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2005年06月01日(水) 01時49分

社説:住基ネット裁判 なぜこうなってしまったのか毎日新聞

 住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)をめぐって、金沢地裁は原告の住基ネットからの離脱を認め、名古屋地裁は個人情報の提供禁止を求めた原告の請求を棄却した。

 住基ネットをめぐる訴訟は全国で展開されており、今後もさまざまな判断が示されていくと考えられる。しかし、根源に立ち返れば、問題は一体何のためのシステムなのか、個人情報が流出する恐れはないのか、プライバシーの侵害ではないのか、などに集約される。金沢地裁と名古屋地裁の判断は、プライバシーについての評価で分かれた。

 しかし、何のためのシステムか、個人情報流出の恐れはないのかという疑問については、総務省の説明はいまだに国民の納得を得ていない。住基ネットの目的と役割について総務省の説明は、行政の効率化、住民の利便、そして電子政府の基盤整備というものだ。

 しかし、行政の効率化といっても、住基ネットによってどれだけの公務員や経費が削減できるのかが明らかにされたことはない。公務員や経費の削減がないのに300億円余をかけてシステムを構築したとすれば、行政の不効率化でしかない。

 住民の利便については、今年3月末現在で住基カードの交付枚数が54万枚、住基人口の0.43%という数字が、住民の利便の小ささを物語る。要するに、住基カードなど持っていなくても何の支障もないのだ。

 システムに300億円余をかけて住基カードの交付がわずか54万枚というのでは、1枚当たりのコストは5万5000円にもなる。ビジネスでは絶対にありえない金額だ。住基ネットは今後、多くの国民に使われるようになるのだろうか。これからもカードの交付枚数が伸び悩むなら、住基ネットは無用の長物になってしまう。

 電子政府を構築することに異論はない。しかし、現実にはさまざまな申請や届け出の手続きが、住基カードなしで電子化が進んでいる。ここでも、住基カードの交付枚数の少なさがその事実を裏付けている。

 個人情報の流出に対する不安は、いまだに払拭(ふっしょく)されていない。03年8月には総務省の調査委員会と長野県の本人確認情報保護審議会との公開討論会が開かれ、その後、住基ネットへの侵入試験も行われた。その結果、安全が確認されたというよりむしろ、市町村の端末から住基ネットに侵入される不安が強まった。また、地方自治情報センターの基本ソフトに、ウイルス事故が多発するウィンドウズが使われていることも潜在的な不安を高めている。

 すでに住基カードが交付され、システムは運用されている。それなのに裁判は続き、判断が分かれる。市町村の困惑は深まるばかりだ。費用はかかった、利用者は極端に少ない、安全性への信頼も薄い、法的にも不安定。総務省はこんなシステムをなぜ作ったのか。政策決定過程にさかのぼって、責任の検証が必要だ。

http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20050601k0000m070148000c.html