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2005年04月19日(火) 00時00分

小泉武夫の食味学 … 太平燕(たいぴーえん)読売新聞


でき上がった太平燕は春雨の中に卵、まるで燕の巣のように見える

 中国料理の中で、特殊材料を用いた超高級料理に燕窩(イェンウォ)あるいは魚翅(ユイチ)を使ったスープがある。前者は、南海の岩場の断崖に作られた乳白色のウミツバメの巣で、それ自体には味がほとんどない。後者はフカ(鱶)の鰭(ヒレ)を乾燥させたもので、これもそれ自体には味がほとんどない。しかし互いに膠質(ゼラチン)が多いので、コク味を付けるのに貢献する。また両者はとても高価で、とりわけ燕窩は昔から金(きん)と同じ価格で取り引きされてきたという。

 熊本県の家庭料理、学校給食、そして街の中華料理屋などで食べられている「太平燕」という珍しい名の料理は、明治時代後期に中国の福建省から来た中国人が熊本で広めたものとされている。

 春雨、繊切りにした豚肉あるいは鶏肉、イカ、ムキエビ、茹で卵、野菜などを炒めてから鶏ガラのスープに混ぜ合わせたもので、これは明らかにチャンポンの原形をなしている。

 チャンポンは、肉や野菜と共に小麦麺をスープに入れる汁麺系が普通だが、この太平燕では麺の代わりに春雨を使っているのがとても面白い。実は春雨は、フカ鰭の膠(こう)質腺と同じくほとんど味がないところから、これはきっとフカ鰭の代用ではないかと考えられている。

 また、太平燕にはこれまたユニークなものとして茹でた卵を油で揚げたものを添えている。実はこれも、その大きさや形、揚げた表面の肌ざわりなどから燕窩の代用ではないのか、という説もある。

 とするとこれは、中国の福建や広東の料理である「鶏絲燕液翅(チィスイェンイェチ)」(燕の巣と鶏肉の細切り入りフカ鰭スープ)に実によく似ており、つまり福建省から熊本に来た中国人は、超高価な燕窩と魚翅の代わりに鶏卵と春雨を使って、それをチャンポン形式にしたのかも知れない。

 いずれにせよ、栄養学的にみても、春雨の炭水化物、鶏卵や肉、魚介のタンパク質、各種野菜の繊維やミネラルなどが豊かにバランスよく加えられており、知恵の新興郷土料理といえる。

旅行読売2005年5月号より

http://www.yomiuri.co.jp/tabi/gourmet/fudoki/fd050503.htm