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2005年10月21日(金) 00時00分

議員連絡先も"保護"読売新聞

地方議会事務局「出さない方が無難」

 個人情報保護法が、地方議員や公務員の情報を出さない口実にされている実態が、読売新聞の調査(9月末時点)で分かった。個人情報保護と情報公開の調和を図り、国民の権利や利益を保護する法律の趣旨を逸脱して、身内の情報を出し渋る姿勢に疑問と批判の声が上がっている。

 栃木県の旧烏山町(合併で10月から那須烏山市)の議会事務局は9月、新しい市の市長選取材のため町議(当時)の名簿を求めた記者に、「保護法もあり、出せない」と提供を拒否。当選時にはむろん公表されており、抗議に対し、連絡先や住所、職業を消したものを出した。当時の事務局長は「何をどこまで出せるか分からず、公表しない方が無難だと思った」と話した。

 山梨県甲斐市の議会事務局でも6月、市議名簿の提供について「保護法があるので今後は出せない」と、氏名、顔写真だけの議会便りを参照するよう勧めた。事務局によると、保護法の全面施行後、議員同士が自分たちの名前や連絡先などをどこまで公開するか検討を始めたが、半年間結論が出ず、市民にも同様に対応。最近ようやく、希望する議員だけ連絡先も公開する方向で合意したという。

 これに対し、同じ山梨県でも甲府市議会は、「個人情報とはいえ、公人だから公開が当然」(事務局)と、ホームページで全市議の顔写真、住所、連絡先を公表。千葉市議会も同様だ。

 総務省は「公務員情報の開示の適否は自治体側が、ケース・バイ・ケースで判断すべき。地方議会が従うのは自治体の条例で、保護法施行後、急に対応が変わること自体理解できない。勘違いがあるのでは」。

都道府県・政令市条例 「知る権利」配慮なし4割

 読売新聞では、47都道府県と14政令市の個人情報保護条例(9月末時点)についても調べた。その結果、個人情報保護法が基本理念に掲げる「個人情報の有効利用への配慮」を明記しているのは香川、沖縄両県だけと判明。「知る権利」「表現の自由」に配慮した規定なども6割弱の35都道府県市にとどまり、4割にはなかった。

 「有効利用への配慮」は、中央官庁向けの保護法にも明記されておらず、官庁が情報を開示しない根拠の一つにしている。条例は自治体が持つ個人情報を開示するかどうか直接左右するため、官庁同様、情報非開示の一因になっている。61の条例中、52都道府県市では、企業の個人情報漏えいにも知事が是正勧告できるなど民間も規制していた。

 だが、政治や学術研究、報道などの活動を条例の適用除外などにしているのは、15都府県市だけ。住民の知る権利に応えるため、自治体が一定の条件下で研究機関、報道機関に個人情報を提供できると、県審議会の答申などで明確にルール化しているのは、25道府県市(5府県市は重複)だった。

 一方、61自治体とも昨年末以降、職員によるデータ漏えいなどの罰則については国と同レベルに新設・強化。有効利用と保護の不均衡が際立つ結果となった。

[解説]自治体の個人情報保護 有効利用も阻害、意識改革を

 個人情報保護法だけでなく、自治体の個人情報保護条例にも、必要な情報が開示されない危険が潜んでいることが、本紙の調査で浮かんだ。(社会部・小松夏樹)

 公務員の天下り情報が明かされない、地域のお年寄りの情報が防災のためでさえ共有できない——。各地で起きている過剰反応は、直接には4月の個人情報保護法の全面施行がきっかけになっている。

 だが、同法は企業など民間を対象にしたもので、自治体個人情報の扱いを直接左右するのはその自治体の条例だ。

 いずれも原則として、保有する個人情報の目的以外での使用、本人の同意がない第三者提供を禁じている。だが災害に備え、自治会が独り暮らしの高齢者ら「防災弱者」を把握するなど、情報を共有し利用すべき場合はある。

 ところが、47都道府県と14政令市を調査した結果(9月末時点)、少なくとも4割の条例が、個人情報の有効利用への配慮と、保護のバランスを欠いていた。

 61自治体の条例中、公務員の不祥事公表など住民の知る権利に応えるため、個人情報を開示するケースを想定し、積極的な情報提供のルールを明文で作ったのは25自治体にとどまった。

 例えば福岡県は、県が個人情報を第三者に提供できる例外として、「報道機関の取材、要請」を挙げ、「県民に知らせる必要性」「個人の権利を不当に侵害しない」などの条件を付けている。

 ルールの多くは条例制定後の追加措置で、条例の"欠陥"を補った形になっている。中央官庁向けの保護法(行政機関個人情報保護法)にはこうした配慮規定がなく、実際に公務員の情報非開示が起きていることを考えると、ほかの自治体や国レベルでも同様の措置が必要だろう。

 一方、職員らの情報漏えいなどには、61全自治体が最近、「懲役2年以下」などの罰則を国と横並びで整備し、「保護一辺倒」への偏りが見える。一部の先進自治体を除き、多くが官庁向け保護法やその前身の法律を参考にし、情報開示に配慮しない問題点をも引き継いだためだ。

  調査では、地方議員の連絡先さえ明かさないような過剰反応も報告された。その理由に自治体職員が民間にしか適用されない保護法を挙げるなど、自分たちが従う法令も分かっていないような状況もあった。全面施行から間もない混乱の中で、「とにかく提供しなければ責任を問われない」という「事なかれ主義」が横行している。

 個人情報保護法は本来、情報化社会への対応のため制定された。コンピューターに蓄積された大量のデータは、瞬時に流出・拡散し回収や被害の回復は難しい。だからこそ、プライバシーが含まれるような個人データは有効利用しながらも厳重に守る。それが法律の重要な趣旨で、公務員の情報隠しの理由に使われるようなものではない。

 今起きていることは、自治体が率先して情報公開を進めて来たこの20年の流れを阻みかねず、本末転倒の事態だ。国が保護法の理念、趣旨を丁寧に説明すべきなのはもちろんだが、個人情報を扱う一人ひとりが「何のために利用し、保護するのか」という意識を高めることが重要だ。

【個人情報保護の過剰反応例】

 ▼市町村議会が議員名簿を提供せず

 ▼自治体が民生委員に独り暮らしのお年寄りら「防災弱者」の情報を提供せず

 ▼教育委員会が実名を公表していた教師の懲戒免職者を匿名発表に切り替え

 ▼中学生が独り暮らしのお年寄りに暑中見舞いを出すための協力を教育委員会が拒否

 ▼医療機関が、事件や事故で搬送されたけが人の容体を警察の照会にも教えず

 ▼消防が、火災の発生場所の番地を「個人情報」として明かさず

http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe6000/fe20051021_01.htm