態勢が問題とも思えるが、この建築士は「構造計算書をきちんと読める役人なんてわずか。役所が検査すれば安全というのも幻想」と悲観的だ。「公共施設の工事の中にも、鉄筋とコンクリートのバランスを欠いたものがある。構造計算を学んでいない人でも、コンピューターで簡単に設計できるようになったことが、事態に拍車をかけている」と指摘する。

 一方、「欠陥住宅を正す会」のメンバーで、一級建築士の鳥巣次郎氏は「住んでいるマンションの安全性を確かめるには、半年とか一年おきに継続的に検査する必要がある。外壁や床などのクラック(ひび)が一ミリから二ミリ、三ミリとなってきたら要注意」と説く。

 国民生活センターの建設相談アドバイザーで一級建築士の伊藤学氏は「建築現場というのは微調整の連続なので、設計図どおりに完成する建物などないと考えてよい。それだけに、設計者が工事の最後まで立ち合うのが望ましい」と、設計者が施工業者を“監視”する必要性を強調する。

■安全な購入法はプロ伴い現場へ

 安全なマンションを購入する方法については「万全という方法はない」としたうえで、“よりましな建物を選ぶ方法”として、信頼できるプロに建築現場を見てもらう、マンション内覧会にプロを同伴する、などをあげる。「『危険だから』という理由で現場を見せてくれない業者もあるが、公明正大さを掲げている業者なら見せてくれる」

■斜めの亀裂『見つけたら要注意』

 また、既に入居した家屋については「壁に亀裂が入ったら(危険ではないかと)神経質になってほしい。とりわけ、斜め方向の亀裂は、建物に変なプレッシャーがかかっている可能性がある」と警告した。

 対抗策として、吉岡弁護士は「建築の履歴書ともいえる写真を集めたアルバムをお客さんに渡すことで、安全性を売りにするよう業者に提案している。もし、写真が偽造でもそれは証拠になる」と訴える。ただ、根本的な問題は本来、監視役なのに業者のコスト削減要求に抗(あらが)えない建築士たちの立場、さらに書面だけのチェックに終始する行政にあることはいうまでもない。「薬も家も同じ。中身が見えない以上、最終的には、安全性は行政が検査、保証する義務がある」

 こうした現状について、前出の石田氏は「地震大国といいながら、実は、建物の包装紙(外見)ばかりにみな目を奪われている」と批判。阪神大震災の被害に詳しい、前出の建築士もこう心配した。

 「問題はマンションだけではない。なまじ知識があるだけに、『本当にこの建物の耐震性は大丈夫なのか』と、街を歩いているだけで気が滅入(めい)ってくる」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20051122/mng_____tokuho__000.shtml