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2005年11月02日(水) 00時00分

東証システム障害 “プチバブル”の落とし穴 東京新聞

 東京証券取引所で一日午前、システム障害により全取引が全面停止した。午後には取引が再開したが、全銘柄の取引停止は初めてだ。原因はプログラムミスだったようだが、東証の脆弱(ぜいじゃく)さが図らずも露呈した。このシステム障害で影響を受けたのは、最近、急増しているネット取引の一般投資家たち。“プチバブル”とも言える活況に水を差した形だが、ほかにも落とし穴はありそうで…。

■パソコンとにらめっこ

 「月替わり、週替わりは株が上がることが多いので、いい値がついたら売ろうと思っていた。ここまで来たら、東証がシステム障害で取引が停止されていると聞いてがっかりだよ」

 東京・兜町の街頭で、墨田区に住む無職男性(63)はこう言って落胆を隠さなかった。男性はインターネットの株取引(オンライントレード)ができる証券会社に毎朝九時にはやってきて、パソコンとにらめっこをするのが日課だ。大阪証券取引所は動いていたので、その動向を見ながら時間をつぶしていたという。

 午後一時半、システムが復旧し、ようやくこの日の取引が始まった。午前中はすべて空欄だった株価ボードに各銘柄の株価が次々に表示されていく。東証職員が安堵(あんど)の表情を浮かべる脇で、東証二階の「東証プラザ」に来ていた、株投資歴七年という杉並区の女性派遣社員(35)は「最近ジャスダックや楽天証券などでシステム障害が頻発している。ついに東証もか、という感じだ。しかし同じシステムの不具合でも東証が社会に与える影響は比較にならない」と苦言を呈す。

 「株を始めたころ、証券会社は女一人で入るには敷居が高かった。今はネットで気軽に株ができる環境になった。機械に頼り切っている分、リスクも大きくなることを自覚すべきだ」

■『海外投資家不安視する』

 神戸市から来た無職男性(65)は株投資歴三十年の大ベテラン。前日たまたま手持ちの株約七千万円分を売却し、利益を得たという。

 「東京の株式市場はニューヨーク市場の動向に強く影響される。先週末にニューヨーク株が今年二番目の上げ幅を記録したので、週明けには好影響が来るだろうと見越して、三十一日に売ることを決めていた。きょう売るつもりだったら、慌てていたはずだ」

 その上で、「半日で済んだから良かったが、丸一日取引ができなかったら、海外の投資家が日本の市場を不安視しかねない。それで日本の株価が下落したらだれが責任をとるのか」と手厳しい。

 同プラザに見学に来ていた日本大学経済学部一年の男子学生(19)も「システム障害で損をした分はだれが責任をとるんでしょう」と疑問を投げかける。東証では午前中だけで十億株を超す取引が行われている。この学生は「就職して資金ができたら自分でも投資したいと思っていたが…。デイトレーダーが増えているさなかのシステム障害は、投資熱に冷や水を浴びせるのではないか」と話した。

 現物株式が全銘柄停止になるという事態は戦後、一九四七年に東証が開設されて以来、初めてだ。

 市場観測筋は「特に断食月(ラマダン)明けのアラブマネーが入ってくるタイミング。小泉内閣の改造が重なっただけに海外の機関投資家の憤りは激しい」と今後への影響を懸念。新光証券エクイティストラテジストの瀬川剛氏も「取引所の生命線は信頼だけに失態には違いない」と話す。

 それでも午後一時半の取引開始後、買いが殺到。従来ならば、システムダウンがマイナスに影響して株価は下がりそうだが、結果は逆で、日経平均株価が四年五カ月ぶりに一万三八〇〇円台を回復した。

 「猛烈な買いを支えたのはデイトレーダーたち」と観測筋はみる。インターネットを用いた個人投資家たちで、株取引による現在の“プチバブル”を支える主力だ。たしかに昨今、どの週刊誌をめくっても株取引の特集がめじろ押しだ。「週末だけできる投資術」「〇×銘柄は素人が触るな」「シロウト投資術のこれが極意」−。こんな見出しがこれでもかと躍りまくる。

 今回のシステム障害も、こうした株取引の急増で、処理能力を拡張した際のプログラム設定ミスが原因の可能性が高いという。

 そんな空前の株ブームを横目に「今回のシステムダウンは現在の日本を象徴しているようだ」と切り出したのは投資顧問会社のベテランアナリストだ。「旧来のシステムを強引に接ぎ木しようとしてダウンする。それでも沸騰する市場がそれを乗り越えていく」

 旧(ふる)いシステムはあらゆるところで疲労している。かつての日本では考えにくかった航空機、医療事故などが相次ぎ、政治では利益誘導型の自民党政治も崩壊寸前だ。逆に「新自由主義」の“改革”が政権のスローガンとなり、その本質である弱肉強食の市場原理主義を掲げる「IT長者」がメディアに露出している。

■『成り上がり罪悪感なし』

 「IT長者はいわば虚業の成り上がり者。一昔前なら嫌われた部類だ。でも、それが世間で大手を振っており、人々はそんな生き方に罪悪感を感じなくなっている。コツコツやる従来の“日本流”がそれに追いつこうとして、新しい体質と整合できずにシステム障害を起こしている」

 そんな時代の流れは株取引の現場に垣間見える、とバブル期に大手の証券マンをしていたフリーライターの世川行介氏は指摘する。

 「個人投資家が急増した直接の理由は取引手数料が極端に下がったから。しかし、かつての取引では手数料を取る分、明らかにこの株は危ないと思う銘柄については証券マンが個人投資家に忠告もした。いまはネット取引でそうした介在がない。完全な自己責任だ」

 自己責任は市場原理主義の前提だ。さらにこんな内幕も明かす。「オンライン化で取引所から売買立会場がなくなり、そこで“場立ち”をしていた知人たちが株価のチャート操作に商売替えしている。素人の投資家はチャートを見て売買しているが、違法とはいえ、こうしたプロたちはグループで株価を引き上げて、素人が買いに走るや売り抜けている。連日、仕手戦が営まれているわけだ。もちろん、しわ寄せは素人さんたちが背負うことになる」

 “プチバブル”に対応し切れないシステムの陥穽(かんせい)も問題だが、それよりも深い市場原理主義の落とし穴があるというのだ。「前のバブルでは土地が材料だったが、それが株に変わっただけ。ただ、破れないバブルはない。突然、地獄に突き落とされるのが定めだ」

 瀬川氏も「本屋をのぞけば、株のもうけ方を説くハウツー本が山積みされている。でも、本当に極意を持っている人が大したことのない印税と引き換えに他人に教えるわけないでしょ」と半ばあきれ顔だ。

 「ただ、その最中にバブルだと気づかないところがバブルの特徴。参加するのは自由だが、自己責任の重さだけは覚悟すべきだ」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20051102/mng_____tokuho__000.shtml